高司専務の憂鬱 (完)

白亜凛

文字の大きさ
上 下
70 / 95
◆将を射んと欲せば

天使か悪魔か 6

しおりを挟む
 そして高司家では――。

 帰ってきた颯天を、坂元が出迎えていた。

「例の件、すべて手配は完了しました」
「そうか。なんとかなりそうか?」

「ええ、歴史のある建物ですし、コンサルタントの話では高級路線に切り替えた方がいいだろうと。年明けの二月に一気に改装を進める方向になりそうです」

 颯天は満足げにうなずく。
 今から数週間前。樋口杏香の実家の老舗旅館『香る月』がどうやら経営不振に陥っているらしいと、坂元が颯天に報告した。

「よろしく頼む」

 そう答えた颯天からコートを受け取り、彼の部屋へと同行しながら、坂元は聞いてみるかどうか、迷っていた。
 なぜ、彼女にここまでするのか。

 青井光葉の件にしてもそうだ。プライベートはどうあれ、いままで通り役員と総務部の社員という接点のない立場でいれば、青井光葉に樋口杏香が目をつけられ危険な目に合わずに済んだ。

 強引に秘書にしたばっかりに、彼女は酷い目に遭う。

 なぜ、わざわざこの状況を作っているのか?
 考えられる理由は、いっそ身近に置いた方が守りやすいというくらいだが。

 どこまで本気なのだろう。

「あとひとりだよな?」
 ふいに颯天が言った。

「と、言いますと?」

「面倒な縁談だよ。ろくでもない娘を俺におしつけようとしているのは、あとひとりだろ」
「ええ、厄介な縁談となると、そうですね」

 他にも山とあるが、それらは高司家が乗り気にならない限り話は進まない。
 仕事を餌に強引に縁談を進めてこようとするのは残すところ、あとひとつ。

「ここへきて一気に整理なさるのは、どういった風の吹き回しですか?」

「ん? 年越しなんて嫌だろう。気持ちよく新年を迎えるためさ」
 颯天はそう言って、にっと笑う。

 果たして理由はそれだけなのかと疑問に思ったが、結局坂元はなにも聞かずに颯天の部屋を出た。

 彼が縁談を嫌がる理由はもっともだと思う。
 傍で見ていても気分が悪いのだから、当事者である彼がうんざりするのは至極当然だ。

 父親の権力を笠に着て、強引に颯天の妻の座を狙おうとする女性たちの性質の悪さには、ほとほと呆れるばかりだ。
 先の西ノ宮家の令嬢といい青井光葉といい、彼女たちの存在は高司家にとって百害あって一利なしである。

 そんな縁談しかないというわけではない。もちろん家柄も評判も申し分なく、美しく穏やかで頭も良いという三拍子そろった女性たちも沢山いるが、そういう女性に対しても、肝心の颯天自身が興味を示さない。

『なぁ坂元、俺の子種は定期的に冷凍保存されているって知っているか? そんなふうに生死まで管理されるんだぞ、俺にも少しは自由をくれよ』

 自嘲気味にそう笑った彼が、口で言うほど型にはめられた人生を送っているとは思えないが、それでも実際に重い足枷を不自由に感じるときもあるのだろう。

 つらつら考えながら廊下を歩き始めたところで、颯天の部屋の扉がカチャっと音を立てた。振り返ると颯天が顔を出した。

「言い忘れたが、多分杏香から連絡があると思う。状況を伝えてあげてくれ、心配ないってな」

「はい。わかりました」

 スマートフォンが振動しメッセージの着信を告げた。まるで噂を聞きつけたかのように、樋口杏香からである。

『夜分遅くにすみません。私の実家のことで、お伺いしたく。お暇なときで大丈夫ですので、お時間をとっていただけませんか』

 坂元はフッと口角をあげて微笑んだ。
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

冷淡だった義兄に溺愛されて結婚するまでのお話

水瀬 立乃
恋愛
陽和(ひより)が16歳の時、シングルマザーの母親が玉の輿結婚をした。 相手の男性には陽和よりも6歳年上の兄・慶一(けいいち)と、3歳年下の妹・礼奈(れいな)がいた。 義理の兄妹との関係は良好だったが、事故で母親が他界すると2人に冷たく当たられるようになってしまう。 陽和は秘かに恋心を抱いていた慶一と関係を持つことになるが、彼は陽和に愛情がない様子で、彼女は叶わない初恋だと諦めていた。 しかしある日を境に素っ気なかった慶一の態度に変化が現れ始める。

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【完結】溺愛予告~御曹司の告白躱します~

蓮美ちま
恋愛
モテる彼氏はいらない。 嫉妬に身を焦がす恋愛はこりごり。 だから、仲の良い同期のままでいたい。 そう思っているのに。 今までと違う甘い視線で見つめられて、 “女”扱いしてるって私に気付かせようとしてる気がする。 全部ぜんぶ、勘違いだったらいいのに。 「勘違いじゃないから」 告白したい御曹司と 告白されたくない小ボケ女子 ラブバトル開始

ハメられ婚〜最低な元彼とでき婚しますか?〜

鳴宮鶉子
恋愛
久しぶりに会った元彼のアイツと一夜の過ちで赤ちゃんができてしまった。どうしよう……。

お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~

ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。 2021/3/10 しおりを挟んでくださっている皆様へ。 こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。 しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗) 楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。 申しわけありません。 新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。 修正していないのと、若かりし頃の作品のため、 甘めに見てくださいm(__)m

処理中です...