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◆将を射んと欲せば
秘書のお仕事 12
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「ただいま」
暗い部屋に電気を点ける。
颯天と一緒に荷物を取りに帰ってきて以来の帰宅で、部屋はまるで外のように冷え切っていた。
ひとまず着替えお風呂を沸かす。
夕食はコンビニで買ってきたひとり用の鍋を、電子レンジで温めて食べた。
スイッチオンと簡単にもとの生活に戻れない。食材を補充して再び自炊生活に入るのは、もう少し元気になってからにしようと思う。
彼の部屋はいつも暖かかったせいか、なおさら寒さが堪えた。
エアコンが十分に効いてもお風呂にはいっても、鍋を食べ終えても。心を吹きすさぶ冷たい風はどうにもできない。
テレビをつけてお笑い芸人が出ているバラエティでチャンネルを止めたものの、少しも笑えなくてテレビを消す。
いろいろあって間違いなく疲れている。
とにかく寝ようと、早々にベッドに潜り込んだ。
早く起きられたら、お弁当におにぎりでも作ろう。具は梅干しとふりかけでいい。瞼を閉じてそんなことを考えたけれど、なかなか眠気は訪れない。
たった九日。されど九日。彼への想いを再認識するには十分過ぎる長い時間だったらしい。お湯を入れた湯たんぽを抱えても、彼の代わりにはならないと知った。
それでもいつしか眠りにつき、明日なんて来なくていいと思う杏香にも、朝は平等に来た。
涙で浮腫んだ瞼を蒸しタオルで直し、おにぎりを作る元気はやっぱりなくて、コンビニでサンドイッチを買い、生気のないままトボトボと出勤する。
ひとりきりの専務室にぽつんと座り、コーヒーを飲み始めたときだった。
「届け物? ですか」
都築課長からいきなり出張命令がでたのだ。
「ええ。伊東にデータを送ることも考えましたが、識別して印刷してという手間すら惜しいんです。お願いできますか?」
「――はい。わかりました」
昨日から名古屋に出張している高司専務には、男性秘書の伊東が同行している。
ところが急遽、追加資料が必要になったらしい。万全を期して臨むための秘書同行であるのに、このようなことがあるのは珍しい。だが、本来同行するはずの都築が他の仕事で行けなくなり、慌ただしい中でミスは起きてしまったようだ。
原因はともかく、杏香が資料を持参することになった。
今から新幹線で名古屋にいき、タクシーに乗り継ぎ、伊東が待つコンベンションホールに届ける。
ネットで目的地までの所要時間を検索してみても、会議の一時間前には到着できるはず。とるものもとりあえず、都築に渡された資料を持ち、杏香は駅に向かった。
向かう新幹線さえ間違わなければ、それほど心配する出張でもない。慎重に慎重を期して、乗る前に駅員にも確認し、無事新幹線に乗った。
なにしろ極度の方向音痴だ。初めて入る百貨店などはもう大変で、入った入口に戻るつもりが、まったく別の出口になり異世界トリップ状態になってしまう。そんな調子なので、滅多に乗らない新幹線に無事乗れるかどうかすら不安だったのだ。
「ふぅ」
座席に座り、ようやく肩の力が抜けた。
暗い部屋に電気を点ける。
颯天と一緒に荷物を取りに帰ってきて以来の帰宅で、部屋はまるで外のように冷え切っていた。
ひとまず着替えお風呂を沸かす。
夕食はコンビニで買ってきたひとり用の鍋を、電子レンジで温めて食べた。
スイッチオンと簡単にもとの生活に戻れない。食材を補充して再び自炊生活に入るのは、もう少し元気になってからにしようと思う。
彼の部屋はいつも暖かかったせいか、なおさら寒さが堪えた。
エアコンが十分に効いてもお風呂にはいっても、鍋を食べ終えても。心を吹きすさぶ冷たい風はどうにもできない。
テレビをつけてお笑い芸人が出ているバラエティでチャンネルを止めたものの、少しも笑えなくてテレビを消す。
いろいろあって間違いなく疲れている。
とにかく寝ようと、早々にベッドに潜り込んだ。
早く起きられたら、お弁当におにぎりでも作ろう。具は梅干しとふりかけでいい。瞼を閉じてそんなことを考えたけれど、なかなか眠気は訪れない。
たった九日。されど九日。彼への想いを再認識するには十分過ぎる長い時間だったらしい。お湯を入れた湯たんぽを抱えても、彼の代わりにはならないと知った。
それでもいつしか眠りにつき、明日なんて来なくていいと思う杏香にも、朝は平等に来た。
涙で浮腫んだ瞼を蒸しタオルで直し、おにぎりを作る元気はやっぱりなくて、コンビニでサンドイッチを買い、生気のないままトボトボと出勤する。
ひとりきりの専務室にぽつんと座り、コーヒーを飲み始めたときだった。
「届け物? ですか」
都築課長からいきなり出張命令がでたのだ。
「ええ。伊東にデータを送ることも考えましたが、識別して印刷してという手間すら惜しいんです。お願いできますか?」
「――はい。わかりました」
昨日から名古屋に出張している高司専務には、男性秘書の伊東が同行している。
ところが急遽、追加資料が必要になったらしい。万全を期して臨むための秘書同行であるのに、このようなことがあるのは珍しい。だが、本来同行するはずの都築が他の仕事で行けなくなり、慌ただしい中でミスは起きてしまったようだ。
原因はともかく、杏香が資料を持参することになった。
今から新幹線で名古屋にいき、タクシーに乗り継ぎ、伊東が待つコンベンションホールに届ける。
ネットで目的地までの所要時間を検索してみても、会議の一時間前には到着できるはず。とるものもとりあえず、都築に渡された資料を持ち、杏香は駅に向かった。
向かう新幹線さえ間違わなければ、それほど心配する出張でもない。慎重に慎重を期して、乗る前に駅員にも確認し、無事新幹線に乗った。
なにしろ極度の方向音痴だ。初めて入る百貨店などはもう大変で、入った入口に戻るつもりが、まったく別の出口になり異世界トリップ状態になってしまう。そんな調子なので、滅多に乗らない新幹線に無事乗れるかどうかすら不安だったのだ。
「ふぅ」
座席に座り、ようやく肩の力が抜けた。
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