高司専務の憂鬱 (完)

白亜凛

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◆悪魔の嫌がらせ

逃げる羊、追いかける狼 1

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 杏香が加島と空を見上げていた頃。
 颯天は右腕でデスクに肘をつき親指の先を顎にあてたまま、パソコンの画面をジッと睨んでいた。

 画面に写っているのは出張管理表。
 社内ネットワークシステムにより、社員たちの在不在がわかるようになっている。

 彼が凝視しているのは総務部の一覧で、樋口杏香の欄だ。今日から三日間横にずらりと有給休暇のマークが並んでいる。

「……」

 ふいに小さなベルの音が響いた
 デスクの上で、スマートフォンが電話の着信を告げている。

「はい」
 電話は坂元からだった。

『イチカの件ですが、お詫びにと、新規プラント建設に関わる仕事はすべて契約の運びとなりました』

「そうか」

 見合いをした翌日、西ノ宮家から縁談を断る旨の電話があったと聞いている。
 その際、西ノ宮篤子の父はとても動揺していたらしい。娘がわがままを言い出したと平謝りだったという。

『破談の理由がわかりました。どうやらお嬢さまにはほかに好きな男がいたとかで、破談にしてくれなければ死ぬと大変な騒ぎになったようです』

「へぇー」

『今回、縁談そのものがなかったという話になりました』

「ふーん」
 他人事のように間の伸びた返事をしながら、颯天はニヤリと口もとを歪める。

 坂元は高司家の主人である颯天の父の指示で動いている。信頼できる執事である彼は、父に口止めされれば、しっかりと口を閉ざす。
 相手が嫡男の颯天であってもだ。

 彼が秘密裏に動くのは当然だが、皮肉のひとつも言ってやりたくなった。

「なぁ坂元、俺がやらなくても、お前がなんとかしたんだろう?」

 少し沈黙した坂元は、あくまでシラを切った。
『――さあ、なんの話かわかりませんが』

 おそらく坂元はなにもかも知った上で、お手並み拝見というところだったのだろう。
 颯天はそうみている。

「あの女が通っているクラブのオーナーが、お前にも報告してあるって言ってたらしいがな」

『そうですか。いずれにしろ契約が上手くまとまってよかったです』

 淡々と答える坂元の返事に思わず苦笑する。

 知っていてしらばっくれたのはお互いさまか。


「それで? 俺が整理しなきゃいけない縁談はあといくつだ?」

 坂元はゆっくりと言った。

『あと、ふたつ』
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