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プロローグ
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「あ、あの……」
たまらず問いかけたが、後が続かない。
「ん?」
ほんの数センチ先にある瞳に映っている自分に気づき、樋口杏香は慌てて横を向く。
なのに彼はその顎に指先をかけて、いとも簡単に視線を奪う。
「どうした?」
蕩けるような優しい声に、ささくれ立っていたはずの心がとろとろに溶けそうだ。
彼はずるい。普段は俺様で突き放すように冷たいのに、こういうときは蜜のように甘い声で囁きかける。
それでも今夜は言うと決めてきた。唇に吸いつくようなキスをする彼の頬を指先で止め、訴える。
「せ、専務。私――」
別れたいんですと、後の言葉が続かない。
揺れる気持ちを知ってか知らずか、唇を啄むように重ねた彼はクスッと笑う。
「専務じゃないだろう?」
彼は専務と呼ばれるのを嫌う。ここは会社ではなくて、彼の部屋のベッドだから。
杏香が跨るように座っているのは椅子ではなくて、彼の腰で。猛り立つ彼の熱でふたりは繋がっている。
この状態で別れを切り出そうなんて無理だと、自分でも思う。
腰に回された腕で引き寄せられ、さらに繋がりが深くなり、杏香は思わず「はぅ」っと声を漏らした。
「だ、だから……」
彼しか知らない体は、すっかりと飼い慣らされていて。
「ん? さっきからどうした?」
からかうように腰を揺さぶられ、再び漏れそうになる声に慌て、手で口を抑えるとすかさず手首を掴まれた。
「杏香?」
さっきまでとは違う、奪われるようなキスに身悶える。
「い、いや……う、動かない、で」
快楽に抗う術を知らない自分が悲しくなる。
激しくなる律動に耐え、彼の背中にしがみつき、杏香は『どうしようもなく、あなたが好き』と心で叫ぶ。
「――き、嫌いで、す」
潤んだ瞳を覗き込むようにして、彼がフッと笑う。
長いまつ毛に縁取られた意志の強そうな切れ長の目。高い鼻梁に、誘惑を重ねる唇。なにもかもが素敵で切なくて。
「専務なんか、嫌い」
精一杯の嘘をつく。
「そうか、泣くほど俺が嫌いか?」
うなずく代わりに彼の首に手を回し、自ら唇を重ねた。
今夜が最後だと、杏香は自分に言い聞かせる。
だから、抱かれるんじゃなくて自分が彼を抱くのだと。
自ら腰を振り、誘惑するように彼を睨めつけて、負けないように。恍惚としてしまいそうになる自分を叱り、必死に耐えた。
触られないように十分腰を押しつけて。
それなのに――。
「あ、あっ……」
息も絶え絶えに遠くなる意識の中で、彼の目つきが変わるのが見えた。
「どうした? もう終わりか?」
後ろに反った上半身を支えられて、剥き出しの胸の先を舌で転がしながら、彼は笑う。
「杏香――。お前が俺を抱くなんざ、百年早い」
たまらず問いかけたが、後が続かない。
「ん?」
ほんの数センチ先にある瞳に映っている自分に気づき、樋口杏香は慌てて横を向く。
なのに彼はその顎に指先をかけて、いとも簡単に視線を奪う。
「どうした?」
蕩けるような優しい声に、ささくれ立っていたはずの心がとろとろに溶けそうだ。
彼はずるい。普段は俺様で突き放すように冷たいのに、こういうときは蜜のように甘い声で囁きかける。
それでも今夜は言うと決めてきた。唇に吸いつくようなキスをする彼の頬を指先で止め、訴える。
「せ、専務。私――」
別れたいんですと、後の言葉が続かない。
揺れる気持ちを知ってか知らずか、唇を啄むように重ねた彼はクスッと笑う。
「専務じゃないだろう?」
彼は専務と呼ばれるのを嫌う。ここは会社ではなくて、彼の部屋のベッドだから。
杏香が跨るように座っているのは椅子ではなくて、彼の腰で。猛り立つ彼の熱でふたりは繋がっている。
この状態で別れを切り出そうなんて無理だと、自分でも思う。
腰に回された腕で引き寄せられ、さらに繋がりが深くなり、杏香は思わず「はぅ」っと声を漏らした。
「だ、だから……」
彼しか知らない体は、すっかりと飼い慣らされていて。
「ん? さっきからどうした?」
からかうように腰を揺さぶられ、再び漏れそうになる声に慌て、手で口を抑えるとすかさず手首を掴まれた。
「杏香?」
さっきまでとは違う、奪われるようなキスに身悶える。
「い、いや……う、動かない、で」
快楽に抗う術を知らない自分が悲しくなる。
激しくなる律動に耐え、彼の背中にしがみつき、杏香は『どうしようもなく、あなたが好き』と心で叫ぶ。
「――き、嫌いで、す」
潤んだ瞳を覗き込むようにして、彼がフッと笑う。
長いまつ毛に縁取られた意志の強そうな切れ長の目。高い鼻梁に、誘惑を重ねる唇。なにもかもが素敵で切なくて。
「専務なんか、嫌い」
精一杯の嘘をつく。
「そうか、泣くほど俺が嫌いか?」
うなずく代わりに彼の首に手を回し、自ら唇を重ねた。
今夜が最後だと、杏香は自分に言い聞かせる。
だから、抱かれるんじゃなくて自分が彼を抱くのだと。
自ら腰を振り、誘惑するように彼を睨めつけて、負けないように。恍惚としてしまいそうになる自分を叱り、必死に耐えた。
触られないように十分腰を押しつけて。
それなのに――。
「あ、あっ……」
息も絶え絶えに遠くなる意識の中で、彼の目つきが変わるのが見えた。
「どうした? もう終わりか?」
後ろに反った上半身を支えられて、剥き出しの胸の先を舌で転がしながら、彼は笑う。
「杏香――。お前が俺を抱くなんざ、百年早い」
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