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◆俺の妻 * 尊

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『尊さんが、お金を借りに行ったお母さんを追い返したって。その証拠があるって呼び出されたの』

 聞けばうちにいた使用人が、あの男がいた病院に救急搬送されたという。
 その使用人が母に同情し色々話したらしいが、少なくとも金を借りに来たのは嘘だ。

 義母から聞いた話を聞かせると、弥衣は信じてくれた。

 数日前、叔父から聞いた母の話を弥衣に話した。

 母は浮気なんてしていなかったし、佐藤氏には母を助けてもらった恩こそあれ、俺が母を憎む筋合いなど少しもなかったんだ。

 もしかすると祖母は母への贖罪のために、俺に指輪を探すよう言ったのかもしれない。

 本当ならもう少し、もう少しだけ早く事情がわかっていれば、生前の母に会えただろう。そう思えば悔しくもあるが……。

 弥生に会えた。今はもう、それだけで十分だ。

 自由にしてやるつもりだった。

 あの男さえまともな男なら、弥衣が望む幸せならそれでいいと思ったが。

 あの男はだめだと弥衣に言い聞かせる自分の中にあったのは、燃え上がる嫉妬だと気づいた。

 あの男に殴りかかる時に。

『家族がなくなるのは、もういや』

 弥衣……。俺はお前を愛してる。もう二度と手放せないだろう。


 今日は定時で帰ると告げると、春海は『なによりです』と破顔した。

 途中、ケーキを買ってみた。

 弥衣がどんなケーキが好きかはわからない。考えてみれば、弥衣は何が好きなのか、食べ物の好みも何も俺はわからない。

 これから一つずつ覚えていこう。

 どんな趣味があって、何が好きで嫌いなのか。
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