月城副社長うっかり結婚する 〜仮面夫婦は背中で泣く〜

白亜凛

文字の大きさ
上 下
113 / 124
◆嘘でも真実でも * 弥衣

8

しおりを挟む

 嘘っ。
 優介さんを殴った。

「きゃあ」
 いや、ギリギリで部下が尊さんの腕を掴んだ。

 優介さんは逃げようとして転ぶ。

 通りがかりの通行人から、悲鳴があがり、もちろん私もハッとしたけれど、でもそれ以上になんだかうれしかった。

 尊さんの部下が彼と私を囲むように両脇につき、
 私は尊さんの前に出た。

「ごめんなさい。優介さん。私は彼と帰ります。あなたはお医者様なんですから、それくらいの怪我なんとでもなりますよね」

 優介さんの手から血が出ている。転んだ弾みで切ったんだろう。
 自分が悪いのだ。

 振り返って尊さんを見上げて「さあ行きましょう、あなた」と彼の手を取った。

「喧嘩だ」と、立ち止まる人もいるし、しまいにはスマートフォンを向ける人もいる中で優介さんも身動きがとれなかったのだろう。
 悔しそうに顔を歪めながら、背を向けて雑踏に紛れていく。


 彼のふたりの部下に見送られて、私たちはタクシーに乗る。

「いいのか?」

「何がですか?」

 もしかして優介さんのことだろうか。

「すみませんでした。もう二度と会いません。今度こそ本当に身に染みました」

 尊さんは小さく微笑む。
「大丈夫か? 腕」

「え? ああ、大丈夫です。尊さんは? 手、大丈夫ですか?」

「大丈夫だよ。殴り損ねたし」
 ハハッと笑った彼は通りに目を向けた。

 怒ってないのかな?

 会うなって言われて喧嘩になって、それでも私また会いに行っちゃったのに。
 言い訳をするにも、口にできる理由じゃない……。

 そっとスマートフォンを取り出し優介さんに関する電話もSNSも全てブロックした。

 一俊にはあとでちゃんと言おう。あさって一俊はこっちに来るから、その時話をすればいい。

 尊さんは何を思うのか、外を見つめている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

優しい愛に包まれて~イケメンとの同居生活はドキドキの連続です~

けいこ
恋愛
人生に疲れ、自暴自棄になり、私はいろんなことから逃げていた。 してはいけないことをしてしまった自分を恥ながらも、この関係を断ち切れないままでいた。 そんな私に、ひょんなことから同居生活を始めた個性的なイケメン男子達が、それぞれに甘く優しく、大人の女の恋心をくすぐるような言葉をかけてくる… ピアノが得意で大企業の御曹司、山崎祥太君、24歳。 有名大学に通い医師を目指してる、神田文都君、23歳。 美大生で画家志望の、望月颯君、21歳。 真っ直ぐで素直なみんなとの関わりの中で、ひどく冷め切った心が、ゆっくり溶けていくのがわかった。 家族、同居の女子達ともいろいろあって、大きく揺れ動く気持ちに戸惑いを隠せない。 こんな私でもやり直せるの? 幸せを願っても…いいの? 動き出す私の未来には、いったい何が待ち受けているの?

国宝級イケメンのファインダーには私がいます

はなたろう
恋愛
毎日同じ、変わらない。都会の片隅にある植物園で働く私。 そこに毎週やってくる、おしゃれで長身の男性。カメラが趣味らい。この日は初めて会話をしたけど、ちょっと変わった人だなーと思っていた。 まさか、その彼が人気アイドルとは気づきもしなかった。 毎日同じだと思っていた日常、ついに変わるときがきた?

桜のティアラ〜はじまりの六日間〜

葉月 まい
恋愛
ー大好きな人とは、住む世界が違うー たとえ好きになっても 気持ちを打ち明けるわけにはいかない それは相手を想うからこそ… 純粋な二人の恋物語 永遠に続く六日間が、今、はじまる…

長い片思い

詩織
恋愛
大好きな上司が結婚。 もう私の想いは届かない。 だから私は…

アラフォー×バツ1×IT社長と週末婚

日下奈緒
恋愛
仕事の契約を打ち切られ、年末をあと1か月残して就職活動に入ったつむぎ。ある日街で車に轢かれそうになるところを助けて貰ったのだが、突然週末婚を持ち出され……

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

じれったい夜の残像

ペコかな
恋愛
キャリアウーマンの美咲は、日々の忙しさに追われながらも、 ふとした瞬間に孤独を感じることが増えていた。 そんな彼女の前に、昔の恋人であり今は経営者として成功している涼介が突然現れる。 再会した涼介は、冷たく離れていったかつての面影とは違い、成熟しながらも情熱的な姿勢で美咲に接する。 再燃する恋心と、互いに抱える過去の傷が交錯する中で、 美咲は「じれったい」感情に翻弄される。

国宝級イケメンのキスは極上の甘さです

はなたろう
恋愛
完結、さっと読める短いストーリーです。 久しぶりに会えたのに、いつも意地悪で私をからかってばかりの恋人。キスを拒めるくらい、たまには強がってみたいけど……

処理中です...