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◆嘘でも真実でも * 弥衣
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しおりを挟む嘘っ。
優介さんを殴った。
「きゃあ」
いや、ギリギリで部下が尊さんの腕を掴んだ。
優介さんは逃げようとして転ぶ。
通りがかりの通行人から、悲鳴があがり、もちろん私もハッとしたけれど、でもそれ以上になんだかうれしかった。
尊さんの部下が彼と私を囲むように両脇につき、
私は尊さんの前に出た。
「ごめんなさい。優介さん。私は彼と帰ります。あなたはお医者様なんですから、それくらいの怪我なんとでもなりますよね」
優介さんの手から血が出ている。転んだ弾みで切ったんだろう。
自分が悪いのだ。
振り返って尊さんを見上げて「さあ行きましょう、あなた」と彼の手を取った。
「喧嘩だ」と、立ち止まる人もいるし、しまいにはスマートフォンを向ける人もいる中で優介さんも身動きがとれなかったのだろう。
悔しそうに顔を歪めながら、背を向けて雑踏に紛れていく。
彼のふたりの部下に見送られて、私たちはタクシーに乗る。
「いいのか?」
「何がですか?」
もしかして優介さんのことだろうか。
「すみませんでした。もう二度と会いません。今度こそ本当に身に染みました」
尊さんは小さく微笑む。
「大丈夫か? 腕」
「え? ああ、大丈夫です。尊さんは? 手、大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。殴り損ねたし」
ハハッと笑った彼は通りに目を向けた。
怒ってないのかな?
会うなって言われて喧嘩になって、それでも私また会いに行っちゃったのに。
言い訳をするにも、口にできる理由じゃない……。
そっとスマートフォンを取り出し優介さんに関する電話もSNSも全てブロックした。
一俊にはあとでちゃんと言おう。あさって一俊はこっちに来るから、その時話をすればいい。
尊さんは何を思うのか、外を見つめている。
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