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◆嘘でも真実でも * 弥衣

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 結婚してから、私は初めて心から泣きたくなった。

 バスルームに入ろうとする尊さんの背中に向かって「すみませんでした」とあやまる。

「名波さんとは、二度と、偶然でも会いません」
 ふり絞るようにそれだけ言って、部屋に駆け込んだ。

 ドアを閉めると途端に涙が溢れてくる。

 愛されない籠の鳥。
 別に愛してほしいわけじゃない。そんなものは最初からないとわかっていたから、悲しくもない。

 だけど、信頼されないのはつらい。

 一生懸命彼を想い、私なりに精一杯の誠意で尽くしているつもりだ。

 これもまた償いのひとつと言われたらそれまでだけれど。

 涙が止まらなかった。
 シャワーで流せないときは、泣かないって決めていたのに……。



 次の日の朝。

 アラームで目が覚めた時は瞼が重たかった。
 パチッと開かないのは泣きながら寝たからだ。

 でも、一晩寝て気持ちの切り替えはできたらしい。心はそれほど苦しくはなかった。

 泣くなんてバカバカしい。

 この結婚を受け入れる決断をした時に、私は決意をした。もっともっと辛いことがあると想像していたのに、意外過ぎるほどここまで順調だったからそれを忘れてしまっただけだ。

 感情のアンテナをしまいこんだ私は、鉄仮面を顔に張り付けて朝食の準備をした。

 みそ汁の具はなめこ。

 焼き鮭の他に、今日の付け合わせは、彩りピーマンのツナ和え。赤黄緑の三色のピーマンは彼がピーマンは嫌いらしいとわかった時に、使うのをやめて冷凍しておいたものだ。

 そう。ささやかな復讐である。

 嫌いだからと私に言わない彼が悪いのである。
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