月城副社長うっかり結婚する 〜仮面夫婦は背中で泣く〜

白亜凛

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◆嘘でも真実でも * 弥衣

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 尊さん、優しい秘書さんがいて幸せですね。

 しゃがみ込み、少しの間、そのまま彼を見つめた。

 でも、明日も仕事なのに、これじゃ疲れが取れない。
 そっとネクタイを外して、シャツのボタンも外す。上からひとつ、ふたつ、三つというところで、彼が瞼を上げた。

「あっ……。大丈夫ですか? お、お水飲んでください。置いておきますね」

「――弥衣」
「はい?」

「あの男には会うな」

 彼はそう言って瞼を閉じ、寝返りを打ってごろんと背中を向けた。

 あの男って、優介さんのこと?

「はい。わかっています――おやすみなさい」

 背中を向けると。
「わかっていて、どうして会ったんだ」と彼が言った。

 今、なんて?

 驚いて心臓が止まりかけた。
 どうして知っているの?

「あ、あれは。偶然……」

 ベッドから起き上がった尊さんは、私をジッと見る。

「二度と会うなと言ったはずだ」
「でもあれは」

「偶然会って偶然同じ店に入り、偶然一緒に食事をするのか。随分都合のいい偶然があるんだな」
「わ、私を見張っているんですか?」

「俺が悪いのか?」

 探偵にでも頼んで私の行動調査をしているの?
 ショックのあまり、痙攣するようにぴくぴくと頬が動く。

「言い訳くらい聞いてくれたっていいじゃないですか」

「男に頬を撫でられている言い訳? あいにく聞く耳はない」

 うっ、と息をのんだまま、私は動けなかった。

 立ち上がった彼は「邪魔だ。どいてくれないか」と私を見下ろし、後ろに下がった私を無視して廊下に出ていく。
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