上 下
99 / 124
◆嘘? 本当? * 弥衣

12

しおりを挟む
 寝顔を見ながら、ふと、どうでもいいことを思い出した。

 好き嫌いはないと言っていたが、彼はどうやらピーマンは好きじゃないようだ。タコとピーマンのマリネを作った次の日、ゴミ箱にピーマンだけが隠すように捨ててあった。

 その時から注意深く観察していると、ある夕食時に私は確信した。

 なんと彼は、私が席を外している間に、私のお皿にピーマンを載せ替えたではないか。

 しっかりと数を数えていたのだから間違いない。

 ドレッシングが空になってしまったので新しいドレッシングを持って席に着いた時、五個ずつ入っていたはずの酢豚のピーマンが私のお皿に二つ増えていた。

 もちろん気づかないふりをしていたが、私は笑いをこらえるのに必死だった。

 だって彼はいつものように何食わぬ顔をして食べているんだもの。

 完璧なルックスで何をしても貴族的で優雅な人が、ピーマンを食べたくないけど言えなくて、密かに私のお皿に乗せるだなんて、おもしろ過ぎる。
 かわいそうだから、青椒肉絲は作らないようにしてあげますね。

 クックと密かに笑っているうちに起こさないといけない時間になった。

 起こし方は考えてある。
 お湯でホットタオルを作り彼の目元にあててあげる。気持ちいいだろうし、目覚めはいいはずだ。
 すっきりしない朝にやってみるけれど、とっても気持ちいいから大丈夫だと思う。

 早速ホットタオルを作り、熱すぎないように手で確認して、彼のもとに行く。

 無防備な寝顔はなんだか幼く見える。
 長いまつ毛の上にそっとタオルを乗せて、少ししてから動き始めた彼に「尊さん」と声をかけた。

「朝ですよ? 大丈夫ですか? 尊さん」

 んーっと唸った尊さんは、ホットタオルに手をあてて上半身を起こし、背もたれに体を預け、タオルを顔にあてて上を向く。

「――はぁ」

「大丈夫ですか?」

「ああ。何時?」

「七時四十五分です」

 少ししてタオルを顔から取った彼に、コーヒーを渡す。

「朝食、ひと口おにぎりとお味噌汁をボトルに入れてありますから。会社で食べてくださいね」

 尊さんはいくらかすっきりしたように微笑んで「ありがとう」と言った。
 口からこぼれたというような、自然な響きに胸がキュッとなる。

 よかった。
 私、捨てられたわけじゃないのかな?


『弥衣、ごめんな』

 でも――。
 どうしたの、尊さん。夢の中で私になにを謝ったの?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

羽柴弁護士の愛はいろいろと重すぎるので返品したい。

泉野あおい
恋愛
人の気持ちに重い軽いがあるなんて変だと思ってた。 でも今、確かに思ってる。 ―――この愛は、重い。 ------------------------------------------ 羽柴健人(30) 羽柴法律事務所所長 鳳凰グループ法律顧問 座右の銘『危ない橋ほど渡りたい。』 好き:柊みゆ 嫌い:褒められること × 柊 みゆ(28) 弱小飲料メーカー→鳳凰グループ・ホウオウ総務部 座右の銘『石橋は叩いて渡りたい。』 好き:走ること 苦手:羽柴健人 ------------------------------------------

溺愛なんてされるものではありません

彩里 咲華
恋愛
社長御曹司と噂されている超絶イケメン 平国 蓮 × 干物系女子と化している蓮の話相手 赤崎 美織 部署は違うが同じ会社で働いている二人。会社では接点がなく会うことはほとんどない。しかし偶然だけど美織と蓮は同じマンションの隣同士に住んでいた。蓮に誘われて二人は一緒にご飯を食べながら話をするようになり、蓮からある意外な悩み相談をされる。 顔良し、性格良し、誰からも慕われるそんな完璧男子の蓮の悩みとは……!?

隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される

永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】 「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。 しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――? 肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

冷酷社長に甘く優しい糖分を。

氷萌
恋愛
センター街に位置する高層オフィスビル。 【リーベンビルズ】 そこは 一般庶民にはわからない 高級クラスの人々が生活する、まさに異世界。 リーベンビルズ経営:冷酷社長 【柴永 サクマ】‐Sakuma Shibanaga- 「やるなら文句・質問は受け付けない。  イヤなら今すぐ辞めろ」 × 社長アシスタント兼雑用 【木瀬 イトカ】-Itoka Kise- 「やります!黙ってやりますよ!  やりゃぁいいんでしょッ」 様々な出来事が起こる毎日に 飛び込んだ彼女に待ち受けるものは 夢か現実か…地獄なのか。

身代わりお見合い婚~溺愛社長と子作りミッション~

及川 桜
恋愛
親友に頼まれて身代わりでお見合いしたら…… なんと相手は自社の社長!? 末端平社員だったので社長にバレなかったけれど、 なぜか一夜を共に過ごすことに! いけないとは分かっているのに、どんどん社長に惹かれていって……

ハメられ婚〜最低な元彼とでき婚しますか?〜

鳴宮鶉子
恋愛
久しぶりに会った元彼のアイツと一夜の過ちで赤ちゃんができてしまった。どうしよう……。

【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました

藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。 次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。

処理中です...