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◆嘘? 本当? * 弥衣
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寝顔を見ながら、ふと、どうでもいいことを思い出した。
好き嫌いはないと言っていたが、彼はどうやらピーマンは好きじゃないようだ。タコとピーマンのマリネを作った次の日、ゴミ箱にピーマンだけが隠すように捨ててあった。
その時から注意深く観察していると、ある夕食時に私は確信した。
なんと彼は、私が席を外している間に、私のお皿にピーマンを載せ替えたではないか。
しっかりと数を数えていたのだから間違いない。
ドレッシングが空になってしまったので新しいドレッシングを持って席に着いた時、五個ずつ入っていたはずの酢豚のピーマンが私のお皿に二つ増えていた。
もちろん気づかないふりをしていたが、私は笑いをこらえるのに必死だった。
だって彼はいつものように何食わぬ顔をして食べているんだもの。
完璧なルックスで何をしても貴族的で優雅な人が、ピーマンを食べたくないけど言えなくて、密かに私のお皿に乗せるだなんて、おもしろ過ぎる。
かわいそうだから、青椒肉絲は作らないようにしてあげますね。
クックと密かに笑っているうちに起こさないといけない時間になった。
起こし方は考えてある。
お湯でホットタオルを作り彼の目元にあててあげる。気持ちいいだろうし、目覚めはいいはずだ。
すっきりしない朝にやってみるけれど、とっても気持ちいいから大丈夫だと思う。
早速ホットタオルを作り、熱すぎないように手で確認して、彼のもとに行く。
無防備な寝顔はなんだか幼く見える。
長いまつ毛の上にそっとタオルを乗せて、少ししてから動き始めた彼に「尊さん」と声をかけた。
「朝ですよ? 大丈夫ですか? 尊さん」
んーっと唸った尊さんは、ホットタオルに手をあてて上半身を起こし、背もたれに体を預け、タオルを顔にあてて上を向く。
「――はぁ」
「大丈夫ですか?」
「ああ。何時?」
「七時四十五分です」
少ししてタオルを顔から取った彼に、コーヒーを渡す。
「朝食、ひと口おにぎりとお味噌汁をボトルに入れてありますから。会社で食べてくださいね」
尊さんはいくらかすっきりしたように微笑んで「ありがとう」と言った。
口からこぼれたというような、自然な響きに胸がキュッとなる。
よかった。
私、捨てられたわけじゃないのかな?
『弥衣、ごめんな』
でも――。
どうしたの、尊さん。夢の中で私になにを謝ったの?
好き嫌いはないと言っていたが、彼はどうやらピーマンは好きじゃないようだ。タコとピーマンのマリネを作った次の日、ゴミ箱にピーマンだけが隠すように捨ててあった。
その時から注意深く観察していると、ある夕食時に私は確信した。
なんと彼は、私が席を外している間に、私のお皿にピーマンを載せ替えたではないか。
しっかりと数を数えていたのだから間違いない。
ドレッシングが空になってしまったので新しいドレッシングを持って席に着いた時、五個ずつ入っていたはずの酢豚のピーマンが私のお皿に二つ増えていた。
もちろん気づかないふりをしていたが、私は笑いをこらえるのに必死だった。
だって彼はいつものように何食わぬ顔をして食べているんだもの。
完璧なルックスで何をしても貴族的で優雅な人が、ピーマンを食べたくないけど言えなくて、密かに私のお皿に乗せるだなんて、おもしろ過ぎる。
かわいそうだから、青椒肉絲は作らないようにしてあげますね。
クックと密かに笑っているうちに起こさないといけない時間になった。
起こし方は考えてある。
お湯でホットタオルを作り彼の目元にあててあげる。気持ちいいだろうし、目覚めはいいはずだ。
すっきりしない朝にやってみるけれど、とっても気持ちいいから大丈夫だと思う。
早速ホットタオルを作り、熱すぎないように手で確認して、彼のもとに行く。
無防備な寝顔はなんだか幼く見える。
長いまつ毛の上にそっとタオルを乗せて、少ししてから動き始めた彼に「尊さん」と声をかけた。
「朝ですよ? 大丈夫ですか? 尊さん」
んーっと唸った尊さんは、ホットタオルに手をあてて上半身を起こし、背もたれに体を預け、タオルを顔にあてて上を向く。
「――はぁ」
「大丈夫ですか?」
「ああ。何時?」
「七時四十五分です」
少ししてタオルを顔から取った彼に、コーヒーを渡す。
「朝食、ひと口おにぎりとお味噌汁をボトルに入れてありますから。会社で食べてくださいね」
尊さんはいくらかすっきりしたように微笑んで「ありがとう」と言った。
口からこぼれたというような、自然な響きに胸がキュッとなる。
よかった。
私、捨てられたわけじゃないのかな?
『弥衣、ごめんな』
でも――。
どうしたの、尊さん。夢の中で私になにを謝ったの?
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