月城副社長うっかり結婚する 〜仮面夫婦は背中で泣く〜

◆うまくいかない ＊ 尊

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　タクシーを拾ってそのまま実家へ向かうと、待ちかねたように義母が門の外に出て立っていた。

「尊さん！」

　駆け寄るように来た義母に、使用人と妹が心配そうに付き添っている。義母はあきらかに混乱しているし、妹は今にも泣きそうだ。

「どうしたんですか」
「――私」

「とりあえず中に入りましょう」

　妹が「お母さん」と抱えるようにして一緒に歩いた。

　この状態では落ち着いて話ができない。

　使用人に主治医を呼ぶよう指示をして、とりあえず義母には精神安定剤を飲むようにすすめた。

　義母は父が亡くなった時から、時々薬を飲んでいる。一時は不眠症になり、カウンセラーにも通っていた。精神的に弱いのだ。

「今日は泊まりますから。話は落ち着いてからにしましょう」

「――ええ、そうね。ごめんなさい」

　まずは義母を休ませ、妹を呼んで話を聞いた。

「どうしたんだ？」

「私もよくわからないけど――。智子さんって、お兄ちゃんの本当のお母さんなんでしょう？」

「ああ、そうだよ」

「来たの。その人がここに。二カ月くらい前かな」

「え？」

「たまたま私も家にいて、途中からしか見ていないんだけど。多分、お兄ちゃんに会いに来たみたいだった。でもお母さん追い返しちゃって――」

　息を呑んだ。

　死期を悟り、母は俺に会いにきたのか？

「なんの用事だったのかは？」

「わかんない……。ごめんねお兄ちゃん」

「いいんだ。お前が謝る必要はないだろう？　気にするな」


　義母と落ち着いて話ができたのは翌日だった。

　二カ月前、うちを訪ねてきた母は、俺に会いたいと言ったそうだ。

『どうしても直接渡したいものがあるんです。大切なものだから、直接渡さなければ』

　母は、そう言っていたという。