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◆うまくいかない * 尊

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「何かご心配なことでも?」
「ん?」

 春海が心配そうに「あとにしましょうか?」と覗き込んでいた。

「ああ、いや大丈夫だ」

「ではこちら、確認をお願いします」

 会議資料の説明が済み、春海が部屋を出たのを見計らって大きく息を吐く。

 指輪のレプリカが出来る見通しがついた。

 昼休み、月城家と長い付き合いがある宝石商に会い、昨日撮った動画を見せた。
 実は大切な指輪を紛失したと説明し、レプリカを作ってほしいと頼むと、動画を確認した上で宝石商は快諾したのである。

 指輪の内側の刻印までは確認できていないが、刻印は後からでも付けられるから問題はない。

 これでひとまず安心だ。

 弥衣はもう必要ない。

 以外とあっけなかったな。

 わかっていれば無理に彼女との距離を縮める必要はなかったが、それは結果論だ。仕方がない。

 弥衣には出張と言ったが、あれは嘘だ。
 先週の休日出勤分の休みを、明日あさってと取る。

 あのまま家にいるのはどうにも気が重く、まっすぐホテルに部屋をとった。

 三日も家を空ければ、弥衣との距離もおのずと以前に戻るだろう。


 土曜の夜。
 一瞬だったが弥衣と見つめ合った。

 スタンドライトの灯りを映した彼女の瞳に吸い寄せられ、それもいいかと思った。
 キスをした勢いで、今度こそ抱いてしまうのも有りかと。

 弥衣の瞳は潤んでいてそれを受け入れていた。

 ――少なくとも最初のうちは。
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