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◆鳴かぬなら鳴かせてみよう我が妻よ * 尊
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しおりを挟むのんびり朝食をとったあと、ふたりで買い物に出かけた。
「歩き?」
「ん? イヤか?」
「いえいえ。尊さんも歩くんだなぁと思って」
「どういうイメージだ」
そういえば朝はランニングもしているかとかぶつぶつ言いながら、弥衣はひとりで照れ笑いを浮かべている。
「好きなブランドとかあるか?」
「うーん。特にないです」
それなら百貨店でいいだろう。外商に任せれば弥衣に似合うブランドを出してくれる。
「買い物したら昼だな、なにが食べたい?」
振り向くと、弥衣は目を丸くしている。
「なんだよ」
「いえ、別に……」
と、そこにスピードを上げた自転車が通り過ぎた。
慌てて弥衣を抱き寄せて「あぶねぇな」と自転車を睨むと、乗っていた少年が自転車を止めて振り返り頭を下げてまたサッと行ってしまう。
「ったくなんだあれは」
あらためて腕の中の弥衣を覗き込むと。
「大丈夫か?」
「は、はい……」
見れば体を固くして耳まで真っ赤にしている。
あ、スキンシップか、これ。
なるほど。一緒にいればこんな偶然もあるようだ。
百貨店に行き、店員に声をかけて用件を告げるとすぐに外商担当者が現れた。
普段から俺のスーツ類は任せている。今日は妻の買い物だと言うと、結婚を知らなかったと担当者は慌てたが、その目は輝いていた。
鴨がネギを背負ってきた、というところか。
「今後も何かと妻を頼む」
「お任せくださいませ」
さっきの自転車に引き続き、またとないスキンシップの機会だ。
弥衣が服を選んでいる間はタブレットPCで仕事をするつもりでいたが、服選びにずっと付き添うことにした。
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