月城副社長うっかり結婚する 〜仮面夫婦は背中で泣く〜

白亜凛

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◆.アレキサンドライトの指輪

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 男の名前は、名波優介。年齢三十三歳、職業救命救急医。
 ふたりは幼馴染で、恐らく“元”恋人同士。

 弥衣については人間関係も含め、調べてある。

 いくら指輪のためとはいえ、佐藤弥衣という女に問題があるようなら他の方法を考えなければならない。このひと月の間に調べ抜いた。

 結果はシロ。
 佐藤家は、もとは裕福な暮らしぶりだったようだ。

 弥衣は大学までずっと資産家の子息や令嬢が通う学校に通っている。
 俺と同じ青扇学園だ。

 青扇は学年を越えての交流が多い方だが、四年違うと中、高は進級ですれ違う。当時の写真を見ても、まったく記憶になかった。

 彼女は明るく人に好かれる性格なようで、仲のいい友人は多くいたらしい。真面目で、男関係の悪い噂もなく、勉強もできた。
 そのまま進めば結婚するにしろしないにしろ、明るい未来が待っていただろう。

 だが、父親の事業失敗と同時に、彼女を取り巻く環境は一転する。

 大学進学を機に、親しかったはずの友人たちとは疎遠になり、大学を卒業しても就職はせず、日銭を稼ぐようにアルバイトを掛け持ちし始めた。
 理由は母親の看病だ。

 最後のバイト先がクオーレ
 気のいい店主夫妻に可愛がられ、そこそこ美人で愛嬌もあるため店では人気者だったらしい。弥衣が働きはじめてビジネスマンの客が増えたという。

 彼女の近辺をうろつく男はふたりいる。

 母親の告別式に来ていたという借金取りの皆川と幼馴染の名波。

 皆川は金貸しの中でも比較的評判のいい男で、佐藤家に同情しあれこれ世話を焼いているようだがそれだけだ。既婚者だし、弥衣とどうこうはないらしい。

 幼馴染の名波はゆうべの男。

 現在の弥衣との関係については本人のみぞ知る。という報告だったが、昨夜の様子では恋人なんだろう。

 少なくとも弥衣はあの男が好きだ。

 恋愛に興味のない俺でもわかる。
 彼女はゆうべ、絶望の果てにいるような顔をしていた。

 “月城”弥衣の未来には、夢も希望もないというふうに。

 あれではまるで、俺が無理やり別れさせたみたいではないか。
 俺は別にあの女と結婚したいわけじゃなくて、指輪がほしいだけだというのに。

「ったく」

 迷惑な話だ。
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