月城副社長うっかり結婚する 〜仮面夫婦は背中で泣く〜

◆.アレキサンドライトの指輪

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　東京都中央区。見上げるのは十五階建ての東京本社。

　ここに来て三年経ったか。

　旧財閥系ツキシログループ関連企業、ツキシロホールディングスに異動したのは三年前。副社長に就任し一年が過ぎた。

　それまではグループ本体である月城建設にいて、海外の支社を転々としながら都市計画について学んできた。

　IoTやAIを活用し街全体を効率化するスマートシティ。あらゆるモビリティを一つのサービスとして捉えて、シームレスな移動を提供するMaaS（モビリティ・アズ・ア・サービス）。AI（人工知能）やビックデータなどの先端技術を生かし、未来型のまちづくりを目指すスーパーシティ構想。などなど。

　時の流れは待ってくれない。こうしている間にもイノベーションのあり方も見直される。
　きりがないが、今の俺に顧みる余裕はない。

　エントランスをくぐる前に立ち止まった。
　ひとつため息をつき、気を取り直してスマートフォンを手に取る。

　指を滑らせてかけた電話。
　呼び出し音が三回で止まる。

『はい。弥衣です』
「婚姻届、提出した」

『わかりました』

　抑揚のない淡々とした声に、苦笑が漏れる。
　一体どんな顔で答えているんだか。

　他に用事はないのでそのまま電話を切った。


　ゆうべ会社の前で偶然会ってから、弥衣はそのまま俺のマンションに来た。

『泊めてください』

　あのままアパートに帰れば、あの男がいるかもしれないと思ったのだろう。

　マンションには、既に弥衣の部屋が用意してある。
　合鍵も渡してあるから、住む日が一日早まったところで何の問題もない。
『好きにすれば』と答えた。

　マンションに帰ると、弥衣は部屋に籠り、それきり顔を合わせていない。

　早朝、出ていったようで、俺が起きた時にはダイニングテーブルの上に【荷物を取りに戻ります。弥衣】とメモが残されていた。

　おとなしく指輪を渡してくれさえすれば、好きな男と別れなくても済んだだろうに。

　なんだってあの指輪に固執しているんだか。