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◆みせかけの結婚 * 弥衣
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はいはい、そうですか。もういいですよ。
ムッとして口を閉じて、向かい側にいる彼の動きを見ていると、ローボードの引き出しの中から何やら取り出して、私の前のテーブルに置いた。
見ればそれは婚姻届けと朱肉とペンである。
新郎の欄には、月城尊と署名捺印が済んでいる。
「明日出しておく」
「――はい」
口は開かない代わりに目で訴えている。
『早く書け』と。
前のめりになってペンを取った私は、一度は書こうとしたが、ペンを止めた。
体勢はそのままに、上目遣いにキリキリと月城さんを睨む。
言うべきことは言わないと、この先やっていけない。
「なんなんですか、その態度」
だんまりを決め込むかと思ったけれど、彼はようやく答える気になったらしい。
目だけを動かして冷ややかに私を見返しながら、ゆっくりと口を開けた。
「君って、処女?」
はっ? しょ、処女だけど、それがなんなのよ。
そんなセクハラ発言に答える義務はないのでムッとしていると、彼はクスッとバカにしたように笑った。
「まぁ処女だろうが非処女だろうがどうでもいいけどね。処女だったら気の毒だなぁと思って」
うっ……。言葉が出ない。
「言っておくけど、結婚したら浮気は許さないよ。サレ夫とか無理だし」
「自分こそどうなんですか」
「童貞かってこと?」
「違いますっ! あなたには恋人とか愛する人はいないんですか?」
さっきの美人秘書さんとか。
「サレ夫は駄目なくせに、サレ妻はありって、ずるくないですか?」
ハハッと顎を上げて彼は楽しそうに笑う。白い歯が眩しくてますます憎たらしい。
「じゃあさ、君がはけ口になってくれるわけ?」
「――へっ?」
ムッとして口を閉じて、向かい側にいる彼の動きを見ていると、ローボードの引き出しの中から何やら取り出して、私の前のテーブルに置いた。
見ればそれは婚姻届けと朱肉とペンである。
新郎の欄には、月城尊と署名捺印が済んでいる。
「明日出しておく」
「――はい」
口は開かない代わりに目で訴えている。
『早く書け』と。
前のめりになってペンを取った私は、一度は書こうとしたが、ペンを止めた。
体勢はそのままに、上目遣いにキリキリと月城さんを睨む。
言うべきことは言わないと、この先やっていけない。
「なんなんですか、その態度」
だんまりを決め込むかと思ったけれど、彼はようやく答える気になったらしい。
目だけを動かして冷ややかに私を見返しながら、ゆっくりと口を開けた。
「君って、処女?」
はっ? しょ、処女だけど、それがなんなのよ。
そんなセクハラ発言に答える義務はないのでムッとしていると、彼はクスッとバカにしたように笑った。
「まぁ処女だろうが非処女だろうがどうでもいいけどね。処女だったら気の毒だなぁと思って」
うっ……。言葉が出ない。
「言っておくけど、結婚したら浮気は許さないよ。サレ夫とか無理だし」
「自分こそどうなんですか」
「童貞かってこと?」
「違いますっ! あなたには恋人とか愛する人はいないんですか?」
さっきの美人秘書さんとか。
「サレ夫は駄目なくせに、サレ妻はありって、ずるくないですか?」
ハハッと顎を上げて彼は楽しそうに笑う。白い歯が眩しくてますます憎たらしい。
「じゃあさ、君がはけ口になってくれるわけ?」
「――へっ?」
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