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◆みせかけの結婚 * 弥衣
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しおりを挟む相手が月城家だと知ると、多額の結納金も借金清算も当然のような顔をした。
『一部上場企業で、そこの御曹司ならそれくらい余裕だね。よかったよかった』
あまりの能天気ぶりに、真実を打ち明けてみようかと心の中の悪魔が囁いたけれど、そこは自分たちの将来のために、姉としてグッと堪えた。
もし、本当のことを言ったら一俊はどうするだろう。
あの人はあなたの血を分けたお兄さんなのよ。お母さん不倫して月城追い出されたんだって。月城の家宝の指輪ほしさに結婚してくれって言われたよと言ったら、一俊だってさすがに悩むだろう。
姉思いの弟だから、そんな結婚やめろと反対すると思う。
今ここで寝た子を起こす必要はないし、いずれ事情がわかってからでも遅くはないので、余計なことは言わないでおく。
一俊にはなんとしても医者になる夢を叶えてほしい。
それが私の夢でもあるのだから。
さて、私もそろそろ。
これから月城尊のマンションに行く。
婚姻届けにサインをして、私が住むことになる部屋を見せてもらう予定だ。
そして明日、彼が届を提出し、私はいよいよ愛のない戸籍だけの妻になる。
服装はもう決めてある。女性をあまり感じさせないようパンツスーツ。肩よりも長い髪はすっきりとひとつにまとめて化粧は控えめに。口紅の色も抑えた。
やる気満々と思われるのは癪だから、地味にいくつもり。
「行ってきます、お母さん」
母の遺影に挨拶をした。
お母さん、私、必ずお母さんの汚名を晴らしてくるからね。
いつも微笑みを絶やさなかった優しい母。でも時折、寂しそうに見えた母……。
――お父さんお母さん。一俊と私を見守ってね。
薄っすらにじんだ涙を拭い、私はアパートを出た。
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