月城副社長うっかり結婚する 〜仮面夫婦は背中で泣く〜

◆みせかけの結婚 ＊ 弥衣

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　ひと月後――。

　私と月城さんが着々と話を進めている間に、一俊は無事医学部に合格した。

　大学は関西にあり、今日は一俊の出発の日である。

「はい、お弁当、新幹線で食べて。元気でがんばってね」

「サンキュー。行ってきまーす」

　照れくさいのだろう。バイトに行くときと変わらぬ笑顔で一俊は部屋を出た。

　一俊は校舎の近くに部屋を借り、向こうで一人暮らしを始める。

　新幹線のホームでの見送りは絶対に嫌だというので、玄関先での見送りになる。スーツケースを引きながら歩く後ろ姿がもうすぐ見えなくなりそうなところで、一俊は振り返って手を上げる。

　私も精いっぱい大きく手を振り返した。

　ここまで離れてしまえば、頬を伝う涙は見えない。拭いたら泣いていることが一俊にばれちゃうから、泣きながら手を振り続けた。

　唯一の肉親、私の希望の星の弟。

　一俊元気でね、お姉ちゃんもがんばるよ。


　私が月城さん結婚する本当の理由を、一俊は知らない。

　一俊には前触れなく彼を紹介し、彼の口から説明してもらった。

『彼女とはクオーレで知り合ってね。正直言うと一目ぼれで』

　月城さんは小首を傾げて、頭に手をあてて薄っすらとはにかんだりして、私は本当に彼に一目ぼれされたのかと勘違いするほど主演男優賞並みの演技をした。

　恐ろしい。この男は本当に信用ならない奴だと私は心に刻んだけれど、一俊は無事騙されて、金持ちに一目ぼれされた姉という設定を信じたらしい。

『さすがだな姉ちゃん。いつかそんな日が来ると思ったぜ』などと調子のいいことを言った。