月城副社長うっかり結婚する 〜仮面夫婦は背中で泣く〜

◆みせかけの結婚 ＊ 弥衣

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「弟も医者目指すんだろ。五百万の借金も弟の学費も、月城なら屁でもないだろうしなー、よかったんじゃねぇのか？」

　勝手に結論を出した皆川は「だけどよ、あんた。うまい話にゃ裏がある。離婚の慰謝料の話だけは、籍入れる前にちゃんとしておけよ」と、しっかりアドバイスをしてくれた。

「しかしなぁ、月城と縁があったとはなぁ」

「お母さんですか？　驚きますよね。わたしもビックリです。聞いたことなかったから。どうして月城家と関係があったのに黙っていたんだろうって思って」

「金の無心に行かなかったのが不思議ってか？」
　フッと皆川が鼻で笑う。

「いや、それはないにしても。お母さん、お金なかったと思うんですよ。慰謝料とかもらいますよね？　離婚したときに」

「そらまぁ、なにかあったんだろうな、もらえない事情が」

　慰謝料がもらえない事情。それですよ、私が知りたいのは。

「あんたの母ちゃんに非がなくても月城がしぶって難癖付けたとかさ。金持ちは存外ケチだったりするからな。さもありなんだ。もしくは、他に金が入用だったとか。どっちにしろいい話じゃないわな」

　だから最初が肝心なんだぞ、とまた慰謝料の話を皆川は繰り返す。

　彼の目にも、母は浮気をして家を出るような女性には見えなかったんだと思う。その証拠に彼の話には、母自身が離婚の原因のようなたとえが出てこなかった。

　やっぱり変だよね、あの話……。

　そのまま車でアパートまで送ってもらい、皆川とは別れた。

「じゃあ元気でな」
「皆川さんもお元気で」

　通りを曲がる皆川の車を見送り、私はくるりと背を向けて天を仰いだ。

　思う存分大きく息を吸う。

　空は快晴、久しぶりに感じる清々しさ。体が軽くなったような気がする。

　これで私はようやく、借金と縁が切れたのだ。