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◆ 仏か魔王か * 弥衣
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しおりを挟む自分の賄い飯と、リエさんが入れてくれたコーヒーを二つ持って、皆川の席へ行く。
「はい。どうぞ」
このコーヒーは、皆川を私の恋人だと思っているリエさんの好意によるサービス。
「サンキュー。いつも悪いなぁ」
心からそう思っているのか建前なのか、この借金取りは一見すると人懐っこい風貌なので本音が見えない。
「なんだ、うまそうだなあ」
皆川は身を乗り出すようにして、私のオムライスを覗き込む。とはいえお客様に出すオムライスほど卵は使っていないので、中のチキンライスが半分見えている。
「賄いですよ。皆川さんは食べたんでしょ」
「俺は、卵トロトロっていうのが好きじゃねぇんだよな。しっかり焼いていないとなんだかすっきりしねぇんだよ」
「へえー、そーですか」
「目玉焼きもな、しっかり黄身がカチカチになってないとな」
どうでもいい卵焼き談義をしながら、私がオムライスを食べ終わるまで本題には入らなかった。一応、彼なりの心遣いなのだろう。
ごはん一粒残さず食べ終わり、コーヒーを一口飲んだ時、待っていましたとばかりに、皆川はフッと目元を細めた。
「で? どうだ」
「びっくりしないでくださいよ。あてが出来ました。来週耳をそろえて」
ぐっと親指を差し出し、私はニヤリと不敵に笑った。
「おお。そりゃお前、びっくりするなと言われても、びっくりするじゃないか。素晴らしいな。どうしたよ?」
「ええ、まぁ、いろいろと」
「へぇ、男か」
「いろいろは、いろいろですよ。来週でここを辞めますから、その時にお渡しします」
皆川は前かがみになって、身を乗り出した。
「一応言っておくが、大丈夫か? 騙されてるんじゃないだろうな。どうせ騙されるなら俺がいいとこ紹介するぞ」
「何言ってるんですか、騙されたりしていませんよ。私、結婚するんです」
「へえー、こりゃ驚いた」
フフフと不敵に笑ってみせる。
「結婚か、よかったなぁ」
「はい。よかったです」
皆川はしっかりと仕事も忘れず、私が渡した利息分を回収して帰っていった。
そう。私は結婚する。
愛されてとか、見初められてというのとはちょっと違うけれど、確かに私はプロポーズをされた。
そして、結婚する。
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