月城副社長うっかり結婚する 〜仮面夫婦は背中で泣く〜

白亜凛

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◆ 仏か魔王か * 弥衣

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「あの、申し訳ないんですが、どう言われても――」

「わかりました。正直に言いましょう」

 私の言葉をさえぎるように声を重ねた彼は、「息子なんです」と言った。

「え?」
 今なんて?

「私は、智子さんの息子なんですよ」

 ――なんですって?

 意味がわからず、彼をジッと見た。
 息子って、言ったのか。この人は?

 どうやら聞き間違いではなかったらしい。「息子ですよ」と彼は重ねて言う。

「あなたに優しかったというその女性は、まだ右も左もわからない幼児だった私を捨てて、あなたの父親のもとに走ったんです。ご存じありませんでしたか?」

「――えっと。それは……」

 笑みを浮かべていたはずの顔から表情が消えた。

 能面のような顔になった彼は、話し方までがらりと変える。

 これがこのイケメンの本来の姿?

「わかりませんか? 子供を捨てて男に走った女。それが私の実の母親、月城智子。あなたの継母、佐藤智子。というわけです」

「う、そ、ですよね?」

「これを見て頂ければわかるかと思います。どうぞ、当時の写真です」

 彼は胸ポケットから写真を取り出した。

 母が、幼稚園児くらいの男の子を抱いている。弟の一俊によく似ているけれど、母はとても若いし、背景が違う。調度品と言い部屋の雰囲気は明らかに豪邸だ。

「――本当、なんですか?」

 恐る恐る顔をあげると、彼はにこりともせずに、ゆっくりとうなずいた。

「その指輪は、代々月城家に伝わってきた大切な物なのです。嘘だと言うなら指輪の内側をご覧になってください。アルファベットで月城と刻印されていますから」

 刻印? そんなの知らない。
 指輪の内側までは見ていないからわからなけれど、もし、そうだとしても。

「だめです。――これは」
「実の息子である私にも遺品をいただく権利はあると思いますよ?」

「で、でも。母がもらったなら母のものでしょう? 私にだって権利はあります」

 ピクリと眉を動かし、目を細めテーブルをズズズと横にずらした彼は、右手を伸ばす。

「さあ、渡して」
「い、いやですよ。やめてください」
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