69 / 81
9.さよなら愛おしい人
4
しおりを挟む
「難しくはない。龍崎組から去れよ。役員を辞任するだけでいい、簡単だろ? ホームページのトップに表示させればお前の女を解放する。俺は気が短いから待っても三十分だ」
それだけ言って、清水はピッと電話を切った。
「さあて、あとはホームページを見るだけだ。楽しみだねぇ」
「それが、いったいなにになるんですか?」
「なにって、俺の気が済むんだよ。だってさ、聞いてよー小恋ちゃん。俺さ常務降ろされちゃったんだよ。あの男のせいでさ」
「なんですかそれ、専務は関係ないじゃないですか、他の会社なのに」
「俺とさ、国交省の官僚の娘の縁談があったの。あの男それを潰したんだぜ? 酷くない? 父は怒っちゃうし」
清水の話によれば、龍崎専務の店で女の子と遊んでいたのをバラされたとか。さもただ遊んでいただけのように言うが、八雲さんが言っていた薬云々の話だろう。
「自分が悪いんじゃないですか。それに専務がしたっていう証拠でもあるんですか?」
「だってそれを知っているのは『Rz』の関係者と一緒に遊んだ女の子だけだもん。女の子は言うわけないんだよ、自分もタイーホされちゃうからさ。となると龍崎じゃん。まぁぶっちゃけ誰でもいいんだよ。とにかくあいつが気に入らないの」
「そんなのただの逆恨みです」
「ふん。あいつヤクザだよ? ムジナと一緒にしないでくれる? 俺はあいつらと違って善良な一般ピーポーだからさ」
それから私は、目隠しのかわりなのか、大きなサングラスのような眼鏡を掛けさせられて、なにも見えなくなり、口を塞がれて手を後ろで縛られた。
そして、どれくらいだったのか。
数字を数えていたけれど、あまり意味がないような気がして五百くらいでやめた。
「小恋ちゃんもあんなやつの秘書になったばっかりにね。恨むならあいつを恨んで。あいつの女、ガードが固くてさ、銀座のクラブのママで櫻子っていう女と、六本木のガールズバーのアカリっていう女。ばっちりボディガードがついていて近寄れないんだよ」
櫻子にアカリ。ずっと気になっていた名前をこんな状況で知らされるとは。
「ま、俺もああいう抜け目ない女より、小恋ちゃんみたいな純情そうなカワイ子ちゃんのほうが好みなんでね」
清水が独り語りをしている間、私は後ろ手に縛られている紐を緩めていた。
『いいか? 縛られそうになったときが、肝心だ。ここに力を入れて』
ゴールデンウイーク中、私は龍崎専務から簡単な護身術を習った。
縄を緩めておいて、ここぞという時までは無言でおとなしくする。色々言い返してしまったけれど、あのくらいは言わなきゃ気持ちが治まらない。
『なにがあっても俺が必ず助けに行く。その瞬間までおとなしく待つんだ。いいな?』
専務は絶対に来てくれる。大丈夫、必ず助けてくれるから。
気持ちを落ち着けるように、ゆっくりと息を吐く。そのときに備えて。
やがて車が止まり、両腕を掴まれたままどこかに降ろされた。
とその時、キキキッと車のブレーキ音。
今だ! ここぞというときが来た!
私は咄嗟に手首の縄を抜いて、サングラスを外し、彼に言われていた通り、私を掴む男の股間を思い切り蹴り上げた。
男がうめいてうずくまる。
「小恋!」
「専務っ!」
「大丈夫か?」
「はい、大丈夫です。なんともない」
八雲さんと、もと昇竜会の社員が、清水と男たちをぐるりと取り囲むなか、サイレンの音がたくさん近づいてくる。
パトカーがくるのだ。
「け、警察? うそだろ? 俺? 俺じゃないよね? お前らなにかしたのか? 俺を巻き込むなよ」
なにを言っているんだろう、この人。
専務に抱きしめられながら、呆れていると、八雲さんが冷ややかに言った。
「バカなのか? 逮捕されるのはお前だよ、清水」
それだけ言って、清水はピッと電話を切った。
「さあて、あとはホームページを見るだけだ。楽しみだねぇ」
「それが、いったいなにになるんですか?」
「なにって、俺の気が済むんだよ。だってさ、聞いてよー小恋ちゃん。俺さ常務降ろされちゃったんだよ。あの男のせいでさ」
「なんですかそれ、専務は関係ないじゃないですか、他の会社なのに」
「俺とさ、国交省の官僚の娘の縁談があったの。あの男それを潰したんだぜ? 酷くない? 父は怒っちゃうし」
清水の話によれば、龍崎専務の店で女の子と遊んでいたのをバラされたとか。さもただ遊んでいただけのように言うが、八雲さんが言っていた薬云々の話だろう。
「自分が悪いんじゃないですか。それに専務がしたっていう証拠でもあるんですか?」
「だってそれを知っているのは『Rz』の関係者と一緒に遊んだ女の子だけだもん。女の子は言うわけないんだよ、自分もタイーホされちゃうからさ。となると龍崎じゃん。まぁぶっちゃけ誰でもいいんだよ。とにかくあいつが気に入らないの」
「そんなのただの逆恨みです」
「ふん。あいつヤクザだよ? ムジナと一緒にしないでくれる? 俺はあいつらと違って善良な一般ピーポーだからさ」
それから私は、目隠しのかわりなのか、大きなサングラスのような眼鏡を掛けさせられて、なにも見えなくなり、口を塞がれて手を後ろで縛られた。
そして、どれくらいだったのか。
数字を数えていたけれど、あまり意味がないような気がして五百くらいでやめた。
「小恋ちゃんもあんなやつの秘書になったばっかりにね。恨むならあいつを恨んで。あいつの女、ガードが固くてさ、銀座のクラブのママで櫻子っていう女と、六本木のガールズバーのアカリっていう女。ばっちりボディガードがついていて近寄れないんだよ」
櫻子にアカリ。ずっと気になっていた名前をこんな状況で知らされるとは。
「ま、俺もああいう抜け目ない女より、小恋ちゃんみたいな純情そうなカワイ子ちゃんのほうが好みなんでね」
清水が独り語りをしている間、私は後ろ手に縛られている紐を緩めていた。
『いいか? 縛られそうになったときが、肝心だ。ここに力を入れて』
ゴールデンウイーク中、私は龍崎専務から簡単な護身術を習った。
縄を緩めておいて、ここぞという時までは無言でおとなしくする。色々言い返してしまったけれど、あのくらいは言わなきゃ気持ちが治まらない。
『なにがあっても俺が必ず助けに行く。その瞬間までおとなしく待つんだ。いいな?』
専務は絶対に来てくれる。大丈夫、必ず助けてくれるから。
気持ちを落ち着けるように、ゆっくりと息を吐く。そのときに備えて。
やがて車が止まり、両腕を掴まれたままどこかに降ろされた。
とその時、キキキッと車のブレーキ音。
今だ! ここぞというときが来た!
私は咄嗟に手首の縄を抜いて、サングラスを外し、彼に言われていた通り、私を掴む男の股間を思い切り蹴り上げた。
男がうめいてうずくまる。
「小恋!」
「専務っ!」
「大丈夫か?」
「はい、大丈夫です。なんともない」
八雲さんと、もと昇竜会の社員が、清水と男たちをぐるりと取り囲むなか、サイレンの音がたくさん近づいてくる。
パトカーがくるのだ。
「け、警察? うそだろ? 俺? 俺じゃないよね? お前らなにかしたのか? 俺を巻き込むなよ」
なにを言っているんだろう、この人。
専務に抱きしめられながら、呆れていると、八雲さんが冷ややかに言った。
「バカなのか? 逮捕されるのはお前だよ、清水」
32
お気に入りに追加
290
あなたにおすすめの小説
家族愛しか向けてくれない初恋の人と同棲します
佐倉響
恋愛
住んでいるアパートが取り壊されることになるが、なかなか次のアパートが見つからない琴子。
何気なく高校まで住んでいた場所に足を運ぶと、初恋の樹にばったりと出会ってしまう。
十年ぶりに会話することになりアパートのことを話すと「私の家に住まないか」と言われる。
未だ妹のように思われていることにチクチクと苦しみつつも、身内が一人もいない上にやつれている樹を放っておけない琴子は同棲することになった。
ネカフェ難民してたら鬼上司に拾われました
瀬崎由美
恋愛
穂香は、付き合って一年半の彼氏である栄悟と同棲中。でも、一緒に住んでいたマンションへと帰宅すると、家の中はほぼもぬけの殻。家具や家電と共に姿を消した栄悟とは連絡が取れない。彼が持っているはずの合鍵の行方も分からないから怖いと、ビジネスホテルやネットカフェを転々とする日々。そんな穂香の事情を知ったオーナーが自宅マンションの空いている部屋に居候することを提案してくる。一緒に住むうち、怖くて仕事に厳しい完璧イケメンで近寄りがたいと思っていたオーナーがド天然なのことを知った穂香。居候しながら彼のフォローをしていくうちに、その意外性に惹かれていく。
隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される
永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】
「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。
しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――?
肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
隠れドS上司の過剰な溺愛には逆らえません
如月 そら
恋愛
旧題:隠れドS上司はTL作家を所望する!
【書籍化】
2023/5/17 『隠れドS上司の過剰な溺愛には逆らえません』としてエタニティブックス様より書籍化❤️
たくさんの応援のお陰です❣️✨感謝です(⁎ᴗ͈ˬᴗ͈⁎)
🍀WEB小説作家の小島陽菜乃はいわゆるTL作家だ。
けれど、最近はある理由から評価が低迷していた。それは未経験ゆえのリアリティのなさ。
さまざまな資料を駆使し執筆してきたものの、評価が辛いのは否定できない。
そんな時、陽菜乃は会社の倉庫で上司が同僚といたしているのを見てしまう。
「隠れて覗き見なんてしてたら、興奮しないか?」
真面目そうな上司だと思っていたのに︎!!
……でもちょっと待って。 こんなに慣れているのなら教えてもらえばいいんじゃないの!?
けれど上司の森野英は慣れているなんてもんじゃなくて……!?
※普段より、ややえちえち多めです。苦手な方は避けてくださいね。(えちえち多めなんですけど、可愛くてきゅんなえちを目指しました✨)
※くれぐれも!くれぐれもフィクションです‼️( •̀ω•́ )✧
※感想欄がネタバレありとなっておりますので注意⚠️です。感想は大歓迎です❣️ありがとうございます(*ᴗˬᴗ)💕
一夜限りのお相手は
栗原さとみ
恋愛
私は大学3年の倉持ひより。サークルにも属さず、いたって地味にキャンパスライフを送っている。大学の図書館で一人読書をしたり、好きな写真のスタジオでバイトをして過ごす毎日だ。ある日、アニメサークルに入っている友達の亜美に頼みごとを懇願されて、私はそれを引き受けてしまう。その事がきっかけで思いがけない人と思わぬ展開に……。『その人』は、私が尊敬する写真家で憧れの人だった。R5.1月
【完結】溺愛予告~御曹司の告白躱します~
蓮美ちま
恋愛
モテる彼氏はいらない。
嫉妬に身を焦がす恋愛はこりごり。
だから、仲の良い同期のままでいたい。
そう思っているのに。
今までと違う甘い視線で見つめられて、
“女”扱いしてるって私に気付かせようとしてる気がする。
全部ぜんぶ、勘違いだったらいいのに。
「勘違いじゃないから」
告白したい御曹司と
告白されたくない小ボケ女子
ラブバトル開始
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる