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8.極道ということ
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週が明けて、龍崎専務が無事出社した。
「おはようございます」
「おはよう」
「体調のほうはどうですか?」
顔色はいい。どこも変わった様子もなくて、見た目には元気そうだ。
「ああ。もう大丈夫だ」
「ご無理はなさらないでくださいね」
うなずきながら、専務はクスッと笑った。
「ロールキャベツ、美味かったぞ」
八雲さんたちが全部食べてしまったと聞いたので、実彩子ちゃんの家でロールキャベツを作りアキラ叔父さんに届けてもらったのだ。
胃袋を掴む作戦ねと実彩子ちゃんは笑ったけれど、それでも反対はされなかった。あの状況でも逃げ出さなかった私に、ちょっと驚いたらしい。
それでもやっぱり泣いてしまって東雲さんに帰れと叱られた話をすると、実彩子ちゃんは声をあげて笑った。『あの人は、そこがいいのよ』と。
「ありがとな」
専務の甘い眼差しは、おいで抱きしめてあげるからとささやいているように見える。
このまま甘えて膝の上に座ったら、もしかしたらキスもしてくれるかもしれない。想像だけで体が火照ってくる。
でもそんな誘惑につられたら、今度こそ東雲さんにこの会社を追い出されてしまうだろう。
「いーえ。どういたしまして」
あえて明るく答えた。
「それでは、スケジュールの確認をさせていただきますね。いろいろと変更がありますのでこちらをご覧ください」
私は龍崎専務の秘書だ。こんなときこそ、しっかり仕事をしなければいけない。
知らなかった世界を見て、私たちの距離が遠くなるかと心配だったけれど、今はそうは思っていない。
会えない間もTV電話で話をしたし、メッセージのやりとりもできたから、彼が順調に回復しているとわかっていたし、寂しくもなかった。
事件についても彼やアキラ叔父さんが教えてくれた。
彼を襲った犯人は三人。現在足取りを追っている最中らしい。
龍崎組は今週の金曜日に多数の来賓を招いて創立五十周年記念パーティを執り行う。
そこで龍崎専務がスピーチをする。次期代表としての存在感をしっかりと植え付けるはずだ。
なんとしてもパーティを成功させなきゃいけない。
そのためにも東雲さんたちは慎重に調べているようだ。
警察にもちゃんと知らせているようで、私はてっきり秘密だと思っていたからちょっと驚いたけれど、組を解散するときから相談にのってもらっている馴染みの刑事さんがいるらしい。
他にも現役の極道の人たちにも協力してもらっているという。彼らからすると、龍崎専務は一般社会へと道を開いてくれる大切な存在だとか。恩を感じている人が多いのだそうだ。
そして、大きな動きがないまま創立記念パーティを迎えた。
セキュリティは万全だ。刑事さんやたくさんの警備員が来賓のなかに紛れ込んでいる。
今日の私は忙しい。
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