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6・止められない
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龍崎専務はスーツを着ていて、同じようにスーツを着ている男性ふたりと話をしている。
慌てて高村さんの陰に隠れようとしたけれど時すでに遅し。
振り返った専務と目が合った。
でもそれはほんの一瞬で、専務はそのまま高村さんをちらりと見て、一緒にいる男性たちとの会話に戻っていく。
距離はここから一〇メートルくらい。
エレベーターに乗るには専務のうしろを通らなければならない。このまままっすぐ歩くと、さらに接近して一メートルくらいになるだろう。
龍崎専務のスケジュールでは取引先と会う場所はその会社だったはず。このホテルへは、食事がてら移動してきたのだろうか。
私の心はすっかり、龍崎専務の後ろ姿に捕らわれて、体は裳ぬけの殻のようになった。
なにも知らない高村さんは話を続けている。
「ここのデザートビュッフェすっごく美味しいらしいですよ」
「そうですか。それは楽しみです」
口だけは義務的に動くけれど。
――泣きたい。
私と龍崎専務は一夜だけの関係。
専務の心を動かせなかった。
あの後の、なにもない一週間でわかったいたじゃない。
私が男の人と会っていても。専務は不愉快に思うどころか、むしろホッとしているのかも……。
今日は家政婦の仕事の日だ。
夕方には専務の部屋に行き、連休中困らないよう作り置きの用意を頼まれている。
専務の帰りは夜七時の予定。それまでに済ませてしまえば、顔を合わせたりもしない。
そんなことを考えながら、龍崎専務のすぐ後ろを通り過ぎた。
専務の香りが感じられるほど近く。
私はすべての神経を視界の隅に集中していたけれど、通り過ぎるまで、龍崎専務は一度も振り返らなかった。
慌てて高村さんの陰に隠れようとしたけれど時すでに遅し。
振り返った専務と目が合った。
でもそれはほんの一瞬で、専務はそのまま高村さんをちらりと見て、一緒にいる男性たちとの会話に戻っていく。
距離はここから一〇メートルくらい。
エレベーターに乗るには専務のうしろを通らなければならない。このまままっすぐ歩くと、さらに接近して一メートルくらいになるだろう。
龍崎専務のスケジュールでは取引先と会う場所はその会社だったはず。このホテルへは、食事がてら移動してきたのだろうか。
私の心はすっかり、龍崎専務の後ろ姿に捕らわれて、体は裳ぬけの殻のようになった。
なにも知らない高村さんは話を続けている。
「ここのデザートビュッフェすっごく美味しいらしいですよ」
「そうですか。それは楽しみです」
口だけは義務的に動くけれど。
――泣きたい。
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専務の心を動かせなかった。
あの後の、なにもない一週間でわかったいたじゃない。
私が男の人と会っていても。専務は不愉快に思うどころか、むしろホッとしているのかも……。
今日は家政婦の仕事の日だ。
夕方には専務の部屋に行き、連休中困らないよう作り置きの用意を頼まれている。
専務の帰りは夜七時の予定。それまでに済ませてしまえば、顔を合わせたりもしない。
そんなことを考えながら、龍崎専務のすぐ後ろを通り過ぎた。
専務の香りが感じられるほど近く。
私はすべての神経を視界の隅に集中していたけれど、通り過ぎるまで、龍崎専務は一度も振り返らなかった。
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