龍崎専務が誘惑する

白亜凛

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5.パンドラの箱

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 やがて車が止まり、ドアが開く音がした。

 マンションに着いたのだ。

 今度は専務が開けてくれるのを待たずに、自分から外へ出た。

「お疲れ様でした」

「お疲れ」

 十時を過ぎたマンションのロビーは人影もない。

「それじゃ、おやすみなさい。失礼します」

 専務は高層階専用のエレベーター。私は低層階用のエレベーター。ボタンを押すと扉はすぐに開く。足早に箱の中に入り階数ボタンを押した。

 もう限界だった。閉じてゆく扉が涙腺を緩めていくように、堪えていた涙があふれ出す。もう涙を我慢しなくていい。

 両手で顔を覆い嗚咽に耐えていると、エレベーターが動いていないと気づいた。

 うまくボタンを押せていなかったのかと顔をあげると。

 え?

 龍崎専務が扉に手を掛けている。

「今日はまだ終わってないぞ」

「……専務?」

「妻になるんだろ?」

 手を引かれて高層階用のエレベーターに乗り、専務の部屋に入るまで、涙が頬を濡らしたのも忘れて、私はただバカみたいに専務を見上げていた。

 玄関に入って扉が閉じて、いきなり唇を重ねられた時。

 一度は止まったはずの涙がまたあふれた。

「泣くなよ」

「だって」

「泣いたって、もう止めてあげないぞ」

 抱き上げられときもまだ、なにがなんだかわからなかった。

 ただ夢中でしがみついて、私がいつも整えているベッドに下ろされて、髪を撫でられて。

 熱い眼差しで見つめられて。

「専務……好きです」

 だから抱いて、私を抱いて。

 何度も何度もキスをしながら、ずっと心で叫んでいた。好きです。どうしようもないほど。

 気持ちはそうでも私の体は怯えたままで。

 怖くなると、専務は優しいキスをしてくれた。

「怖いか?」

 首を左右に振ると「震えているくせに」とクスッと笑う。

 じゃあこうしようと唇を重ねたまま、指を這わせる専務に思わず目を剝いた。

「なんだ」

「あ、な、なんでもないです。なんかちょっと恥ずかしくて」

 だって、どんな顔をしているか見られちゃう。

 クスッと笑った専務は、あらためて私の顎に手をかけて、キスをするのかと思いきや、耳に息を吹きかけられた。

「ひゃ」

 思わずブルブルと震えてしまう。

 龍崎専務はといえば、私の反応なんて無視なのか、今度は耳たぶを舐めてきた。

「あ、あっ、せ、専務」

 いいようのない快感が、体を走り抜けた。

 い、今のは、なに。

「暁大だ」

 え?

「専務とか呼ばれると、セクハラしているみたいだろ?」

「あ――。暁大さん」

「それでいい」

 満足そうに目を細めた専務は、今後は唇にキスをする。

 でも、今までのキスとは違っていた。歯をなぞるように動いた舌が咥内へと入ってくる。

 舌を絡め取られて、吸われて、声が漏れる。

「ん、……っ、あ」
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