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4.バレたついでの極妻もどき
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「どうしよう専務、熱が高いです」
解熱剤と水を渡しながら、ショックで体が震えた。
救急車を呼んだほうがいいのか東雲さんに連絡したほうがいいのか。本当に風邪かどうかもわからないのに。
「東雲さんに電話しましょうか」
「いいよ、大丈夫だ、一晩寝れば下がるから」
息が荒いのに、専務はフッと笑顔を見せる。
「こら、泣くな。しょうがないなぁ」
かわいそうで、いたたまれなくて、いつの間にか涙が滲んでいたらしい。
彼が布団から手を出して、指先で涙を拭ってくれた。
「だって、専務……」
「平気だから。帰っていいぞ」
「はい。やることが終わったら帰りますから、気にしないで寝てくださいね」
かわいそうな専務。いつから体調が悪かったのか、相当無理をしたに違いない。
瞼を閉じると、そのまま落ちるように寝てしまった。
そのまま私は専務の荒い息が少し落ち着くのを見届けて、キッチンに戻った。
調理中だった料理は、消化の良さそうなものに変更する。
鶏の南蛮漬けの予定だった鶏肉は蒸し鶏にして、出汁はそのままお粥に。ゆで卵で煮卵の作り置きをする。
ある程度仕上がったところで手を止め、専務の様子を確認して、急いでコンビニに行ってヨーグルトやスポーツドリンクなどを買ってきた。
家政婦としての仕事はすべて終わった。
あとは冷蔵庫で冷やしたタオルと取り換えながら、専務の様子を見守るだけ。
時計を見れば、十時過ぎを回っていた。
呼吸は落ち着いてきているけれども、なにかあったらと思うと心配で離れられない。
ねぇ専務。こんな時に呼ぶ人はいないの?
前に電話で赤ちゃんの話をしていた相手は、どんな人なんですか。その人に連絡しないの? 私、帰らなきゃだめ? ここにいてもいい?
ごめんなさい、専務。
私が一番近くにいるのに、こんなになるまで気づかなくて。
もっとスケジュール管理をできていたら、こうはならなかった。膝枕をしたあの頃にはすでに分刻みだったのに。
東雲さんに、ひと言でいいから相談していれば未然に防げたかもしれない。
ほんと情けない。秘書として失格だ。
込み上げる涙に耐え、身を乗り出してベッドの上に上半身を横たえた。
フカフカの羽毛布団だ。
ベッドはとっても大きくて、私がこうしていても専務の邪魔にならない。
だから、ちょっとだけ。もう少し。
そう思ううち瞼は重たくなって、私はすっかり眠りについていた。
解熱剤と水を渡しながら、ショックで体が震えた。
救急車を呼んだほうがいいのか東雲さんに連絡したほうがいいのか。本当に風邪かどうかもわからないのに。
「東雲さんに電話しましょうか」
「いいよ、大丈夫だ、一晩寝れば下がるから」
息が荒いのに、専務はフッと笑顔を見せる。
「こら、泣くな。しょうがないなぁ」
かわいそうで、いたたまれなくて、いつの間にか涙が滲んでいたらしい。
彼が布団から手を出して、指先で涙を拭ってくれた。
「だって、専務……」
「平気だから。帰っていいぞ」
「はい。やることが終わったら帰りますから、気にしないで寝てくださいね」
かわいそうな専務。いつから体調が悪かったのか、相当無理をしたに違いない。
瞼を閉じると、そのまま落ちるように寝てしまった。
そのまま私は専務の荒い息が少し落ち着くのを見届けて、キッチンに戻った。
調理中だった料理は、消化の良さそうなものに変更する。
鶏の南蛮漬けの予定だった鶏肉は蒸し鶏にして、出汁はそのままお粥に。ゆで卵で煮卵の作り置きをする。
ある程度仕上がったところで手を止め、専務の様子を確認して、急いでコンビニに行ってヨーグルトやスポーツドリンクなどを買ってきた。
家政婦としての仕事はすべて終わった。
あとは冷蔵庫で冷やしたタオルと取り換えながら、専務の様子を見守るだけ。
時計を見れば、十時過ぎを回っていた。
呼吸は落ち着いてきているけれども、なにかあったらと思うと心配で離れられない。
ねぇ専務。こんな時に呼ぶ人はいないの?
前に電話で赤ちゃんの話をしていた相手は、どんな人なんですか。その人に連絡しないの? 私、帰らなきゃだめ? ここにいてもいい?
ごめんなさい、専務。
私が一番近くにいるのに、こんなになるまで気づかなくて。
もっとスケジュール管理をできていたら、こうはならなかった。膝枕をしたあの頃にはすでに分刻みだったのに。
東雲さんに、ひと言でいいから相談していれば未然に防げたかもしれない。
ほんと情けない。秘書として失格だ。
込み上げる涙に耐え、身を乗り出してベッドの上に上半身を横たえた。
フカフカの羽毛布団だ。
ベッドはとっても大きくて、私がこうしていても専務の邪魔にならない。
だから、ちょっとだけ。もう少し。
そう思ううち瞼は重たくなって、私はすっかり眠りについていた。
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