龍崎専務が誘惑する

白亜凛

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4.バレたついでの極妻もどき

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「なんだ、どうした?」

 書類をデスクに置きコーヒーカップに手を伸ばしながら、私にちゃんと顔を向けてくれる専務を、質問責めにしたい。

 でも、悲しいかな専務にとって私はただの部下だ。プライベートを聞く権利はないのでなにも言い出せない。

「なんだかずっと忙しいみたいですが、大丈夫ですか?」

「ダメだ」

「えー、どうしましょう」

 クスクス笑いながら、コーヒーカップをテーブルに置いた専務は時計を見る。

「次の会議まで、あと三十分は時間あるな」

「はい」

 おもむろに立ち上がった専務は、扉を開けて廊下側のドアノブに『会議中』の札をかける。

「小恋、膝貸して」

「えっ?」

 長椅子に移動した専務は座面をポンポンと叩く。

 私に座れと言うことなのだろう。

 仕方なく座ると、専務は上着を脱いで、ごろんと横になった。頭は私の膝の上、長い脚は椅子からはみ出ている。

「十五分経ったら起こしてくれ」

「は、はい」

 って、え? 私十五分どーしたらいいんですか?

 口の中で抗議して、心では十五分じゃ足りないですよとささやいた。

 よほど眠かったのか、ものの見事に眠りに落ちた専務の呼吸が、寝息に変わる。

 長いまつげが落とす影。

 睡眠不足なんだろうなぁ。これじゃ気絶だよ……。

 かわいそうにと思いながら寝顔を見ていると、愛おしさが込み上げ抱きしめたくなってくる。

 目の毒だと思いながらも、目が離せない。

 それでもがんばって視線を剥がし、ポケットからスマートホンを取り出した。

 精がつく料理を作ってあげないと。

 あれこれ料理サイトを見ているうちに、あっという間に十五分が経った。

 スマートホンをずらしてチラリとみると、専務はまだ熟睡している。会議は社内の営業部の会議。五分もあればいける。もう少し、ギリギリまで寝させてあげたいと思ったところで、専務が薄っすらと目を開けた。

 おーっと。

「何分経った?」

「ちょうど、十五分です」

「そっか」

 おもむろに起き上がった専務は、テーブルの上に起きっぱなしの冷えたコーヒーに手を伸ばす。

「あ、新しいの入れますよ」

「いや大丈夫。冷えてたほうがいい」

 ごくごくと残っていたコーヒーを飲んで、ふぅと息を吐く。

「楽になりました?」

「ああ。サンキュ」

 立ち上がるついでのように、私の唇にキスをした専務は、そのまま扉に歩きドアノブの札を取ってデスクに向かう。

 まるで、なにもなかったように書類に目を落とす。

 だ、だから、なんでキスするんですかっ?

 聞きたいけど聞けなくて、私は空になったカップを手に専務室を出た。

 専務にとってのキスは、挨拶のようなものなの?

 どういう感覚よ。イタリアのマフィアのとこにでも修行に行っていたとでもいうの。

 頭の中は疑問だらけのまま誰にも聞けず、気づけば私は専務に三度目の唇を奪われたのだった。
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