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3.飼うならかわいい猫がいい
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振り返った龍崎さんがニヤリと口角を上げる。
「黒猫が、こんなところまで迷い込んでくるとはな」
「あ、あ」
あなたは、ヴァンパイア!
一歩一歩と近づいてきた彼は、這いつくばっている私の前にしゃがみこんだ。
「お前だって気づかなければ、家政婦のままでよかったんだがなぁ」
言葉遣いも表情も、さっきまでとはガラリと違う。
私の顎に指を掛けて片方の眉尻をあげた彼は、ニヤリと口角を歪める。
「相変わらず、ぷっくりと柔らかい、いい唇だ」
すっと近づく顔。あれ、え?
んっ!
「な、なにを」
キ、キスされた?
「冗談だよ」
へっ? キ、キスって冗談でするものですか?
「あれから、いい子にしていたのか?」
固まる私の頭をポンポンと軽く叩く。
「ん?」
首を傾げる龍崎さんに、思わず「い、いい子にしてました」と答える。
な、なに言ってんだ、私。
「よし。かわいがってあげるから、せいぜいがんばれよ」
は、はあ?
「背中の龍のことを知っている秘書は、東雲と八雲のふたりしかいない。いいか、絶対に秘密だぞ」
彼は人差し指で、私の鼻先をトントンと叩く。
「わかったか?」
「は、はい」
立ち上がった彼は、ベルトを緩めながらロッカーに向かう。
それを目で追っていた私は仰天して、床に目を落とした。
今なにが起きた?
冗談でキス。冗談で。
ぷっくりと柔らかい、いい唇?
龍崎専務はヴァンパイアだ。混乱して状況がうまくのみ込めないが、あの入れ墨は間違いなく――。龍崎組は極道のフロント企業なの? 嘘、一流なのに?
「言っとくが、ここはヤクザのフロント企業ってわけじゃないぞ」
ハッとして振り返ると、まだ着替え途中の龍崎専務と目が合って、慌てて床磨きに戻った。
「説明してやるよ」
「あ、は、はい」
お願いします。どうか理解できるように教えてください。
「俺はもともと昇竜会という極道の跡目を継ぐ予定だった。当時の組長は俺の祖父。俺の母はひとり娘でな。父は極道とは関係ない。父方の実家は土建屋だった。それを父が一代でここまで大きくした」
返事をしたらいいのかどうかわからず、私はただ彼の話に耳を傾けた。
「俺には妹がいて、妹がここ龍崎組を継ぐ予定だった。ところが七年前、祖父が昇竜会を解散すると言い出した。こんな時代だ。極道の看板背負って生きていくのは大変だからな。所帯持ちだの子供がいたりすると特に」
なるほどと、思わずうなずいてしまう。
極道の親だって、子どもにはごく普通でいてほしかったりするだろう。よくは知らないけれど、多分。
「黒猫が、こんなところまで迷い込んでくるとはな」
「あ、あ」
あなたは、ヴァンパイア!
一歩一歩と近づいてきた彼は、這いつくばっている私の前にしゃがみこんだ。
「お前だって気づかなければ、家政婦のままでよかったんだがなぁ」
言葉遣いも表情も、さっきまでとはガラリと違う。
私の顎に指を掛けて片方の眉尻をあげた彼は、ニヤリと口角を歪める。
「相変わらず、ぷっくりと柔らかい、いい唇だ」
すっと近づく顔。あれ、え?
んっ!
「な、なにを」
キ、キスされた?
「冗談だよ」
へっ? キ、キスって冗談でするものですか?
「あれから、いい子にしていたのか?」
固まる私の頭をポンポンと軽く叩く。
「ん?」
首を傾げる龍崎さんに、思わず「い、いい子にしてました」と答える。
な、なに言ってんだ、私。
「よし。かわいがってあげるから、せいぜいがんばれよ」
は、はあ?
「背中の龍のことを知っている秘書は、東雲と八雲のふたりしかいない。いいか、絶対に秘密だぞ」
彼は人差し指で、私の鼻先をトントンと叩く。
「わかったか?」
「は、はい」
立ち上がった彼は、ベルトを緩めながらロッカーに向かう。
それを目で追っていた私は仰天して、床に目を落とした。
今なにが起きた?
冗談でキス。冗談で。
ぷっくりと柔らかい、いい唇?
龍崎専務はヴァンパイアだ。混乱して状況がうまくのみ込めないが、あの入れ墨は間違いなく――。龍崎組は極道のフロント企業なの? 嘘、一流なのに?
「言っとくが、ここはヤクザのフロント企業ってわけじゃないぞ」
ハッとして振り返ると、まだ着替え途中の龍崎専務と目が合って、慌てて床磨きに戻った。
「説明してやるよ」
「あ、は、はい」
お願いします。どうか理解できるように教えてください。
「俺はもともと昇竜会という極道の跡目を継ぐ予定だった。当時の組長は俺の祖父。俺の母はひとり娘でな。父は極道とは関係ない。父方の実家は土建屋だった。それを父が一代でここまで大きくした」
返事をしたらいいのかどうかわからず、私はただ彼の話に耳を傾けた。
「俺には妹がいて、妹がここ龍崎組を継ぐ予定だった。ところが七年前、祖父が昇竜会を解散すると言い出した。こんな時代だ。極道の看板背負って生きていくのは大変だからな。所帯持ちだの子供がいたりすると特に」
なるほどと、思わずうなずいてしまう。
極道の親だって、子どもにはごく普通でいてほしかったりするだろう。よくは知らないけれど、多分。
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