龍崎専務が誘惑する

白亜凛

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3.飼うならかわいい猫がいい

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 龍崎専務――龍崎さんではなく、今日から彼を呼ぶときは龍崎専務にしなくちゃいけない。社長も同じ龍崎だから気をつけなくちゃ。

 そのまま午前中は慌ただしく過ぎた。

 総務部に行って入社の手続きをして社内規定の説明を受けたり、様々なシステムの使い方を教えてもらったり、こまごまと覚えなきゃいけない事柄が山とあった。

 ホッとひと息ついたお昼休み。

 部屋の隅に置いてあるコーヒーメーカーでコーヒーを落としてみた。
 自分でも好きな時に飲んでいいというからありがたい。

 狭い部屋は、たちまちのうちに芳しいコーヒーの香りに包まれる。

 ひと息ついてから、持ってきたお弁当を広げる。ゆで卵のサンドイッチを八枚切りの食パン二枚分だけ持ってきた。食べ過ぎで午後眠くならないためにも、これくらいでちょうどいい。

 コーヒーは普通に美味しい。
 このコーヒーを、今後は朝と午後三時に龍崎専務に出すのかと思うと、なんだかまたちょっと緊張してくる。

 そういえば龍崎さんは、私が採用になったと知っているのかな?

 もしかして知らなかったりして……。

 いやまさか、普通に考えて確認なしに採用はない。氷室さんも龍崎さんには了解を得ていると言っていたんだから。

 でも、それならどうしてあのとき、私に直接、龍崎組の募集を教えてくれなかったんだろう。

 ひとつの引っ掛かりがぞわぞわと不安を呼び、闇から這い出るようにして心の中で増殖していく。考えれば考えるほど心配になってきて、それからはずっと蛇の生殺しのような気分だった。

 食事は喉を通らないし、夜もなかなか寝つけない。

 あくる朝は、寝覚めからもう最悪のコンディション。目の下にははっきりとしたクマ。蒸しタオルとコンシーラーでなんとかごまかしたものの、寝不足でクラクラする。

 この状態で歩くのはつらいと思って地下鉄に乗ったら、押し合いへし合いの人いきれに酔ってさらに調子が悪くなってしまった。

 これならゆっくり歩いてきたほうが、まだましだっただろうに。

 よれよれになって会社に辿り着いたときには、もう虫の息。

「あぁ、もうだめ。しぬ……」

 着いてそうそう、デスクに突っ伏した。

 くっそぉ、体力には自信があったのに、通勤ラッシュを舐め過ぎた。

 でも、出勤した自分を褒めてあげたい。
 よくがんばった、えらいよ、私。

「はぁ」

 コンコン。

 ノックの音にぎょっとして振り返ると、専務室に続く扉が開いていて――。

 あっ、龍崎さん!

 彼は開いた扉に手をかけて見下ろしていた。
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