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◆重なる点と線
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しおりを挟む右崎のそんな心配を知るはずもないだろうが、さらに時計の長針が一八〇度回転しても、アキラも戻らず、ローズさんも現れなかった。
アキラが戻ってきたのは、それから一時間後。出かけてから二時間ほど経過した夜の八時過ぎだった。
客がいなければ話もできるが、こんなときに限って引きも切らずに次々と来る。
そして、ようやく待ち人も現れた。
ローズさんだ。
店に入って来た彼女はいつものように奥の席には行かず、なぜかカウンターの中央に腰を下ろした。
どこか不安気な様子で、視線を泳がせながら注文する声も小さい。
「グラスワインと、おつまみの盛り合わせを……」
右崎の記憶によれば、以前にも一度だけ彼女はその注文をしたことがある。でもそれはもっと遅い時間のときだった。
「食事はとられたのですか?」
滅多に客には声をかけない右崎がそう聞くと、彼女は左右に首を振る。
「あまり食欲がなくて」
「胃腸の調子は?」
「体調が、悪いわけではないんですが……」
右崎は努めて明るく微笑んだ。
「そうですか、わかりました」
この店のメニューは定番のチーズ、ソーセージやミックスナッツ以外のメニューは少ない。
おつまみの盛り合わせも、おまかせディナーと同じようになにが出てくるか客はわからないという、右崎のわがままなこだわりを通している。
その日その日でどの客に出すものも同じだが、今回に限り彼女のメニューは特別に変えようと右崎は思った。
今日という日そのものがイレギュラーなのだ。特別対応もやむなしと腹を決める。
盛りつけを進めているうち、彼女以外の三人の客が次々と帰り、客はローズさんひとりになった。
すると彼女は、おずおずと小さな声を出した。
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※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
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