10 / 25
◆重なる点と線
2
しおりを挟む 魔王国の田舎で生活を始めた俺たちは朝ご飯(正しくは夜ご飯)を食べながら今後の話をしていた。
「リフォームに必要な工具が欲しい」
「工具?」
「それはなんですの?」
ぽかんとするギンコの膝の上でウルルが小さく鳴いた。
「人族が使う道具や」
ダークエルフ族のツリーハウス作りには工具を必要としないらしい。
九尾族には家という概念がないらしく、こちらも工具からは程遠い生活を送っていたことになる。
「ドワーフ族がいるなら話を聞いてみたいし、デスクックの爪とか牙とかも売れるなら金に換えたい」
「旦那様は人族のようなことを言うんやね」
確かに、今の発言は迂闊すぎたかもしれない。
「デスクックの爪や牙なんて価値はあるのでしょうか。食べられない箇所は全部ゴミです。トーヤが玄関に飾っている鶏冠もゴミです」
気持ちいいまでの割り切り方。さすがは闇の眷属。
「価値観はそれぞれやから。ただのゴミが金になったらお得やん?」
「どっちにしても私は人族の国には行けませんよ。憎き太陽が落ちない限りは」
「ギンコは?」
「妾は旦那様が行く場所にならどこへでもついていきます。どこぞの耳とがりとは違いますから」
「尻尾割れてるくせに偉そうに」
「あら? 嫉妬なんて醜いですわよ。いくら旦那様にモフモフされないからって」
「残念でした。トーヤは九尾族のときは必ずモフモフの自給自足をしますから。ダークエルフ族のとき以外、あなたの尻尾は用無しです」
今日もバチバチにやり合っている二人。
ウルルは危険を察知してか、早々に俺の膝の上に避難してきた。
「そんなことないよな、ウルル。お前の毛並みもモフモフするもんな」
「ウル~ッ」
圧倒的癒やし!
急成長具合にはビビるけど、この子を育てて良かったと思える至福の瞬間である。
「で、ギンコは一緒に行くってことでええんやな? じゃあ、クスィーちゃんはウルルとお留守番しててや」
「仕方ありませんね」
いつもギンコに突っかかっているクスィーちゃんにしては珍しい。
よっぽど太陽が嫌いらしい。
そんなこんなで陽が昇り、クスィーちゃんとウルフが寝床に入ったタイミングで人族の町へと出発した。
ちなみに俺とギンコはしっかり夜に寝ている。
背中のリュックにはデスクックの素材の他にも過去に狩ったブラックウルフの素材も入れてきた。
さすが国境付近とあって、すぐに人族側の検問所が見えてきた。
「どう見ても人間には見えへんよな」
自分の尻尾を見てつぶやくと、「簡単です」とギンコがパチンっと指を鳴らした。
別段、変化はない。
ギンコ曰く、これで他者からは姿が見えなくなったらしい。
ホンマかよ――
と、疑っていたがすぐに謝罪することになった。
おそるおそる息を潜めて進み、人族の兵士の前を通り過ぎる。
彼らは何事もないように俺たちをスルーして、「異常なし!」と指さし確認を行った。
「これ何の魔法?」
ギンコが無言で首を振る。
喋ると効果が消滅する系だと察して黙って歩いた。
「ぷはっ。幻惑魔法の一種です。子供騙しやね」
息を止めていたことで頬を上気させたギンコが教えてくれた。
俺、そんな魔法使えないんやけど……。
「あと、もう一つ」
またギンコが指を鳴らすと、俺の尻尾とギンコのキツネ耳と尻尾が消えた。
「うおぉ!」
「これも子供騙しです」
これなら誰が見ても人族だ。
大阪弁を喋る糸目のにぃちゃんと、はんなり京都弁を喋るキツネ目のねぇちゃんにしか絶対に見えない。
近くを流れていた川の水面に映る自分の顔を見て感動した俺は、意気揚々と検問所を越えて一番近くの街に向かって歩き出した。
到着すると、あまりの人の多さに驚いた。
街を行くほぼ全員が武装していて、大剣や斧なんかを担いでいる。
大通りの両サイドには露店が並び、活気ある街だった。
「着いたはいいけど、どこに行けばええんや」
人間のくせに人間社会についての知識がない俺と、そもそも人間ですらないギンコの組み合わせで出向いたのは無謀だったかもしれない。
こういう時は――
「すんませーん! 道案内してくれる店ってどこですかー?」
「あんた見ない顔だな。冒険者にしては軽装だし、商人か?」
「そんな感じです」
「それならギルドに行くといい。素材の売却もしてくれるし、街のことは何でも教えてくれる」
「ありがとうございます」
普段はコミュ障全開やけど、二度と会わないと分かっている人には遠慮なく話しかけられる。
ずっと町中をウロウロするのは御免やでな。
早速、ギルドというファンタジー感満載の店に向かうと受付では綺麗な女性が笑顔を振り撒いていた。
「初めてなんですけど」
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょう」
「素材の売却と聞きたいことがいくつかあって」
「かしこまりました。まずは素材を拝見させていただきますね」
リュックに詰めていたデスクックの爪、牙、羽根、鶏冠をカウンターに取り出す。
「……………………」
さっきまでニコニコしていたお姉さんが顔を引き攣らせて、奥へと引っ込んだ。
すぐにカウンターの奥から厳つい男が出てきて、何度も素材と俺たちを見比べて重い口を開いた。
「待ってろ」
続いて、華奢な男がやってきて、デスクックの素材を入念にチェックしていく。
目の周りに魔法陣が描かれているから、何かしらのスキルか魔法を使っているらしい。
「デスクックだ」
やがて、ため息のついでのようにつぶやいた。
「鑑定士が言うなら信じるしかねぇ。あんたがこいつを討伐したのか? どこのギルドからの依頼だ?」
ツレが倒した、と言いそうになる口を噤んで頷く。
疑われたらますます厄介だと判断して、俺の手柄にしてしまった。
ごめん、クスィーちゃん。
「金貨千枚を出す。構わないか?」
ギルド内にいた武装している連中がどよめいた。
この金額が高いのか、安いのか分からないから、俺は出された金貨をすぐに仕舞ってお姉さんに向き直った。
「ものづくりに精通している人に会いたいんやけど、この街にいますか?」
「はい。メインストリートから左の路地にドワーフ族が営む店がございます」
「ドワーフ! ありがとうございます」
あの厳ついおっさんの目と、周囲の目が怖すぎてお礼を言ってギルドを飛び出した。
「デスクックってレアモンスターなんか?」
「知りませんわ、そんなこと。今の耳とがりに狩られるくらいですから、きっと弱小に決まっています」
相変わらず、クスィーちゃんには手厳しい。
でも、今のってことは、それなりに彼女のことを認めているのだろう。
見知らぬ土地でひったくりや置き引きに注意するのは海外旅行の基本。
俺はリュックを抱きかかえながら、目的地へと向かって絶句した。
「リフォームに必要な工具が欲しい」
「工具?」
「それはなんですの?」
ぽかんとするギンコの膝の上でウルルが小さく鳴いた。
「人族が使う道具や」
ダークエルフ族のツリーハウス作りには工具を必要としないらしい。
九尾族には家という概念がないらしく、こちらも工具からは程遠い生活を送っていたことになる。
「ドワーフ族がいるなら話を聞いてみたいし、デスクックの爪とか牙とかも売れるなら金に換えたい」
「旦那様は人族のようなことを言うんやね」
確かに、今の発言は迂闊すぎたかもしれない。
「デスクックの爪や牙なんて価値はあるのでしょうか。食べられない箇所は全部ゴミです。トーヤが玄関に飾っている鶏冠もゴミです」
気持ちいいまでの割り切り方。さすがは闇の眷属。
「価値観はそれぞれやから。ただのゴミが金になったらお得やん?」
「どっちにしても私は人族の国には行けませんよ。憎き太陽が落ちない限りは」
「ギンコは?」
「妾は旦那様が行く場所にならどこへでもついていきます。どこぞの耳とがりとは違いますから」
「尻尾割れてるくせに偉そうに」
「あら? 嫉妬なんて醜いですわよ。いくら旦那様にモフモフされないからって」
「残念でした。トーヤは九尾族のときは必ずモフモフの自給自足をしますから。ダークエルフ族のとき以外、あなたの尻尾は用無しです」
今日もバチバチにやり合っている二人。
ウルルは危険を察知してか、早々に俺の膝の上に避難してきた。
「そんなことないよな、ウルル。お前の毛並みもモフモフするもんな」
「ウル~ッ」
圧倒的癒やし!
急成長具合にはビビるけど、この子を育てて良かったと思える至福の瞬間である。
「で、ギンコは一緒に行くってことでええんやな? じゃあ、クスィーちゃんはウルルとお留守番しててや」
「仕方ありませんね」
いつもギンコに突っかかっているクスィーちゃんにしては珍しい。
よっぽど太陽が嫌いらしい。
そんなこんなで陽が昇り、クスィーちゃんとウルフが寝床に入ったタイミングで人族の町へと出発した。
ちなみに俺とギンコはしっかり夜に寝ている。
背中のリュックにはデスクックの素材の他にも過去に狩ったブラックウルフの素材も入れてきた。
さすが国境付近とあって、すぐに人族側の検問所が見えてきた。
「どう見ても人間には見えへんよな」
自分の尻尾を見てつぶやくと、「簡単です」とギンコがパチンっと指を鳴らした。
別段、変化はない。
ギンコ曰く、これで他者からは姿が見えなくなったらしい。
ホンマかよ――
と、疑っていたがすぐに謝罪することになった。
おそるおそる息を潜めて進み、人族の兵士の前を通り過ぎる。
彼らは何事もないように俺たちをスルーして、「異常なし!」と指さし確認を行った。
「これ何の魔法?」
ギンコが無言で首を振る。
喋ると効果が消滅する系だと察して黙って歩いた。
「ぷはっ。幻惑魔法の一種です。子供騙しやね」
息を止めていたことで頬を上気させたギンコが教えてくれた。
俺、そんな魔法使えないんやけど……。
「あと、もう一つ」
またギンコが指を鳴らすと、俺の尻尾とギンコのキツネ耳と尻尾が消えた。
「うおぉ!」
「これも子供騙しです」
これなら誰が見ても人族だ。
大阪弁を喋る糸目のにぃちゃんと、はんなり京都弁を喋るキツネ目のねぇちゃんにしか絶対に見えない。
近くを流れていた川の水面に映る自分の顔を見て感動した俺は、意気揚々と検問所を越えて一番近くの街に向かって歩き出した。
到着すると、あまりの人の多さに驚いた。
街を行くほぼ全員が武装していて、大剣や斧なんかを担いでいる。
大通りの両サイドには露店が並び、活気ある街だった。
「着いたはいいけど、どこに行けばええんや」
人間のくせに人間社会についての知識がない俺と、そもそも人間ですらないギンコの組み合わせで出向いたのは無謀だったかもしれない。
こういう時は――
「すんませーん! 道案内してくれる店ってどこですかー?」
「あんた見ない顔だな。冒険者にしては軽装だし、商人か?」
「そんな感じです」
「それならギルドに行くといい。素材の売却もしてくれるし、街のことは何でも教えてくれる」
「ありがとうございます」
普段はコミュ障全開やけど、二度と会わないと分かっている人には遠慮なく話しかけられる。
ずっと町中をウロウロするのは御免やでな。
早速、ギルドというファンタジー感満載の店に向かうと受付では綺麗な女性が笑顔を振り撒いていた。
「初めてなんですけど」
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょう」
「素材の売却と聞きたいことがいくつかあって」
「かしこまりました。まずは素材を拝見させていただきますね」
リュックに詰めていたデスクックの爪、牙、羽根、鶏冠をカウンターに取り出す。
「……………………」
さっきまでニコニコしていたお姉さんが顔を引き攣らせて、奥へと引っ込んだ。
すぐにカウンターの奥から厳つい男が出てきて、何度も素材と俺たちを見比べて重い口を開いた。
「待ってろ」
続いて、華奢な男がやってきて、デスクックの素材を入念にチェックしていく。
目の周りに魔法陣が描かれているから、何かしらのスキルか魔法を使っているらしい。
「デスクックだ」
やがて、ため息のついでのようにつぶやいた。
「鑑定士が言うなら信じるしかねぇ。あんたがこいつを討伐したのか? どこのギルドからの依頼だ?」
ツレが倒した、と言いそうになる口を噤んで頷く。
疑われたらますます厄介だと判断して、俺の手柄にしてしまった。
ごめん、クスィーちゃん。
「金貨千枚を出す。構わないか?」
ギルド内にいた武装している連中がどよめいた。
この金額が高いのか、安いのか分からないから、俺は出された金貨をすぐに仕舞ってお姉さんに向き直った。
「ものづくりに精通している人に会いたいんやけど、この街にいますか?」
「はい。メインストリートから左の路地にドワーフ族が営む店がございます」
「ドワーフ! ありがとうございます」
あの厳ついおっさんの目と、周囲の目が怖すぎてお礼を言ってギルドを飛び出した。
「デスクックってレアモンスターなんか?」
「知りませんわ、そんなこと。今の耳とがりに狩られるくらいですから、きっと弱小に決まっています」
相変わらず、クスィーちゃんには手厳しい。
でも、今のってことは、それなりに彼女のことを認めているのだろう。
見知らぬ土地でひったくりや置き引きに注意するのは海外旅行の基本。
俺はリュックを抱きかかえながら、目的地へと向かって絶句した。
10
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。


今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

あやかし坂のお届けものやさん
石河 翠
キャラ文芸
会社の人事異動により、実家のある地元へ転勤が決まった主人公。
実家から通えば家賃補助は必要ないだろうと言われたが、今さら実家暮らしは無理。仕方なく、かつて祖母が住んでいた空き家に住むことに。
ところがその空き家に住むには、「お届けものやさん」をすることに同意しなくてはならないらしい。
坂の町だからこその助け合いかと思った主人公は、何も考えずに承諾するが、お願いされるお届けものとやらはどうにも変わったものばかり。
時々道ですれ違う、宅配便のお兄さんもちょっと変わっていて……。
坂の上の町で繰り広げられる少し不思議な恋物語。
表紙画像は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID28425604)をお借りしています。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる