三題噺

古明地 蓮

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体育館の放送室

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「皆さんにとって今年はどんな年でしたか?私にとっては...」

 冬休み前の集会ということで校長先生の話にも熱がこもっている。人と話す機会が少ない分、この機会に冬休み分の話を全てこの場で話すかのように思いつくままに言葉を連ねている。まあほとんどの生徒は聞いていないと思うけど。

 かくいう私もそのうちの一人で、持ち込んだ推理小説を読みふけっていた。先生に怒られたりしないのかって?それは大丈夫。だって私のそばに先生はいないからね。

 体育館の放送室。一方的に体育館の全体を見渡せるちょっと特別な場所。

 普通の生徒は入る機会すらない部屋だけど、放送委員長ということで集会の時も放送機器と照明機器の管理を任されているんだ。問題さえ起こさなければ私だけの特別な空間。とても居心地がいいでしょ。

 放送委員長になって放送室を独占しているのは本を読みたいっていう理由もあるんだけど、実はもう一つの理由があるんだ。でもそれは秘密。

 暖房が聞いているこの部屋にいると、ふわぁ。眠たくなるね。まだ校長先生の話は終わらなさそうだし、少しだけ寝よっかな。先生の話が終わりそうになったら起こすんだよ。



 あ、え、もしかして校長先生の話終わってる?ちゃんと起こしてって言ったじゃん。急いでステージマイクの音量下げて司会者のマイクをちょっと上げて、ハウリングはしてないね。ステージライトはこのままでいいかな。

 何とかばれなさそうでよかった。でも次はちょっと大事だから話しかけないでね。あと今のうちにリップクリームだけ塗りなおしちゃお。

「続いては生徒会会長の話です。」

「皆さんこんにちは。これから冬休みということでそわそわしている人も多いと思います。僕もクリスマスやお年玉が楽しみで、この日を楽しみにしてました。そんな僕から皆さんに一つだけお願いがあります。」

「それは自分の身は自分で守るということです。せっかくの冬休み、好きな人と一緒に過ごすという人もいると思います」

 (一瞬彼がこっちを見たような気がする)

「子供だけで街に出るときは特に周りの大人に注意しましょう。そしてもしも何かあったら頼れそうな大人や学校に電話してすぐに助けを呼びましょう。それぞれが意識して安全に冬休みを過ごしましょう」

「それでは僕の話は終わりです」

(もう一度、今度は完全にこっちを見ていた)

 ねね。明らかに会長、明らかにこっちを見てたよね。君もやっぱりそう思うよね。

 あんなに会長にみられると恥ずかしくなっちゃう。でもこうなるってわかってたらスマホで彼の写真でも撮っておけばよかったかな。

 私この後彼に呼ばれてるんだよね。何の話されるんだろ。緊張するなぁ。

 私の代わりにこの部屋の戸締りやっておいてくれるの?ありがと。

 それじゃあ頼んだよ。放送室の幽霊さん。
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