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第一章 人生とは出会いである
第一話 嫌いな人
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ブログを書き終えてパソコンを閉じ、もう一度さっきまで説いていた問題を思い出す。なんとなく解き方が思いついて解き始めようとしたとき
こんこん
ノックの音が部屋の中に響いた。この部屋は僕の部屋だから、僕以外の来客ではないのは確かだ。それでも僕は何かの間違いだと信じたが、むなしくも
「久しぶりだな、翔」
大嫌いな奴が扉から顔を出した。
寝てるふりをしたら帰ってくれないかと思い、ベッドに寝てみたが
「実の父親が来たのに狸寝入りなんてよくないぞ。ほら」
と言って起こされてしまった。視界に、中肉中背中年男の姿が入る。
「今更何しに来たんだよ」
乱暴な言葉をぶつけてみるが、ひょうひょうとした態度を変えず
「まあいいじゃないか。それより余命一か月を切ったんだって?」
と、どこから知ったのか不明な情報を返してくる。けれど、驚いた姿を見せるのは癪に障るので、落ち着いたふりをする。
「まあな。嫌味を言いたいだけなら帰ってくれ。くず親父」
「まあ母さんを捨てたのは悪かったけど、仕方なかったんだって何回言ったらわかるんだ。それより、お前にうまい話を持ってきてやったぞ。」
「うまい話って?」
「お、食いついたな。」
口を滑らしてから後悔した。
「余命一か月になった息子の命を買い取ろうかなと思ってな。」
「帰れ!」
あまりにもふざけた内容の話が見えて、気が付いたら怒鳴ってしまったが、すぐに口をふさぎ小声で言い直す。
「帰ってくれ」
すると、僕の予想とは裏腹にさっき以上に奥の見えない笑顔でそいつは言った。
「そう悪い話じゃないといっただろ。一日当たりの買値はお前が決めていいし、条件もそう多いものじゃないさ。」
「その条件ってのは?」
「契約成立したら教えてやるよ」
こいつには何を言っても聞き入れてもらえないだろうなと悟り、先にこちらが折れることにした。それでも、少しぐらい反発しないと納得いかないので、少しふざけた条件を突きつけることにする。
「じゃあ、一日当たり10万でどう?」
僕なりにふざけたつもりだったけど、意外な返事が返ってきた。
「そんなぐらいなら買うさ。一か月分まとめて300万をお前の口座に振り込んでおく。お前ならもっと適当なことを言うかと思ったんだけどな。」
そういうと、落胆と安安堵が織り交ざったような表情をした。その対応を見て、僕も少し腑に落ちる。
「また競馬でもあたったのか?」
「そんなとこだよ」
謎のどや顔を見せつけられる。ギャンブル依存症のこいつのことだからそんなとこだろうと思った。
「それで条件ってのは?」
純粋に疑問をぶつけてみると、ハッとして言う。
「あぁ、そのことなんだが。」
そういうと、ポケットから少し大きめのカギを取り出して言う。
「明日から退院することになる。そして、この鍵だけをもってこの場所に行ってほしいんだ。」
ジーパンのポケットを手探り次第に漁って、ようやく見つかったらしいメモ帳を手渡してきた。それを開くと
「35.599604901093315, 140.14050185057184」
謎解きのように長い数字の羅列が書かれていた。
「なんだこれ」
勝手に言葉が口から洩れると、そいつは答えた。
「行ってほしい場所だよ。勉強好きのお前なら、多少面白い謎解きのほうがいいと思ってな。」
そういうと、スマホをポケットにしまい帰り支度を済ませた。もう帰るのかと思うと、またしゃべりだした。
「この部屋の荷物は明日にはその場所につくように送るから安心して何も持たずにそこに行ってくれ。でも、いかがわしいものは置いていくなよ。」
何言ってるんだかと思っていると、急に耳に顔を近づけて
「楽しいところだぞ」
といった。気持ち悪いなと思っていると、踵を返して扉のほうに向かって歩き始めていた。そして、振り向くこともなく扉を開けて帰っていった。
「結局何の数字なんだ」
渡された紙を見つめながら、頭を巡らすのだった。
こんこん
ノックの音が部屋の中に響いた。この部屋は僕の部屋だから、僕以外の来客ではないのは確かだ。それでも僕は何かの間違いだと信じたが、むなしくも
「久しぶりだな、翔」
大嫌いな奴が扉から顔を出した。
寝てるふりをしたら帰ってくれないかと思い、ベッドに寝てみたが
「実の父親が来たのに狸寝入りなんてよくないぞ。ほら」
と言って起こされてしまった。視界に、中肉中背中年男の姿が入る。
「今更何しに来たんだよ」
乱暴な言葉をぶつけてみるが、ひょうひょうとした態度を変えず
「まあいいじゃないか。それより余命一か月を切ったんだって?」
と、どこから知ったのか不明な情報を返してくる。けれど、驚いた姿を見せるのは癪に障るので、落ち着いたふりをする。
「まあな。嫌味を言いたいだけなら帰ってくれ。くず親父」
「まあ母さんを捨てたのは悪かったけど、仕方なかったんだって何回言ったらわかるんだ。それより、お前にうまい話を持ってきてやったぞ。」
「うまい話って?」
「お、食いついたな。」
口を滑らしてから後悔した。
「余命一か月になった息子の命を買い取ろうかなと思ってな。」
「帰れ!」
あまりにもふざけた内容の話が見えて、気が付いたら怒鳴ってしまったが、すぐに口をふさぎ小声で言い直す。
「帰ってくれ」
すると、僕の予想とは裏腹にさっき以上に奥の見えない笑顔でそいつは言った。
「そう悪い話じゃないといっただろ。一日当たりの買値はお前が決めていいし、条件もそう多いものじゃないさ。」
「その条件ってのは?」
「契約成立したら教えてやるよ」
こいつには何を言っても聞き入れてもらえないだろうなと悟り、先にこちらが折れることにした。それでも、少しぐらい反発しないと納得いかないので、少しふざけた条件を突きつけることにする。
「じゃあ、一日当たり10万でどう?」
僕なりにふざけたつもりだったけど、意外な返事が返ってきた。
「そんなぐらいなら買うさ。一か月分まとめて300万をお前の口座に振り込んでおく。お前ならもっと適当なことを言うかと思ったんだけどな。」
そういうと、落胆と安安堵が織り交ざったような表情をした。その対応を見て、僕も少し腑に落ちる。
「また競馬でもあたったのか?」
「そんなとこだよ」
謎のどや顔を見せつけられる。ギャンブル依存症のこいつのことだからそんなとこだろうと思った。
「それで条件ってのは?」
純粋に疑問をぶつけてみると、ハッとして言う。
「あぁ、そのことなんだが。」
そういうと、ポケットから少し大きめのカギを取り出して言う。
「明日から退院することになる。そして、この鍵だけをもってこの場所に行ってほしいんだ。」
ジーパンのポケットを手探り次第に漁って、ようやく見つかったらしいメモ帳を手渡してきた。それを開くと
「35.599604901093315, 140.14050185057184」
謎解きのように長い数字の羅列が書かれていた。
「なんだこれ」
勝手に言葉が口から洩れると、そいつは答えた。
「行ってほしい場所だよ。勉強好きのお前なら、多少面白い謎解きのほうがいいと思ってな。」
そういうと、スマホをポケットにしまい帰り支度を済ませた。もう帰るのかと思うと、またしゃべりだした。
「この部屋の荷物は明日にはその場所につくように送るから安心して何も持たずにそこに行ってくれ。でも、いかがわしいものは置いていくなよ。」
何言ってるんだかと思っていると、急に耳に顔を近づけて
「楽しいところだぞ」
といった。気持ち悪いなと思っていると、踵を返して扉のほうに向かって歩き始めていた。そして、振り向くこともなく扉を開けて帰っていった。
「結局何の数字なんだ」
渡された紙を見つめながら、頭を巡らすのだった。
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