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プロローグ~逃亡失敗~
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「…美しい令嬢、あなたのお名前を耳にする機会を、どうぞわたくしめにお与えください」
目の前に片膝をつき、熱い視線を向ける青年にカレンは微笑んだ。
(身分、財力申し分ないわ…)
短い期間で、よくもここまで持ってこれたものだと自画自賛する。
監視の目があるなか、自由の利く時間は少なく、恋の奴隷を仕立て上げるのは容易ではなかった。
薬物と、少しの魔法、金に物を言わせた情報操作の結晶だった。
結婚はできないだろう。
大事なのは自分を彼の領地まで運んでもらうことだった。
カレンは自分の名前を口にする。
青年は潤んだ瞳を閉じて、名前を復唱し、カレンの手に口を寄せた…
「そこまでだ。何をしている」
冷たい声が、カレンの体温を下げた。
青年は眉を寄せて声の方を見るが、カレンの青ざめた顔をみて、カレンを背後に隠した。
「何者だ?」
「それはこちらのセリフだな…。婚約者のいる女に手を出すとは、どこの馬の骨だ?」
「彼女は婚約を望んでいない」
青年は、カレンに吹き込まれた物語を信じている。カレンは舌打ちした。余計なことを言って、相手を挑発しないでほしい。しかし、カレンにとって大事なのは…
(これは…どっち、なのかしら?)
邪魔者は少年とも青年とも見えるすらりとした体格をしている。その首の上に乗った顔も、大変見目美しい。カレンにはなじみの顔だった。しかし、カレンは相手が本気で擬態した時に見破れたためしはなかった。
(どっち…?アレンの方なら…あの子はわたしの味方にはならないけど、あいつより万倍マシ。)
「カレン、バカなことをしたな」
呆れた声に、カレンはそれがアレンだと思った。
「アレン、この人と一緒にさせて。姉さんのお願いよ」
姉弟の情に頼り、カレンは懇願したが、帰ってくる声は冷たかった。
「…お願いを間違えたね、カレン。次逃げたら足をもぐといったこと、冗談だと思った?」
間違えに気づいて、カレンは自分の体中の血液が凍り付くのを感じた。
「アレン、その男を殺せ」
「はい」
いつの間にか、背後に気配を消して近づいてきたアレンがいた。目の前にいるものと、全く同じ姿かたちをしている。カレンはハッとして制止した。
「…!アレン、やめてっ!!」
アレンから、青年を守ろうと立ちふさがったが、青年の体はバランスを失い崩れ落ちた。膝をつき、カレンは青年の名を呼ぶが既にこと切れていた。
「なんてこと、この方が誰だと…」
「人の心配をしている場合かな?」
冷たく言う声にカレンは震えた。すっとドレスの上から太ももを指で撫でられる。カレンの横に身をかがめた声の主は、
「帰るよ。立てないなら、この足は必要ないね?」
とカレンに微笑んだ。全く笑っていない瞳に映されたカレンは、ぎくしゃくと首を振った。
「立てるわ…」
「じゃあ帰ろう」
カレンは救いを求めるように、弟を見たが、青年貴族の死体の処理に取り掛かっていたアレンと視線が合うことはなかった。
目の前に片膝をつき、熱い視線を向ける青年にカレンは微笑んだ。
(身分、財力申し分ないわ…)
短い期間で、よくもここまで持ってこれたものだと自画自賛する。
監視の目があるなか、自由の利く時間は少なく、恋の奴隷を仕立て上げるのは容易ではなかった。
薬物と、少しの魔法、金に物を言わせた情報操作の結晶だった。
結婚はできないだろう。
大事なのは自分を彼の領地まで運んでもらうことだった。
カレンは自分の名前を口にする。
青年は潤んだ瞳を閉じて、名前を復唱し、カレンの手に口を寄せた…
「そこまでだ。何をしている」
冷たい声が、カレンの体温を下げた。
青年は眉を寄せて声の方を見るが、カレンの青ざめた顔をみて、カレンを背後に隠した。
「何者だ?」
「それはこちらのセリフだな…。婚約者のいる女に手を出すとは、どこの馬の骨だ?」
「彼女は婚約を望んでいない」
青年は、カレンに吹き込まれた物語を信じている。カレンは舌打ちした。余計なことを言って、相手を挑発しないでほしい。しかし、カレンにとって大事なのは…
(これは…どっち、なのかしら?)
邪魔者は少年とも青年とも見えるすらりとした体格をしている。その首の上に乗った顔も、大変見目美しい。カレンにはなじみの顔だった。しかし、カレンは相手が本気で擬態した時に見破れたためしはなかった。
(どっち…?アレンの方なら…あの子はわたしの味方にはならないけど、あいつより万倍マシ。)
「カレン、バカなことをしたな」
呆れた声に、カレンはそれがアレンだと思った。
「アレン、この人と一緒にさせて。姉さんのお願いよ」
姉弟の情に頼り、カレンは懇願したが、帰ってくる声は冷たかった。
「…お願いを間違えたね、カレン。次逃げたら足をもぐといったこと、冗談だと思った?」
間違えに気づいて、カレンは自分の体中の血液が凍り付くのを感じた。
「アレン、その男を殺せ」
「はい」
いつの間にか、背後に気配を消して近づいてきたアレンがいた。目の前にいるものと、全く同じ姿かたちをしている。カレンはハッとして制止した。
「…!アレン、やめてっ!!」
アレンから、青年を守ろうと立ちふさがったが、青年の体はバランスを失い崩れ落ちた。膝をつき、カレンは青年の名を呼ぶが既にこと切れていた。
「なんてこと、この方が誰だと…」
「人の心配をしている場合かな?」
冷たく言う声にカレンは震えた。すっとドレスの上から太ももを指で撫でられる。カレンの横に身をかがめた声の主は、
「帰るよ。立てないなら、この足は必要ないね?」
とカレンに微笑んだ。全く笑っていない瞳に映されたカレンは、ぎくしゃくと首を振った。
「立てるわ…」
「じゃあ帰ろう」
カレンは救いを求めるように、弟を見たが、青年貴族の死体の処理に取り掛かっていたアレンと視線が合うことはなかった。
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