俺が死なない理由

わかばひいらぎ

文字の大きさ
上 下
4 / 8

その3

しおりを挟む
 ちくわパーティーが終わり、帰路に就いている。このパーティーは一言で言えば最低だった。どこを見てもちくわだらけで、あの真面目な交田(まじた)くんも指にちくわをはめて「我はちくわの使者なり…」とか言い出す始末だ。ちくわコーラ山手線ゲームは……思い出したくもない。
 すっかり気が滅入り、ため息を吐きながらアパートへ入る。そして、電気のスイッチを押そうとした瞬間……

!?

 またあの音だ。うるさいギター音。動かない身体。そして……
「へぇ~。彩くんのお部屋ってこんななんだ」
 いつ来たのだろうか、部屋の中にリペラがいる。部屋が暗いので白黒なのかはわからないが、リペラだけはハッキリと白黒に見える。
「えっと……なんで!?ただ電気のスイッチを押そうとしただけで、死の危機に陥ってる感がないんですけど!?」
「ん?そのスイッチに毒の針でも仕込んであるんじゃないの?」
 毒の針がスイッチに?あぁ、なんかそんなトリックを推理小説で読んだことがある気がする。
「じゃあ早く助けてよ。助けるのが定めとか言ってなかった?」
「うん、そうだけど……タダでやるなんて言ってないからね?」
 ニタニタしながらリペラが近づいてくる。前回タダだったじゃん……。うっ!顔が近い!
「うふふ……じゃあ、これ奪っちゃおうかなぁ」
 リペラが手を下半身に向けて伸ばしてくる。
「止めろ!僕はまだ清らかな身体でいたいよー!!」
 動けないまま、目も閉じられずにされるがままリペラが手を入れてくる。ゴソゴソとされるとくすぐったい。そして、遂にそれが外に出されてしまった。
「へぇー、意外とこんな感じなんだ。小さくてやらかくて可愛い!」
 そう言うと、リペラは俺が先程交田くんに貰ったちくわ一本を頬ずりしながら無邪気に喜んだ。
「これ貰っていい?くれるなら助けてあげる!」
「あーあー良いよ、いくらでもくれてやるわそんなもん」
 俺はハゲとちくわにものすごく運がないとつくづく思う。そんな中リペラはちくわに楊枝をさして精霊馬のようにして遊んでいる。
「あの~そろそろ助けてください。聞いてます?お~い、聞いてますか~」
 リペラは床に寝転がりながら精霊馬を眺めている。ニコニコしながら眺めているその様は我が子を見守る母親のようで、そこにだけ微笑ましい空間が広がっている。電気のスイッチが押せない大学生に精霊馬を眺める女子高生。何とも不思議な空間だ。さて、いつになったら助けてくれるのか…。
~(体感)三十分後~
「おらぁ!リペラ!さっさとお助けしろや!」
 そろそろ限界だ。と言うよりなんでリペラはちくわの精霊馬を長々と見ていられるのか疑問である。
「もぉーしょうがないなぁ」
 頬を膨らませながらこちらに向かってくる。そして、ヤスリのようなものを取り出した。これでスイッチの棘を取り除くようだ。
「よし!じゃあまた死にそうな時に!」
 万遍の笑みを浮かべたながらガリッと削ると、身体の硬直が溶けその勢いでスイッチを押してしまう。特に変化なく部屋が照らされた。そこにはもうリペラの姿はない。どっと疲れが出てきたので寝巻きに着替えることも無くベットに飛び込む。そして、仰向けになって目を瞑る。今日だけで二度、ちくわパーティーを加えれば三度命の危機に晒されたのか……。強烈な眠気に襲われてきた。もう寝てしまおう。どうせ明日も休みだし。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

調香師少女と元神青年 涙の香水

有坂有花子
キャラ文芸
「君を妻として迎えに来たよ」 仮想明治時代。調香師の春子は見知らぬ洋装の青年・子槻から告げられる。 幼いころ、子槻は『春子を妻として迎えに行く』という約束をしたという。まったく覚えのない春子だったが、子槻の屋敷へ連れてこられてしまう。 話すうちに、春子は『自分の香水店をひらきたい』という夢を子槻が知っていることに驚く。屋敷に店を出してよいと言う子槻だったが、両親の苛烈な反対にあい、『両親を納得させる香水を作ること』という勝負をすることになってしまった。 調香師少女とねずみ元神青年の香水と涙のお話。 ※話数は多いですが、一話あたりは短めです

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! 時々おまけを更新しています。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

処理中です...