学級委員長だったのにクラスのおまんこ係にされて人権がなくなりました

ごみでこくん

文字の大きさ
上 下
37 / 38
本編5話(修学旅行編 二日目)

高瀬くんの修学旅行⑤

しおりを挟む
あの後、僕を丹羽の部屋まで送り届けた柏木は、丹羽が唯一食べられそうだと話したドリンクタイプのゼリーと、額を冷やす用の冷却シートやスポーツドリンクなど諸々をコンビニで買ってきて差し入れると、本当にさっさと蜻蛉返りしていった。柏木が居なくなって二人になった途端、一気に部屋がシンと静まり返る。

「……なんで一緒に帰んないの、うつるよ」

ごろんと僕に背を向けるように寝返りを打って、丹羽は弱々しい声でそう言った。熱は三十八度六分らしい。弱ってるところ、見られたくないのかな。けど背中には、一人にしないでほしいと書かれてあるようにも見える。昼間、一人は慣れていると寂しげに強がっていたことも、僕の中では少し引っ掛かっていた。

「予防接種受けてるから、うつらない。邪魔だったら、丹羽がゼリー食べて薬飲んだの見て帰るから」
「……べつに邪魔とは言ってない」
「そっか。薬、早めに飲んだほうがいいと思うから、ちょっとでもゼリー食べよう。起き上がれるか?」
「うん……」

熱い身体をのろのろと起こした丹羽にゼリーを渡す。キャップも開けてやって、あとは飲むだけなのに、丹羽はじっと僕を見つめるだけでなかなか口にしようとしない。沈黙を破ったのは思いがけない言葉だった。

「ざまあみろって、内心たのしんでるの?」
「はぁ……?」
「それとも、金が目当て?いくら欲しい?ああ、それか、俺のこと看病しましたって担任やクラスのやつらにアピールして、また学級委員長に返り咲きたいっていう魂胆か。ずうっとおまんこ係はやだもんね」
「おまえ、なに……」

胸がざわついてくるが、丹羽は続ける。

「正直に言っていいんだよ。別に悪いことじゃない。メリットのないことを人はやらないもん。けど、よくやるよなとは思うよ、正直。自分の人生も学校生活もメチャクチャにした加害者相手にさ、よく普通にしていられるね。お前、今まで俺に何されてきたか分かってんの?前々から思ってたけど、高瀬くんのメンタルはいい意味でぶっ壊れてるよ。スゴい、天晴れだわ」
「…………」
「なんだよ、図星で声も出ませんって?」
「いや、言ってやりたいことは山ほどあるけど……とりあえず、僕の人生や学校生活はお前なんかがメチャクチャにしようとして出来るものじゃないから、今までのこと気にしてるなら安心していいぞ。お前が思ってるほど、僕は自分を被害者だとも思ってない」
「へ……」
「最近気付いたことだけど、丹羽って、やってもいいことと悪いことの区別がちゃんとついてるやつなんだな。それすら分かってない、もっとヤバいやつなのかと最初は思ってた。区別がつくから今まで僕にしてきたことを悪いことだって自負してるみたいだけど、悪いやつに悪いことされたぐらいで、悪いけど、僕はどーってことないから。お前が僕に何をしてこようが僕は今まで通りに学校に通って勉強して卒業して、いい大学に入って実家を継ぐことに変わりはないから」
「…………」
「財務大臣の孫がなんだよ。車にも酔うしインフルエンザにもかかるし普通に熱出して弱って帰らされる、どこにでもいるただの高校二年生だよ、丹羽なんか」

それから、と付け加えて、僕は丹羽の左頬を控えめにパチン、と叩いた。病人だからあくまで控えめに。丹羽は、叩かれた頬をおさえて、信じられないものでも見るみたいなカオで僕のことを見上げてきた。親にもぶたれたことなかったんだろうな、高熱で瞳も潤んでいて、そんなところに泣きっ面に蜂で可哀想にはなってくるけれど、でもこれだけは言わないといけない。

「金目当てだとかアピールだとか、人の厚意を悪く言うな、普通にムカつくから。言わせてもらうけど、お前が西田のためにやってるあれもこれも、お前には何のメリットもないからな。あるとすれば、西田と一緒に修学旅行に行けて、回れて、楽しいってぐらいだよ。お前は悪いことばっかりするやつだけど、心が無いわけじゃないし、たまに善いこともするの見てれば分かるから、だから、僕はお前とも一緒に修学旅行回りたいなって思ってたの。お前が熱を出したら心配で、一人ぼっちにしておくのは嫌だなって思ったの。そんな僕の気持ちを勝手に悪く言うな、ばぁーか」
「…………」
「ほら、捻くれたことばっか言ってないで、さっさとゼリー飲んで、薬飲んで、寝ろ。分かったか?」
「…………」
「丹羽、返事」
「…………うん」

やっと返ってきた返事がひどく震えていたので、ゼリーを飲み始めた丹羽の顔をこっそりと盗み見ると、睫毛が濡れていて、頬がきらきらと光って見える。

な、泣かせてしまった、あの丹羽を。僕、これ、東京に帰ったらついに殺されるんじゃないか?無論丹羽がそんなことするやつじゃないことはもう分かっているが、病人相手に言い過ぎた感は否めない。だけど、謝るのも違うしな、と僕が考えあぐねていると、静かにゼリーを吸いながら丹羽はぽつりぽつりと零した。

「……高瀬くん、あのね、俺、西田も一緒に修学旅行に行けたらいいなって思って結構頑張ったんだよ」
「……うん、知ってるよ」
「西田だけじゃない、高瀬くんとも、柏木とも、一緒に回りたかった……三日目は尾形のやつをどうぶっ潰してやろうかって、そればっかり考えててさ」
「……うん」
「……楽しみにしてたんだよ、初めての修学旅行」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」 「いや、するわけないだろ!」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。 「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」 「スバル、お前なにいってんの……?」 冗談? 本気? 二人の結末は? 美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。

不良高校に転校したら溺愛されて思ってたのと違う

らる
BL
幸せな家庭ですくすくと育ち普通の高校に通い楽しく毎日を過ごしている七瀬透。 唯一普通じゃない所は人たらしなふわふわ天然男子である。 そんな透は本で見た不良に憧れ、勢いで日本一と言われる不良学園に転校。 いったいどうなる!? [強くて怖い生徒会長]×[天然ふわふわボーイ]固定です。 ※更新頻度遅め。一日一話を目標にしてます。 ※誤字脱字は見つけ次第時間のある時修正します。それまではご了承ください。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

処理中です...