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本編3話(デート編)
高瀬くんの休日②
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「西田っ、シロイルカ、ほんとにいたなっ!」
「はい……♡」
「あのぷにぷにしたおでこと、むにゅって笑ってるみたいな口がたまんなくかわいいよな……」
「はい……♡」
「キレイなバブルリングも見れたっ!」
「はい……♡」
「僕、子供の頃に初めて家族と水族館に行ったときに見たイルカショーが忘れられなくてさ、それからずっとイルカも海の生き物も水族館も大好きでっ……」
チーズケーキにフォークを挿しながら、興奮気味にそこまで喋って、初めて僕ばっかり喋っていたことと、西田相手に家族の話をしてしまったことに気が付く。勝手な気まずさを感じて、誤魔化すようにチーズケーキを口に運んだ僕を、とうにフルーツタルト三切れを平らげた西田がうっとりとした顔で見つめてくる。
「楽しそうな高瀬様のお話、このまま永遠に聞いていたいです♡昔から海の生き物が好きなんですね♡」
「うん……僕ばっか喋ってごめん。西田は?」
「俺?なんですか?」
「その、結構魚のこと詳しそうだったけど、水族館とかよく行ったりするのか?」
「えーと……正直、魚のことは高瀬様と水族館に行くって決まってから急拵えで調べたって感じですね……あ、でも俺も、昔神戸に住んでたときに、家族みんなで一回だけ大阪の海洋館に行ったことがありました」
「へえ、西田、昔は関西に住んでたのか」
初めて聞いた、と僕が漏らすと、失言だったとでも言いたげに西田はパッと両手で口を覆った。
「あ……今の、忘れてくださいっ……というか、クラスのみんなには内緒にしといてくださいっ……!関西出身だってバレると、面白いこと言えとかやれとかボケろとかツッコめとか、お笑いのハードル上げられる感じのノリ、中学時代のトラウマなんです。だから、関西弁が出ないように頑張って標準語の練習したりとかして……編み出したのが、今の喋り方なんです。敬語が一番関西っぽさを出さずに喋りやすいって気付いて、あとはイントネーションを徹底的に直して、今ではすっかり標準語ネイティブに擬態できてます!」
「ふーん……それで敬語だったのか。まあ、狙って面白いこと言えるタイプじゃないもんな、西田は。新鮮だからちょっと聞いてみたいけど、西田の関西弁」
「もうっ!高瀬様までっ!絶対出しませんからっ!」
おかわりした四切れ目のフルーツタルトをもぐもぐ口に運びながら、西田は頬を膨らませた。ちなみに夜は食べないつもりなのかと聞くと、ちょっといいコースを予約してありますよ?と言っていたので、こいつの胃袋には小宇宙が広がっているのだろう。見ているだけで胃もたれしそうだったが、当の本人は難なく平らげて、ポットいっぱいの紅茶も綺麗に飲み干し、軽くウン百万はするであろう借り物の腕時計に目をやる。
「そろそろ出ますか?」
「うん。あのさ、ここぐらいは僕、出すから」
そう言って、僕はテーブルの上に置かれてあった伝票を取ろうとしたが、タッチの差で西田に掠め取られてしまう。高く掲げられては、僕の身長だと届かない。
「もう、西田っ!」
「今日は俺のワガママに付き合ってもらう日なんですから、これぐらいカッコつけさせてください」
「ワガママって、行きたいとこも、食べたいものも、結局は全部、僕の好きなものばっかじゃん……」
不服げに見上げる僕をにこやかに見下ろした西田は、僕と目線を合わせるように背を屈めて、声を潜めた。
「高瀬様は気付いてないかもしれないですけど、俺、今日待ち合わせから一回もトイレしてないんで♡」
「それがなに、…………っあ、」
「意味、分かりました?ソッチじゃないほうも今日のためにメチャクチャ溜めてきてるので、もし少しでも俺に申し訳ないなとか思ってくれてるんなら、最後のホテルで存分にファンサしてください……ねっ♡」
サングラスの奥に透けて見える、ぎらぎらと雄っぽく濡れた西田の目と目が合って、ゾクゾクと痺れるような感覚が全身に走る。このあとされることを想像してしまった。かあっと染まった顔すら隠せずに固まる僕の頭を優しく撫でて、シャキッと背筋を伸ばした頃、もう西田はいつも通りの穏やかな表情に戻っていた。
「さてと。高瀬様が見たいって言ってたインテリアのお店に寄ったあと、美味しい晩ご飯にしましょう♡」
「はい……♡」
「あのぷにぷにしたおでこと、むにゅって笑ってるみたいな口がたまんなくかわいいよな……」
「はい……♡」
「キレイなバブルリングも見れたっ!」
「はい……♡」
「僕、子供の頃に初めて家族と水族館に行ったときに見たイルカショーが忘れられなくてさ、それからずっとイルカも海の生き物も水族館も大好きでっ……」
チーズケーキにフォークを挿しながら、興奮気味にそこまで喋って、初めて僕ばっかり喋っていたことと、西田相手に家族の話をしてしまったことに気が付く。勝手な気まずさを感じて、誤魔化すようにチーズケーキを口に運んだ僕を、とうにフルーツタルト三切れを平らげた西田がうっとりとした顔で見つめてくる。
「楽しそうな高瀬様のお話、このまま永遠に聞いていたいです♡昔から海の生き物が好きなんですね♡」
「うん……僕ばっか喋ってごめん。西田は?」
「俺?なんですか?」
「その、結構魚のこと詳しそうだったけど、水族館とかよく行ったりするのか?」
「えーと……正直、魚のことは高瀬様と水族館に行くって決まってから急拵えで調べたって感じですね……あ、でも俺も、昔神戸に住んでたときに、家族みんなで一回だけ大阪の海洋館に行ったことがありました」
「へえ、西田、昔は関西に住んでたのか」
初めて聞いた、と僕が漏らすと、失言だったとでも言いたげに西田はパッと両手で口を覆った。
「あ……今の、忘れてくださいっ……というか、クラスのみんなには内緒にしといてくださいっ……!関西出身だってバレると、面白いこと言えとかやれとかボケろとかツッコめとか、お笑いのハードル上げられる感じのノリ、中学時代のトラウマなんです。だから、関西弁が出ないように頑張って標準語の練習したりとかして……編み出したのが、今の喋り方なんです。敬語が一番関西っぽさを出さずに喋りやすいって気付いて、あとはイントネーションを徹底的に直して、今ではすっかり標準語ネイティブに擬態できてます!」
「ふーん……それで敬語だったのか。まあ、狙って面白いこと言えるタイプじゃないもんな、西田は。新鮮だからちょっと聞いてみたいけど、西田の関西弁」
「もうっ!高瀬様までっ!絶対出しませんからっ!」
おかわりした四切れ目のフルーツタルトをもぐもぐ口に運びながら、西田は頬を膨らませた。ちなみに夜は食べないつもりなのかと聞くと、ちょっといいコースを予約してありますよ?と言っていたので、こいつの胃袋には小宇宙が広がっているのだろう。見ているだけで胃もたれしそうだったが、当の本人は難なく平らげて、ポットいっぱいの紅茶も綺麗に飲み干し、軽くウン百万はするであろう借り物の腕時計に目をやる。
「そろそろ出ますか?」
「うん。あのさ、ここぐらいは僕、出すから」
そう言って、僕はテーブルの上に置かれてあった伝票を取ろうとしたが、タッチの差で西田に掠め取られてしまう。高く掲げられては、僕の身長だと届かない。
「もう、西田っ!」
「今日は俺のワガママに付き合ってもらう日なんですから、これぐらいカッコつけさせてください」
「ワガママって、行きたいとこも、食べたいものも、結局は全部、僕の好きなものばっかじゃん……」
不服げに見上げる僕をにこやかに見下ろした西田は、僕と目線を合わせるように背を屈めて、声を潜めた。
「高瀬様は気付いてないかもしれないですけど、俺、今日待ち合わせから一回もトイレしてないんで♡」
「それがなに、…………っあ、」
「意味、分かりました?ソッチじゃないほうも今日のためにメチャクチャ溜めてきてるので、もし少しでも俺に申し訳ないなとか思ってくれてるんなら、最後のホテルで存分にファンサしてください……ねっ♡」
サングラスの奥に透けて見える、ぎらぎらと雄っぽく濡れた西田の目と目が合って、ゾクゾクと痺れるような感覚が全身に走る。このあとされることを想像してしまった。かあっと染まった顔すら隠せずに固まる僕の頭を優しく撫でて、シャキッと背筋を伸ばした頃、もう西田はいつも通りの穏やかな表情に戻っていた。
「さてと。高瀬様が見たいって言ってたインテリアのお店に寄ったあと、美味しい晩ご飯にしましょう♡」
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