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悪役令嬢、お茶会を開く
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週末はあっという間にやって来た。
朝から寮の厨房でアップルパイを焼いて
いると、アイリスがやって来た。
「おはようございます。セセリア様。
お手伝いすることはありますか?」
「おはよう。アイリス。もう少しで
パイが焼きあがるから、そこに出して
あるお皿とフォークをお盆に乗せて
おいてくれる?」
アイリスは頷くと、厨房の棚からお盆を
取り出し、皿とフォークを乗せた。
「そろそろいいかしら。」
オーブンの中を覗くと、こんがりとした
焼き色のアップルパイが目に飛び込んで
来た。
オーブン用ミトンをつけ、ゆっくりと
天板を引き出す。
すると厨房全体に香ばしいパイの香りが
広がった。
「わぁ!美味しそう!」
その香りと艶やかな焼き色に、思わず
アイリスが感嘆の声をあげた。
「温かいうちにサロンに運びましょう。」
週末の今日は学院は休みなので、廊下で
すれ違う生徒はいない。
アップルパイの香りを引き連れながら
私たちは生徒会サロンへと急いだ。
生徒会のサロンは、学院本館と繋がった
渡り廊下の突き当りにある、ガラス張りの
サンルームだ。
「いらっしゃい。待っていたよ。」
ドアを開けてくれたのはアンセル殿下
だった。
部屋の奥にはギルバートとレオンもいる。
「こんにちは殿下。焼きたてのアップル
パイをお持ちしましたわ。」
アップルパイをテーブルの上に置くと、
殿下はその香ばしい香りを堪能した。
「とても美味しそうな香りだね。早く
食べたいな。」
おねだりするような殿下の甘えた表情に、
私は少し戸惑った。
そういう顔、恋愛対象じゃない子にしたら
ダメでしょ。
危うくキュンとするところだった。
「あ、温かいうちに切り分けますね。」
私は動揺をかくすようにパイを切りはじ
めた。
「では、私はお茶を淹れますね。」
テーブルの上に準備されていたティー
ポットを手にすると、アイリスは手際よく
人数分のお茶をカップに注いだ。
「どうぞ、召し上がれ。」
パイと紅茶が全員にいき渡り、あとは口に
運ぶだけだ。
この時ハタと気が付いた。
あれ?なんで私、殿下とアイリスの間に
座ってるの?
二人に親密になってもらうためにお茶会を
開いたんだから、隣同志で座って欲しいん
ですけど!
アイリスに席を替わってもらおうと思い
立ち上がりかけた瞬間、殿下が声を上げ
た。
「美味しい!こんなにサクサクのパイは
初めて食べたよ!それにこの食感!これは
リンゴだけじゃないね?クルミかな?」
「そうなんです!殿下、よく気づきまし
たね!リンゴをキャラメリゼする時に
砕いたクルミを入れるのがポイントなん
です。歯ごたえが楽しめるでしょ?」
パイを作る時にこだわったポイントを褒め
られ、席のことも忘れて、私は熱弁した。
「私もクルミの入ったアップルパイは
始めてです!セセリア様は本当にお菓子
作りが上手なんですね!」
「ありがとう!喜んでもらえて嬉しいわ!
次はまた違うお菓子をご馳走するわね!」
アイリスにも褒められ、すっかり気分の
良くなった私は、本来の目的を見失って
三人での会話に夢中になっていた。
「じゃぁ、またセセリアのお菓子が食べ
られるのを楽しみにしてるよ。」
お茶会が終わるころには、次の約束まで
取付けられていた。
作戦失敗だわ…。
やっぱり二人が並んで座ってくれないと
会話も弾みやしない…。
部屋に帰ったら一人反省会だわ。
そして作戦の立て直しと、次に作るお菓子
を考えなければ。
私は大きなため息をついたのだった。
朝から寮の厨房でアップルパイを焼いて
いると、アイリスがやって来た。
「おはようございます。セセリア様。
お手伝いすることはありますか?」
「おはよう。アイリス。もう少しで
パイが焼きあがるから、そこに出して
あるお皿とフォークをお盆に乗せて
おいてくれる?」
アイリスは頷くと、厨房の棚からお盆を
取り出し、皿とフォークを乗せた。
「そろそろいいかしら。」
オーブンの中を覗くと、こんがりとした
焼き色のアップルパイが目に飛び込んで
来た。
オーブン用ミトンをつけ、ゆっくりと
天板を引き出す。
すると厨房全体に香ばしいパイの香りが
広がった。
「わぁ!美味しそう!」
その香りと艶やかな焼き色に、思わず
アイリスが感嘆の声をあげた。
「温かいうちにサロンに運びましょう。」
週末の今日は学院は休みなので、廊下で
すれ違う生徒はいない。
アップルパイの香りを引き連れながら
私たちは生徒会サロンへと急いだ。
生徒会のサロンは、学院本館と繋がった
渡り廊下の突き当りにある、ガラス張りの
サンルームだ。
「いらっしゃい。待っていたよ。」
ドアを開けてくれたのはアンセル殿下
だった。
部屋の奥にはギルバートとレオンもいる。
「こんにちは殿下。焼きたてのアップル
パイをお持ちしましたわ。」
アップルパイをテーブルの上に置くと、
殿下はその香ばしい香りを堪能した。
「とても美味しそうな香りだね。早く
食べたいな。」
おねだりするような殿下の甘えた表情に、
私は少し戸惑った。
そういう顔、恋愛対象じゃない子にしたら
ダメでしょ。
危うくキュンとするところだった。
「あ、温かいうちに切り分けますね。」
私は動揺をかくすようにパイを切りはじ
めた。
「では、私はお茶を淹れますね。」
テーブルの上に準備されていたティー
ポットを手にすると、アイリスは手際よく
人数分のお茶をカップに注いだ。
「どうぞ、召し上がれ。」
パイと紅茶が全員にいき渡り、あとは口に
運ぶだけだ。
この時ハタと気が付いた。
あれ?なんで私、殿下とアイリスの間に
座ってるの?
二人に親密になってもらうためにお茶会を
開いたんだから、隣同志で座って欲しいん
ですけど!
アイリスに席を替わってもらおうと思い
立ち上がりかけた瞬間、殿下が声を上げ
た。
「美味しい!こんなにサクサクのパイは
初めて食べたよ!それにこの食感!これは
リンゴだけじゃないね?クルミかな?」
「そうなんです!殿下、よく気づきまし
たね!リンゴをキャラメリゼする時に
砕いたクルミを入れるのがポイントなん
です。歯ごたえが楽しめるでしょ?」
パイを作る時にこだわったポイントを褒め
られ、席のことも忘れて、私は熱弁した。
「私もクルミの入ったアップルパイは
始めてです!セセリア様は本当にお菓子
作りが上手なんですね!」
「ありがとう!喜んでもらえて嬉しいわ!
次はまた違うお菓子をご馳走するわね!」
アイリスにも褒められ、すっかり気分の
良くなった私は、本来の目的を見失って
三人での会話に夢中になっていた。
「じゃぁ、またセセリアのお菓子が食べ
られるのを楽しみにしてるよ。」
お茶会が終わるころには、次の約束まで
取付けられていた。
作戦失敗だわ…。
やっぱり二人が並んで座ってくれないと
会話も弾みやしない…。
部屋に帰ったら一人反省会だわ。
そして作戦の立て直しと、次に作るお菓子
を考えなければ。
私は大きなため息をついたのだった。
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