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悪役令嬢、ヒロインを助ける
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「セセリア様、次の授業は音楽室だそう
ですわ。一緒に参りましょう。」
隣の席のエミリアは、なにかと私に声を
かけてくれる。
伯爵令嬢だそうだが、なぜか転生者の
私でも付き合いやすい、明るい子だ。
私とエミリアは、音楽室へ向かおうと
廊下へ出た。
「誰か、私の教科書見ませんでしたか?」
廊下にいる生徒に、手あたり次第声を
かけている子がいた。
「あの、私の教科書……」
「知らないわよ。知るわけないでしょ。
私が盗んだとでも言いたいの!?」
声をかけられた赤毛の女生徒が、きつい
口調で言い返した。
「いえ、そういうつもりじゃ……」
あ~…。こりゃ、完全にヒロインを虐める
ゲームのイベントだ。
確かあの赤毛はセセリアの取り巻きで
ゲームの中では名前もないモブキャラだ。
本来ならセセリアが教科書をかくして
ヒロインを困らせるんだけど、私は
そんなことしてないから、赤毛の子が
やったんだろうな。
そういえばこのイベント、カイン殿下が
通りかかってヒロインを助けるんだっけ。
え!?どうしよう!カイン殿下留学中で
いないよ!
私が殿下を太らせちゃったせいで、
ここにも影響が出ちゃう!
どうしたらいいかを、ぐるぐる考えて
いると、突然赤毛が声を荒げた。
「教科書がないなら授業は受けられない
わね。私たちの邪魔になるから、外へ
行ってくださる?」
赤毛はそう言うと、ヒロインを突き飛ば
そうとした。
「あの、私の教科書でよかったら、お貸し
しましょうか!?」
気付くと私は二人の間に割って入って
いた。
その場にいた全員の視線が、一斉に私に
向けられた。
あ~…視線が痛い…。
でもこの場にカイン殿下がいないのは
私のせいだから、なんとかするしかない
よね。
「セセリア様!カイン殿下の婚約者である
あなたが、こんな子に教科書を貸す必要
なんてありませんわ!」
ヒロインに救いの手を差し伸べた私に、
眉間にシワを寄せた赤毛が詰め寄った。
「でも私、次の授業は音楽だから、音楽
以外の教科書なら問題ないですわよ?
どの教科をお貸ししたらいいかしら。」
私は、赤毛の静止を無視して、再び
ヒロインに声をかけた。
「あ、ありがとうございます…。歴史の
教科書です。」
ヒロインはチラリと赤毛を見てから
答えた。
「歴史ね。わかったわ。エミリア、
申し訳ないけど、私の机から歴史の
教科書を取ってきてくれるかしら?」
私の後ろで事の行方を見守っていた
エミリアは、小さく頷いてから小走りで
教室へ戻り、歴史の教科書を手に戻って
きた。
「はい、どうぞ。」
エミリアから教科書を受け取ると
そのままそれをヒロインに手渡した。
赤毛は悔しそうな表情をしていたが
憎々しげに踵を返すと、その場を
去っていった。
「じゃぁ私たちは音楽の授業があるから、
これで失礼するわね。行きましょう
エミリア。」
そう言うと、私はヒロインに背を向け、
廊下を歩きだした。
「あ、あの!ありがとうございます!」
ヒロインの声が後ろから聞こえた。
「セセリア様、お優しいのですね!私
感動してしまいました!」
音楽室へ向かう道すがら、エミリアが
興奮気味に言った。
「そんなことないわよ。困ってる人が
いたら助けるのは当たり前のことで
しょ。」
っていうか、私のせいで彼女を助ける
役目の人がここにいないんだから、
私が責任取るしかないのよ…。
褒めてもらっても、素直に喜ぶことは
今の私にはできなかった。
「いいえ!皆が関わりたがらないあの子に
手を差し伸べるなんて、誰にでも出来る
ことではありませんわ!」
エミリアは、私が謙遜していると思って
いるらしい。
「私もそう思いますよ。」
突然後ろから声をかけられ、振り向くと
そこにはアンセル殿下の側近のレオンが
いた。
「レオン様、見ていたんですか!?」
アンセル殿下の知将と言われている
レオンに、あの一部始終を見られていた
かと思うと、顔から火が出る思いだ。
「騒ぎが大きくなりそうなら、仲裁に
入ろうかと思ったのですが、私の出番は
ありませんでしたね。」
レオンは少し残念そうに笑った。
私がなにもしなくても、カイン殿下の
役割はレオンがしていたということか。
あの赤毛の恨みを買ってしまった上に
無駄に目立ってしまったよ…。
そうじゃなくても、最近アンセル殿下と
一緒にいることが多くて、女子の視線に
晒されているというのに…。
「セセリア嬢が、アンセル殿下の言葉を
忘れずにいてくれて嬉しかったです。」
「アンセル殿下の言葉…?」
「はい。転入生のこと、気にかけてあげて
欲しいと言っておられましたよね。」
そういえばそんなこと、言ってましたね。
でもそれは殿下に言われたからじゃなくて
ゲームの内容に支障が出ると思ったから
なのよ。
むしろ私は、ヒロインには関わりたく
なかったんだから。
「どうかこれからも、彼女のことを
助けてあげてくださいね。」
そう言うと、レオンは一礼して去って
行った。
その後ろ姿を見送っていた私は、面倒な
ことになる気がして身震いするのだった。
ですわ。一緒に参りましょう。」
隣の席のエミリアは、なにかと私に声を
かけてくれる。
伯爵令嬢だそうだが、なぜか転生者の
私でも付き合いやすい、明るい子だ。
私とエミリアは、音楽室へ向かおうと
廊下へ出た。
「誰か、私の教科書見ませんでしたか?」
廊下にいる生徒に、手あたり次第声を
かけている子がいた。
「あの、私の教科書……」
「知らないわよ。知るわけないでしょ。
私が盗んだとでも言いたいの!?」
声をかけられた赤毛の女生徒が、きつい
口調で言い返した。
「いえ、そういうつもりじゃ……」
あ~…。こりゃ、完全にヒロインを虐める
ゲームのイベントだ。
確かあの赤毛はセセリアの取り巻きで
ゲームの中では名前もないモブキャラだ。
本来ならセセリアが教科書をかくして
ヒロインを困らせるんだけど、私は
そんなことしてないから、赤毛の子が
やったんだろうな。
そういえばこのイベント、カイン殿下が
通りかかってヒロインを助けるんだっけ。
え!?どうしよう!カイン殿下留学中で
いないよ!
私が殿下を太らせちゃったせいで、
ここにも影響が出ちゃう!
どうしたらいいかを、ぐるぐる考えて
いると、突然赤毛が声を荒げた。
「教科書がないなら授業は受けられない
わね。私たちの邪魔になるから、外へ
行ってくださる?」
赤毛はそう言うと、ヒロインを突き飛ば
そうとした。
「あの、私の教科書でよかったら、お貸し
しましょうか!?」
気付くと私は二人の間に割って入って
いた。
その場にいた全員の視線が、一斉に私に
向けられた。
あ~…視線が痛い…。
でもこの場にカイン殿下がいないのは
私のせいだから、なんとかするしかない
よね。
「セセリア様!カイン殿下の婚約者である
あなたが、こんな子に教科書を貸す必要
なんてありませんわ!」
ヒロインに救いの手を差し伸べた私に、
眉間にシワを寄せた赤毛が詰め寄った。
「でも私、次の授業は音楽だから、音楽
以外の教科書なら問題ないですわよ?
どの教科をお貸ししたらいいかしら。」
私は、赤毛の静止を無視して、再び
ヒロインに声をかけた。
「あ、ありがとうございます…。歴史の
教科書です。」
ヒロインはチラリと赤毛を見てから
答えた。
「歴史ね。わかったわ。エミリア、
申し訳ないけど、私の机から歴史の
教科書を取ってきてくれるかしら?」
私の後ろで事の行方を見守っていた
エミリアは、小さく頷いてから小走りで
教室へ戻り、歴史の教科書を手に戻って
きた。
「はい、どうぞ。」
エミリアから教科書を受け取ると
そのままそれをヒロインに手渡した。
赤毛は悔しそうな表情をしていたが
憎々しげに踵を返すと、その場を
去っていった。
「じゃぁ私たちは音楽の授業があるから、
これで失礼するわね。行きましょう
エミリア。」
そう言うと、私はヒロインに背を向け、
廊下を歩きだした。
「あ、あの!ありがとうございます!」
ヒロインの声が後ろから聞こえた。
「セセリア様、お優しいのですね!私
感動してしまいました!」
音楽室へ向かう道すがら、エミリアが
興奮気味に言った。
「そんなことないわよ。困ってる人が
いたら助けるのは当たり前のことで
しょ。」
っていうか、私のせいで彼女を助ける
役目の人がここにいないんだから、
私が責任取るしかないのよ…。
褒めてもらっても、素直に喜ぶことは
今の私にはできなかった。
「いいえ!皆が関わりたがらないあの子に
手を差し伸べるなんて、誰にでも出来る
ことではありませんわ!」
エミリアは、私が謙遜していると思って
いるらしい。
「私もそう思いますよ。」
突然後ろから声をかけられ、振り向くと
そこにはアンセル殿下の側近のレオンが
いた。
「レオン様、見ていたんですか!?」
アンセル殿下の知将と言われている
レオンに、あの一部始終を見られていた
かと思うと、顔から火が出る思いだ。
「騒ぎが大きくなりそうなら、仲裁に
入ろうかと思ったのですが、私の出番は
ありませんでしたね。」
レオンは少し残念そうに笑った。
私がなにもしなくても、カイン殿下の
役割はレオンがしていたということか。
あの赤毛の恨みを買ってしまった上に
無駄に目立ってしまったよ…。
そうじゃなくても、最近アンセル殿下と
一緒にいることが多くて、女子の視線に
晒されているというのに…。
「セセリア嬢が、アンセル殿下の言葉を
忘れずにいてくれて嬉しかったです。」
「アンセル殿下の言葉…?」
「はい。転入生のこと、気にかけてあげて
欲しいと言っておられましたよね。」
そういえばそんなこと、言ってましたね。
でもそれは殿下に言われたからじゃなくて
ゲームの内容に支障が出ると思ったから
なのよ。
むしろ私は、ヒロインには関わりたく
なかったんだから。
「どうかこれからも、彼女のことを
助けてあげてくださいね。」
そう言うと、レオンは一礼して去って
行った。
その後ろ姿を見送っていた私は、面倒な
ことになる気がして身震いするのだった。
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