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悪役令嬢、作戦を立てる

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「セセリア!よかった!気がついたんだな!」

ベルから、私が目覚めたことを知らされた、
父と母と思われる二人が、慌てた様子で部屋に
駆け込んで来た。

「記憶がないって本当なの?」

公爵夫人と思われる、華やかないでたちの
女性が、声を震わせながら言った。

「…そうみたいです。」

どんな表情をしていいのかわからない私は、
張り付いた笑顔で答えた。

「やっぱりカイン殿下との婚約がいけなかった
のかしら…。来週12歳の誕生日を向かえると
いうのに、こんなことになるなんて…。」

公爵夫人が、肩を震わせながら呟いた。

どうやら、すでに第二王子カインとの婚約は整って
いるようだ。

「あなたがカイン殿下との婚約を、こんなに
嫌がるとは思わなかったのよ。まさかここまで
アンセル殿下のことを想っていたなんて…。」

公爵夫人は、瞳を涙で潤ませながらそう言って、
私の手を握った。

セセリアは、第一王子妃になりたかったの
だから、カイン王子との婚約はさぞかし不満
だったのだろう。

婚約が成立したと公爵から聞かされたあと、
癇癪かんしゃくをおこして、部屋を出ていき、
そのまま階段から落ちたということらしい。

公爵と夫人は顔を見合わせて、この婚約は
辞退させて頂いた方がよいのでは、と小声で
話していた。

「あ、あの!私、カイン殿下との婚約嫌じゃ
ないです!」

私は、ゲームの中のセセリアと違い、カイン
王子のことが嫌いではなかった。

むしろ、明るくて誰にでも好かれるタイプの
アンセル王子より、物静かで口数の少ない
カイン王子の方が、好みかもしれない。

「本当に…大丈夫なのか?記憶を失っている
からそう思うのではないか?」

公爵は、心配そうに私の顔を除きこんだ。

「大丈夫です!階段から落ちたショックで
ちょっと混乱してるけど、記憶もそのうち戻る
と思うし、問題ないです!」

カイン王子との婚約を、こちらから辞退など
したら、公爵家に対する王家からの印象は悪く
なるし、セセリアの将来にも影響が出る
はずだ。
この世界で生きていくなら、なるべく平穏に
過ごせる方がいい。

「そうか、お前がそう言うなら…。わが公爵家
としても、カイン殿下以上の良縁はないだろう
からな。」

公爵の言う通りだ。
第二王子と婚約できるなんて、充分な幸運だ。
第一王子と結婚して、未来の王妃になろう
なんて、欲深いにも程がある。
…と、一般市民出身の私は思うのだけど、
生まれながらの貴族であるセセリアには、
わがままというより、向上心だったのかも
しれない。
だからと言って、誰かをいじめたり貶めたり
するのは間違いだけど。

「何はともあれ、あなたが目覚めてくれて
ホッとしたわ。今はとにかくゆっくり
療養して、少しづつ元の生活に戻れば
いいわ。」

そう言うと、公爵夫妻は安心した表情で仲良く
部屋を出て行き、私はベルと二人きりになった。

「お嬢様、お腹は空いてらっしゃいませんか?
3日も食事をなさっていないのですから、
なにか召し上がらないと。」

ベルに言われて、自分が空腹であることに
気づいた。

「そういえば、お腹空いてるかも…。」

「ではすぐに朝食をお持ちしますね!」

ベルは、私が言い終わるのを待たずに出て
いくと、パンやスープ、それにサラダと
フルーツを、銀のお盆に乗せられるだけ
乗せて戻ってきた。

「来週のお誕生日の前に意識が戻られて
良かったですわ。きっとカイン殿下もお祝いに
いらっしゃいますよ。」

そう言いながらコップにミルクを注ぐと、私に
差し出した。

「殿下が来るの!?私に会いに!?」

「もちろんですわ。婚約者なのですから。」

ゲームの中では16歳だったカイン王子も、今は
まだセセリアと同じ12歳のはず。
まだ少年のカイン王子に会えるということか。

うわ~、めっちゃ楽しみ!
絶対可愛いでしょ!!

12歳のカイン王子を想像して、思わず顔が
緩む。

いや、喜んでいる場合じゃないぞ。
私は今置かれた現状と、これから先の展開に
ついて、考えなければならない。

カイン王子に婚約破棄されないためには
どうしたらいいか。

とりあえず、情報が必要だ。

「カイン殿下のこと、よく知りたいんだけど、
好きな物とか嫌いな物とかわからないかな。」

頼れる相手が他にいないので、ダメもとで
ベルに聞いてみた。

「そうですねぇ…。たしか好き嫌いが多くて、
特に野菜はほとんど口になさらないとか。でも
お菓子はよくお食べになるそうですよ。」

野菜が嫌いでお菓子が好き…。
ちょっと意外だな。
私の知ってるゲームの中の彼は、苦手なもの
なんてない、完璧な王子だから。
好き嫌いがあるとわかって、親近感が湧いて
きた。

「ベルは殿下のこと、よく知ってるんだね。」

「はい。私の姉は王宮務めなので、そういう
情報は耳に入るんですわ。」

それはありがたい。
王子の心を掴むのに、役立ちそう。

「お嬢様の誕生会には、お菓子をたくさん
用意して殿下をお迎えいたしましょうね。
クッキーにパイ、あとはなにがいいかしら。」

王子を向かえる準備が楽しみになってきた
ベルは、わくわくした表情で言った。

「そのお菓子、私が作ってもいいかな?」

ラッキーなことに、私はお菓子作りが得意だ。
ゲームオタクであることを隠すために、学生時代は
お菓子研究会に所属していたのだ。
たいていのお菓子やケーキは作ったこと
があるし、味には自信がある。
これを生かして王子の胃袋を掴めば、婚約解消を
回避できるかもしれない。

「自分の誕生日に自分でお菓子を作るなんて、
変かもしれないけど、殿下に喜んでもらえる
かな~なんて…・」

少し照れくさそうに言うと、ベルは瞳を
輝かせた。

「お嬢様!すばらしいお考えですわ!」

「そ、そうかな。」

「もちろんですわ!殿下もきっと喜んでください
ます!私も全力でお手伝いいたしますね!」

「ありがとう。よろしくね!」

こうして《カイン殿下の胃袋を掴め大作戦》が
開幕したのである。
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