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え?ライブ限定?

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「ちょ!見ろよ!リヒト。めっちゃ話題なってる!」
ミナミ君が嬉しそうに、俺の所にやってきた。
俺とるい君のキス事故配信は、再生回数が、爆上がりしていた。
スタドリのこれまでの配信の中でダントツ一位。
結局、生配信だった為、流れた動画は消す事も出来ず…
また観たい!というコメントの嵐に、社長の「OK」の一声で、なんと再配信となった。
それに釣られるように、MVの動画も再生回数を伸ばし、音楽配信も伸びるという相乗効果で、社長は笑いが止まらない…と言っていた。
しかも、ネットニュースでも話題に上がったらしく、YouTubeの登録者数まで爆上がりしていた。

「俺は、いつ刺されるかと…ヒヤヒヤしながら生活していたのに…」
「ドンマイ!」
ミナミ君はお気楽で良いな…ほんと。

あのキスマは、数日で消えたけど…
とおる君に見られた事実は消せなくて。
この間ボソッと言われた
「まぁ、何となくリヒトの気持ちは見えてたけど、るいも同じとは分からなかった…リーダーとして、言える事はだな…ライブ前のエッチは控えてくれ!…それだけだ」
「いや!そんな関係じゃないし!俺は、るい君に、ただ揶揄われてるだけだから!」
何度も説明したけど、とおる君からは、ニヤけた笑いしか返って来ない…
「これからの配信、もうちょっとグレードアップさせないとな」
なんてブツブツ言ってるのがめちゃくちゃ怖い、配信内容の計画はリーダー次第だから。

「るいは、割と執着の強い、ネチっこいムッツリだと思うから…まぁ、頑張れ」
そのお言葉は、人間観察が得意なとおる君からだと思うと余計に本当ぽい。

社長は少し変わった人で、俺達のマネージメントはするけど、そもそも自分達の好きにしたら良いんだ、と言う。
不倫とか犯罪とかじゃなければ、面白い事は何でも大丈夫!って感じ…
うちの事務所のコンプライアンスは、人を困らせない事!という、単純明快な物。
若干、俺は困ってるんだけど…半分嬉しいから…更に困る。
そして、一部のファンは困ってるかもしれないと思うと、やっぱりダメだと思う。俺は、意外に真面目なんだよ…


一方のるい君は
「リヒト、大丈夫!僕たちのファンは、喜んでくれてる!」
キュルンとした笑顔を向けてきて、表のるい君は可愛いイケメンで、相変わらず、どっちがどっちか分からない。
あのダークなキャラはどうした?

それでも時々は、お互いのガチファンから怖いコメントが寄せられる事があるけど
「リヒトの事は、僕が護るからね!」
なんて、真剣な顔で言われると、もう、反論のしようが無い。


1週間後には、ライブが迫っていた。
それこそ、卵でも、投げつけられる覚悟で…挑んでいた。
僕たちの本業は、歌声を届ける事、ダンスで風を起こす事。
ファンサは大事だと思うけど…
あんまりやり過ぎちゃうと、るい君のファンを泣かせてしまうと思って…
僕のファンも、悲しむかもしれない…
仲良しだな…ってくらいが良いと思って…この間、るい君に提案したのだ。
あんまり過激なファンサはダメだって。
「分かったよ」
と言ってくれたけど。本当に大丈夫かな?


「スタドリーーーー!スタートアップ!!」
リーダーのとおる君の掛け声に、メンバーとスタッフが
「オオーーー!!!!!」
って腕を突き上げる。

ステージに飛び出していく俺達。
アップテンポのメロディに合わせて、身体を動かす。
るい君と目が合うと、ウインクされ、俺は、少しの間、るい君を見つめ返してしまった。

「キャーーーー!るいリヒィーーー!」
声援が上がる。やっぱりファンの子達は良く見てる。
気をつけなくちゃ…と思いながら、ステージを駆け巡った。
るい君も分かってくれたのか、今日のステージでは、触れ合いは、ほとんど無かった。ハイタッチ程度で、いつものハグは無し。
ホッとしたような、残念なような気持ちに困惑する。

ゆっくりとしたテンポに変わる…
バラード曲だ。
俺達のグループは、ダンス曲が多いので、数少ない、歌を聴かせる為の曲。
この曲の歌詞は…好きになり、やっと想いが通じ、恋人になるが、周りに騙され、別れが訪れてしまう…哀しみの溢れる曲「Kiss Bye…Kiss」。
あまりに最後が哀しいので、このまま終わらせないで続きが欲しいというファンからの要望が多く、それに応えた曲を作るかどうか…スタドリ陣営では賛否に分かれる曲だった。

いつものように、とおる君とミナミ君のペアの見せ場…
見つめ合い、歌い合う二人…いつもなら、ここで去って行くのを哀しい眼で追うとおる君…
なのに立ち去るミナミ君の腕を掴み、引き寄せたと思うと…!!!
なんと!!キスした。
しかも、結構ガッツリとした長いキス。
は?え?えーーーーーー!?
「キャーーーーーーーーーー!!!」
悲鳴みたいなファンの声援。

ポカーンと二人を見つめている俺の横…背の高い人が来た…空気で分かる、これは、るい君。
肩をグッと掴まれた。
顎に手をかけられたと思うと、目の前にるい君の顔が現れた。
唇がそっと触れ…ステージの上だということを忘れそうになる。
さっきまで、ファンが…とか、色々考えていた事が飛んだ。
それがどのくらいの時間なのか、自分では分からない。
直立不動の俺に、背の高いるい君が、かがみ込んで...合わさる唇。
瞳を見開いていた俺と、るい君の閉じられていた瞳がゆっくりと開いて…
唇と瞳は、同じく合わさる。

どうして?
なんで?過度なファンサはしないって決めたのに…

覚えたリズムに身体は動くけど、放心状態の俺は、バラード曲が終わっても、ぼーっとしたままで。
逆に、凛々しい顔のるい君が、俺の手を取る。
マイクを握るのは、俺達みたいに、ミナミ君と手を繋いだとおる君
「みんな~びっくりした?この曲は、とても哀しいストーリーだから…そういう切ない感じを振り付けに入れたくて…考えぬいた結果、感情の高まりを表現する為、メンバー同士のキスを取り入れたんだ…これは、ライブ限定だから、これからも、見に来てね!!」
バチコーンとウインクをして言葉をきめた。
今の言葉を反芻するに…
ライブの度に、この曲の時は…
みんなの前でキスをする。。。
嘘だろ?え、マジか?
そう思って、るい君をチラリと見ると、うんうん頷いている。
どうやら、合ってるらしい…

その後も、大盛り上がりのライブは、あっという間に終演した。

「とおる君!どうゆうこと?!」
ライブ終わり早々に袖口で、俺は詰め寄った
「あー、実はな…るいに、頼まれた。リヒトが相当悩んでるみたいだから、何とか『るいリヒ』のキスがファンに受け入れて貰える方向に出来ないか?って…」
「ウソ?るい君が?」
「あんなマジなるいは見た事が無かったからな、まぁ、人肌脱いでやったわけよ?なんか知らんけど、ミナミはノリノリだったけどな…あ、来たぞ…当人が」

「リヒト…ちょっといい?」
るい君の楽屋に連れて行かれた。
扉が閉まると、沈黙が訪れる…先に口を開いたのは俺
「なぁ、るい君、どう…」
途端、唇は塞がれる。ライブの興奮が残るのか、激しいキスの連続に、俺の息が続かない
「まっ、ちょ、あっ…待って!」
やっとの事で身体を押すと、止まってくれた。
「リヒト…僕のモノになりな…ファンとの恋愛は禁止だけど、メンバー同士の恋愛は禁止じゃない」
いや、それ、もっとダメなんじゃ…
そもそも論だけど。それは前提として無いから、禁止になってないだけだよ。

「また揶揄ってるの?」
「リヒトが、可愛すぎるからイケナイんだよ…」
揶揄ってるのでも無いなら、るい君の言う恋愛って何?
俺の事好きなの?
でも、好きだ…とか、直球では言ってくれないるい君は、やっぱり少し意地悪だと思う…
でも可愛いと言われて、嬉しいのは、相手がるい君だから…他の人からなら、嫌悪感しか無い。

「可愛いから…誰にでも、キ…いや、チュウするのかよ?」
キスとか言うの恥ずかしいんだよぉ
「ん?キス?誰にでもは出来ないな。リヒトへのファンサだよ?そして、ファンにも向けてる。みんなの反応良かっただろ?バラード曲のキス」
んもぉー、この人は!!
はぐらかすし、どこかで俺の気持ちが分かってて、楽しんでると思う。

「でも、ライブの度に…するんだよ?みんなの前で…チュウ。嫌じゃないの?」
「どうかなぁ~僕、あんまり経験無いから分かんないっ!だから、つい舌とか入れちゃうかもぉ~」
ついって何だ!!
変なとこでキャラスイッチ入れるのやめてくれよ。

「おーい、二人とも打ち上げ行くよ!」
ドンドンと、扉が叩かれ、とおる君の声がした。
扉を開けずに言うリーダーは、俺らが中でイチャイチャしてるかもしれないと思ってる気がして、慌てて声を張り上げ
「すぐ行くよ!」
と、俺は答えた。
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