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上様の本気 side足立

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七瀬の赤くなった手首を思い出し…やり過ぎた事を後悔していた。
とにかく、七瀬には、心から安心してオレを好きだと思って貰えるようにしたい…と考えに考え抜いた結果。
オレは目の前の女子達にゆっくりと語り始めた。

「実は…禁断の恋に悩んでる」
彼女達の目が光ったように見えた。
初めて男を好きになってしまい、何かの間違いじゃないかと、戸惑いながらも、溢れる想いを止められず…ついに告白したが…呆気なく振られてしまった。と…ほとんど真実の話。
「え?上様が振られたの?何様よ!一体誰なの?」
俺、上様とか呼ばれてたんだ…時代劇か?まぁ、それはどうでもいい
「いや、彼の迷惑になる事だけはしたくない!それにオレ…まだ諦めてないから!その相手は…なな」
すると、俺の言葉に割り込んで、さっきとは別の女子が口を開く。
「上様!私!全力で応援する!ていうか…相手って七瀬君でしょ?上様、結構バレバレだよ」
自分から好きな相手の名前を告げる前にバレてしまった…女子の鋭さは、侮れもんなんだな。
もう1人の方は、まだ不満げに、振るなんて…七瀬君ヒドイとか言ってるから、俺は、鋭い声をあげた。
「七瀬には、絶対に誰も責めるような事すんなよ…もし分かったら容赦しないからな」
わかったよ、上様…と渋々な言葉が返ってきた。

女子の情報網の広さを利用したオレの計画は、思った以上の成果を上げた。
あっという間に広がったのだろう、恐ろしい程の勢いで、次々と、色んな人から聞かれる…
上様、振られたの?なんて。
イケメンも振られんだな…って嬉しそうに言う奴まで居て、容赦無く傷をえぐってくる。確かに、別れ話をされたオレは振られたワケで…
茶化したように言われる、その度に
「振られたけど諦めてない!オレは本当に七瀬が、好きなんだ!」
って真正面から答えた。誰も七瀬を傷付けんなよ!って言葉も忘れず放つ。
みんなに想いを知られても、全く恥ずかしくなんかない。
七瀬には、知って欲しかった。俺が七瀬を好きだという事実を周りに知られても何の被害も受けないという事。
誰にも邪魔はさせないという強い意志をオレは持っていた。
捨て身のオレの執念深さを露呈する事になったが、構わない。
そして、最も感じて貰いたかったのは、俺は簡単に七瀬を諦めも、捨てもしない…ということを。


ただ…一つだけ、出来なくなった事がある、それが七瀬に触れる事。
触れようとすると、あの夜の涙を思い出してしまい身を引いてしまう。
あとは、願がけの想いもあった。
次に触れる時は、オレを求める七瀬からであって欲しいという…切実なる願い。

気持ちだけはジリジリとしながらも、時は過ぎて…数日後には、バレンタインが迫っていた。
綺麗な青いリボンのかかった小さな箱を眺める。
中には…従姉妹と一緒に選びに行ったプレゼントが入っている。
元はと言えば、その事が七瀬に不信感を与える事になってしまったんだけど…

このペンを見つけた時、これだ!と思った。七瀬が覚えてるかは分からないけれど、初めて二人でマックに行く事になって、そしてほぼ初めてみたいな会話、高鳴る心臓、そして泣きそうな程に美しい夕焼け。
あの時の情景が、目の前にあった。
そして、レジで店員さんにペンに刻む名前を告げた時の高揚感と多幸感。

オレは…LINEを打った。バレンタインに会いたいと…何もしないからって言葉を付けて。このプレゼントだけは、どうしても渡したかったから。
それなのに、七瀬からの返事は無いまま…既読も無く、不安は募った。ふと気付いた、そうか…オレは、LINEブロックされてるのか…
悲しい気持ちを奮い立たせ、なんとか手紙を書いて、そっと七瀬の机に忍ばせた。
返事は無かったが、あとは、当日…彼を家で待つだけ。来てくれる事を信じて。
優しい彼なら…例え、プレゼントは受け取らないと言う為だとしても、来てくれるはずだ。

インターホンが鳴って、慌てて玄関へと走った。階段で転ぶかと思う程、慌ててかけ降りた。
ドアを開けると俯く七瀬が立っていて、ものすごくホッとした。
来てくれた…

部屋に入った七瀬が、オレのロッカーに入れられていたチョコの山を見てると分かって
「断ったけど、勝手にロッカーに入ってたのは、持ち帰ったんだ。捨てるつもりで」
と、つい言い訳みたいに言ってしまう。
彼はしばらく考えた後、それらを貰うと言った。
その真意は全く分からなかったけど、代わりにと渡されたコンビニの袋を覗いて、思わず顔がほころんだ。
ビターチョコ…七瀬は、俺が甘い物が苦手な事に気付いてくれてたんだ。
そして、バレンタインにチョコ。
どうしても期待してしまいそうになって、オレの手は思わず七瀬を抱きしめかけたが、それはしてはイケナイと…手をグッと下ろした。
オレからは、触らない…七瀬から触ってくれるまで…そう決めたのだから。
下ろした手をポケットに入れ、箱を取り出し彼に渡した。

「名前入りだから…他の誰も使えないから…」
七瀬専用だからって言いたいのに、ちょっと押し付けがましい言い方になってしまった。

彼は箱を開け、動きが止まり、思わずペンに嫉妬してしまう位、真剣な瞳で見つめていた
「これ見つけた時、嬉しくて…初めて二人でマックに行った時の空の色だなって…」
伝えたかった、このペンを選んだ理由。オレは、必死で笑顔を作ろうとするが、強引なオレを実は疎ましく思っていて、本当に彼がオレを嫌ったのなら、思いを断ち切らなくてはいけないのかもしれない…それが頭の片隅にあって、どうにも上手く笑えない。
彼は…次第に目尻に涙を浮かべ始めた。七瀬が涙脆い事を知ってるのは、オレ以外にどれだけ居るのだろうか…オレ一人だけだといいのにと思う。
思わず指が伸び、彼の目尻の滴に触れたが、すぐに手を引っ込めた。
驚いた顔の七瀬は、涙を浮かべている事に気付いていないみたいだ…自分の指で頬をなぞり、涙を確認している。

そして、流れる涙はそのままに、オレとペンを交互に見た後…
急に彼が近くなったと思ったら、俺を抱きしめてくれた…ギュッと強く。
しっかりと存在を確かめるように。
ふんわりと彼の香りがした。

「ごめ、ん…俺っ、やっぱり、足立が、好きだよ…」
好きって言葉が、再び聞けるとは思ってなくて、現実だと実感したくてオレも彼を抱きしめ首筋に唇を寄せた。
そして、抱き寄せた彼を少しだけ離すと、瞳を見ながら言葉を噛み締めるように伝える。

「不安な七瀬ごと受け止めるよ…オレは絶対に離れない」

すると彼の方から、ゆっくりと唇を近づけてくれた…
数年振りじゃないかってくらいに、本当に久しぶりに感じられた。
こんなに積極的な彼は初めて…くらいの彼なら与えられる熱く甘いキス、どこまでも糖度を増す口付けは二人をどこまでも溶け合せた。
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