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七瀬の誕生日デート

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【25日空けといて、デートしよ!行きたいとこ考えといて♡】
突然の足立からの♡付きのLINE。
デート?!しかも、その日って…俺の誕生日なんだけど…
知ってて…なのかな。
でも、言った事ないから知らないはず…
デートって、改めて言われると、めっちゃ緊張するし、なんだか、恥ずかしい。
周りから見たら、イケメンとその友が、ただ、二人で居るだけに見えるだろうけど、俺の中では、全く違う物。
今までも、二人でゲームセンターとか買い物は行った事あるけど…外ではあんまり恋人っぽくしないで欲しいって俺が頼んだから…
なんか、いつも消極的な俺のせいで、足立を振り回してる気がする。
ごめんと思うんだけど、勇気が出ない…せめて、今日のデートだけは、俺も少しは積極的にしようと、心の中で誓う。


その日は、さすがにジャージでなく、ロンTにジーパンというオーソドックスなスタイルで待ち合わせに向かう。
マジで服のセンスとか無いよなぁ、俺。
目の先には、眩しいオーラを放ちたる男が立っている。
高級そうなセーターにジャケット、着る人が違えば…ってヤツだ。
近付く俺に、いち早く気付き、これぞ正に最上級という笑顔が向けられた。
眩しい…なんか、俺なんかに勿体ない。
こんな美丈夫と恋人ってのが、信じられない。

「で、どこに行きたい?考えておいてくれた?」
「えっと…本当にいい?行きたいのは、洞窟なんだけど…」
探検するの?と笑いながら問われ…
俺は説明した。幼い頃に家族と行った鍾乳洞が、怖かったけど綺麗で凄かったから、足立と行ってみたいと思って…と伝えた。

本当は、そこなら誰に見られる事も無く手を繋げるかな…なんて思惑もあったり。
あとは、そんな場所なら、今までの彼女達とのデートでは、流石に行って無いだろうから…俺だけとの思い出にならないかな…って。
俺の本心は隠したままだけど、足立は、行きたい所に行こうと言ってくれた。

2人で電車に乗って…
横に座るとソワソワする。
まだ沢山乗ってる乗客の女性の視線が足立に集まってるのが分かる。
当の本人は、お構い無しで、見られる事も慣れてるのか、全く視線など気にする素振りも見せず、ただ、俺の方を見てくれていた。
今この瞬間の足立を独り占めする事が出来て…本当に嬉しかった。
少しずつ乗客が減っていく…
そして、鍾乳洞を宣伝する看板だけは立派な、ひっそりとした、人の少ない寂れた駅に着いた。バスだと距離があるからか、電車より車で行く人が多いのか、あまりに人の少ない感じは、異世界に紛れ込んだのでは無いかと思う程。
この駅で降りたのは、俺達と数組の家族連れとカップルのみ。
ここからは、バスなので…
停留所で足立と並んで待っていると、前に居る小さな女の子が振り向いて「おデート?」って可愛いく聞いてくる。
オロオロする俺とは違い、ゆったりと「そうだよ」と微笑み返す足立を見つめた。
俺にも、そんな風に答えられる時が、いつか来るのかな?

小さなバスに乗り込むと、目的地までは、小一時間程かかるみたいだ。
窓の外を眺める振りをして、同じように外を見る足立の綺麗な横顔を見ていた。
俺の視線に気付いたのだろう、足立が振り向き、穏やか笑うと、そっと俺の手を握った。
バスを降りるまで...手を繋いだままで、心までも、とても暖かかった。

バスを降り、少し歩くと鍾乳洞の入口が見えた。
途中、土産物屋を通り過ぎる。
「後で寄ろう!」
なんて話しながら、鍾乳洞の入口を目指す。
自動販売機で入場券を買おうとして、大人2人分のボタンをさっさと押された。
自分のは払うと言う俺に
「誕生日なんだから彼氏のオレに出させてよ」
と言われ驚いた…誕生日を知ってたんだと思った。
やっぱり、これって、誕生日デートなのかな…途端ドキドキが増してしまう。

中に入ると、探検だな…ってニヤッと笑う足立は、当たり前みたいに俺に手を差し出した。
再び繋いだ手を意識してしまう。
学校から離れ、こんな風に外で手を繋ぐ事が出来るなんて…夢みたいだなぁ~って思ってたら、それが伝わったみたいに、足立の指が、俺の指と指の間に滑り込んだ。
コレって、いわゆる、恋人繋ぎったヤツだ!とじんわりと感動する。

フワフワする感覚で歩いていると、下が濡れているので滑りそうになり、抱き留めてくれた足立と顔が一気に近くなっり、彼は俺の頬に口付けを落とした。
思わず、周りを見渡す。
「大丈夫、誰も居ないよ?」
彼に、そのまま唇まで奪われてしまう。
何度しても、やっぱりこの行為に心臓は落ち着かない。
遠くから、子供達が騒ぐ声がして、慌てて離れたけど、顔を赤らめる俺と対象的に、余裕ある笑みの足立が憎らしい。
俺の方が経験が少なくて、すぐにドキドキしてしまってるよな。

小さな池のようになっている場所に出た。その中には沢山のお賽銭が投げ込まれている。
青いライトに照らされ、幻想的な光景に目を奪われていると…
「願い事しようよ」
って、足立から小銭を渡される。
投げ入れながら…願い事を唱える。
【足立と少しでも長く一緒に過ごせますように】って、弱気なお願いをした。
切れ長の目を閉じる彼が何をお願いしたのかは、気になったけど…


俺は、足立にはまだ言えていないけど…小学生の頃に、父では無い誰かを好きになり出ていってしまった母が居る。
父から直接言われた訳では無く、親戚が話すのを聞いて、母の行動を知り、小学生の半ばで、既に愛情という存在の不確かさまでも知ってしまっていた。
継母も良い人だし、半分血の繋がる妹も可愛いが、家では落ち着かなさが抜けない。
ある意味では、諦めてしまっている。人の気持ちは変わる…って思ってしまう。
足立も、今は目新しい俺への感情に執着してくれてるかもしれないけど。
あれだけモテて、誰でも選び放題の彼だから…
他に好きな人が…と言われる覚悟をいつも持っている、それは、自己防衛にもなってて。
その時が来ても…落ち込んでしまわないよう。それでも、今2人でこうして居られる事は幸せだし、簡単には手放したくは無い。
さっきのお願い事は…そういう意味。
俺からは手放さないだろうけど、彼から…は分からないから。

ゆっくりと探索したのに、結構呆気なく出口に着いてしまう…寂しい気持ちが持ち上がる。
名残惜しい気持ちで、土産物屋に寄り、ふと目に入ったのは、金色の枠に彩りの綺麗なプラスチックのはめ込まれた、ステンドグラスみたいな、しおり。

「誕生日プレゼント、こんなのでいいの?」
って不満気な足立にコレが良いと強調した。お揃いで買って貰い、これなら、本が好きな足立に、いつでも使って貰える。
お揃いのしおりが俺の代わりに彼の側に居てくれるはず。

しおりをかざしてみると、その青や紫が、道路に模様を作る。
2人のを合わせると混ざった色になるのが、また、何とも言えず…2人で居るという今が感じられた。

帰りのバスでは、彼の肩を借りて、心地好くて…クゥクゥと寝てしまった。
そろそろ降りるよ…って彼が優しく起こしてくれた。
今日を忘れないよ、俺。
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