視線でバレてる?ー考察される僕らー

あさぎ いろ

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ハードな練習の日々

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半ば強制的な入部から、既に3週間が過ぎていた。
やっとのことで、1曲分……
かなりぎこちなくだけれど、ダンスの振り付けは覚える事が出来たと思う…多分。
ダンス番長の来琉らいるさんに言わせたら、全くダメだと言われるのだろうが。
毎日の過酷なまでのダンス練習の成果として、学習脳よりも身体が覚えてくれた。
でも、この日々が、不思議と嫌では無かった。
しんどいし、辛いし、あまりに出来なくて悔しかったりもしたけど、辞めるという選択肢は出てこくて。
僕なんかの可能性を信じて励ましてくれた深緑さんの存在が大きかったのかもしれない。

何度断っても、部活の時間になると、有無を言わさず、上からズボッと着せてくる深緑さんのオシャレでカッコいいジャージは、いつの間にか僕の物になっていた。

学校の先生が教えるダンスより、来琉らいるさんの教え方は、とても的を得ていて分かりやすい。
どこをどう動かしたら、カッコよく踊れるか。
動かす場所に連動する筋肉の場所がある事を知っていて、さすがコンテストの優勝者だと思った。
経験値の高さでもって、手の向きとか、ターンの仕方とか、ヘタクソな僕が成功へと向かう最短ルートを教えてくれる気がする。

そして、踊る中で感じたのは、差し迫る締め切り前の漫画家みたいな…異様な皆の空気。
なんか、焦燥感というか、目標があって、どこかへと向かっている?
でも、僕には、誰も教えてくれない…
かといって、疑問を口にする勇気も無いから、眺めるだけなんだけど。

「あと少ししか時間が…」
なんて、オリジナルの楽曲を作ってるというあおさんと深緑みろくさんが、時々話してるのを耳にして、あれ?と思ったのだ。

音楽担当の蒼さんだけは、ダンスの練習の途中で、どこかに抜けて行く。
もちろん、それについて、誰もとがめない。
たまに、思い付いたメロディーをスマホに吹き込んでいるのとか、めちゃくちゃカッコいい。
もう、なんていうか、仕事が出来るオトコって感じ…ちょっと憧れる。

僕はというと、ド素人丸出しで、当然ダメなとこだらけで、1フレーズ毎に、注意されていた。
でも来琉さんからの注意は、回数を重ねる毎に、少しづつ減っていった。

「悪くないよ。結構、力強いダンスをするのが意外だったけど」
ダンス番長からの言葉に
「すぃません」
なんて思わず謝ったら…

「いや、あのね、めてるんだけど?」
クスクス笑いながら言われた。
まさか、褒てくれるなんて思わなかったから、凄く嬉しかった。 ニヤけそうになる頬を、保つのに必死で、踊りを忘れそうになった。


部活後、ダンスをおさらいする俺に、寮に帰ってまで、付き合ってくれたのは、来瑠さんと深緑さんだった。
娯楽室は、誰でも使って良いのに、広いホールを使う人はなかなか居なくて、みんなは大体部屋で休んでいる。ラッキーとばかりに、Bluetoothスピーカーで、音楽を流しながら、身体を動かす僕。

二人とも、なんとか僕が踊れるようにと、代わる代わるにアドバイスをくれた。

厳しい言葉を浴びせる来瑠さんと、とにかく褒めまくってくれる深緑さん。
二人の飴と鞭にやられ、僕は終わりどころが分からず、ついには晩御飯を食べそびれた程。

「やってしまった…」

暗くなった食堂で呆然とする僕の腕を両側から引っ張るのは、深緑さんと来琉さん。
寮から歩いて5分のコンビニへ僕を連れて行ってくれた。

夜のコンビニは、世間知らずの僕には、ちょっと背伸びした感じで、ドキドキしたけど、グーグー鳴るお腹をさすりながら、パンとおにぎりを持ってレジへと向かった。

「648円になります」

店員さんに言われ、モタモタとお財布を開ける僕の後ろから、ニュッと出てきたスマホが、チャリーンと音を出し、会計を済ませてしまう。

「えっ?」
と振り向くと、深緑さんがニンマリ笑っていた

「払いますから!!」
「いいから、いいから!」
の押し問答をレジの前でやってたら

「はいはい、二人とも~邪魔だからね~」
と、来瑠さんに引っ張って行かれた。

そして、2人はというと
「「運動の後は、チッキ~ンだよ」」
なんて声を揃え、片手に2パック持ちした唐揚げを頬張りながら歩いていて、僕は、その2人の姿が可笑しくて、密かに笑ってしまった。

「おおっ!紫央が笑顔だ!初めて見た!なかなか可愛いじゃねぇかよ~」
来瑠さんに、見つかってしまった。ガシッと肩を組まれ、口に唐揚げを、1つ放り込まれた。

「モゴ…こういうの初めてで楽しくて…」

「お前、マジ可愛い過ぎる」
なぜか、深緑さんが顔を覆ってる。
正直に、言っただけなんだけどな…

練習後の3人コンビニ、笑顔で、星空を歩く僕ら。
普通の何でもない出来事なんだろうけど。
心のアルバムにずっと残しておきたいくらい、なんか、楽しかった。
中学では人見知りを理由にする弱い自分に負け、諦めた…部活動参加のチャンスを、強引にでも、僕に与えてくれた深緑さんに、改めて感謝をしていた。

僕は、そんな恩人に奢ってもらうのは、どうにも悪くて、寮の部屋に戻ってからも
「払います!」
何度も何度も言ったんだけど、深緑さんは、笑顔のガン無視で、聞き入れいてくれなかった。
意外と頑固だ…この人。

「それより、笑顔で可愛くありがとう!だろ?ほら、さっきみたいに笑って笑って」

仕方なく、笑おうとしたけど、してと言われてやるのは難しい…僕の表情筋は、上手く動いてくれなかった。

「こうやるんだよ」
最高得点の笑顔が、キラーンという効果音付きで、僕に向けられた。

「深緑さんのご尊顔スマイル…高額な感じがします」
「なんだよ、それ~(笑)ほらほら、紫央も!やってみろって」
「すいません、本当に勘弁してください」

こういうやり取りをしていると、フッと気付いたのだけど、僕は、割りと深緑さんとは、話せるようになってきてる。
学校では、相変わらずの極度の人見知りなのに。

同室なのもあるけど、毎日毎日、僕の世話を焼いてくれる深緑さんは、兄のようだと思った。

「深緑さんって、兄弟って…居ます?」
「あー?弟がいる。俺は長男よ」
だから、年下の扱いが上手いのかと納得した。

「紫央は?」
「僕は…一人っ子です」
「あ~、一人ね。なんか分かる気がする。いや、まぁ?これから、これから!な?」

「ちょっ、あの…なかなかひどいですね。フォローになってないですよ」
フッと笑ってしまった。

「おっと!!え、良いじゃん、紫央の不意の笑顔、俺、めちゃグッときた~!!」
胸に手を置いて、大袈裟にベッドに倒れてくれる。
僕の安い笑顔を、そんな風に喜んでくれるので、急に恥ずかしくなった。

結局、御礼を言ってなかった事を、寝る前に思い出したが、もう深緑さんからは、静かな寝息が聞こえている。

「晩御飯ありがとうございました」
寝ている深緑さんに言ってみたら…

「どういたしまして…おやすみ」 
手を挙げて前後に振ってくれる。
狸寝入りだったのか…
この人は、本当に…

思わず自然な笑みが漏れた…

ーーーーーー


「来週からは歌の練習が中心だよ。じゅんは、歌に関しては、もんのすご~く厳しいからな。そこは俺と変わらない思う…うん、もしくは、俺以上…かもな」

来瑠さんの言葉を聞いて絶句した。
嘘だろ…
潤さんもなのか…  

ダンス番長の次は、ボイス番長か?

そして、歌がダンスよりもっと苦手な僕は、本気で震えていた。
ついに解雇の時が来たのかな…なんて思っていた。

ついに、ボイストレーニングというか、歌のレッスンが始まってしまう。
意を決して、潤さんへと向かう
「先にお伝えしておきたいんですけど、僕は、驚く程に、歌が下手です…」

「そんな事は、知らん」
バッサリだった。
話す事が苦手な僕の、精一杯の言葉は、一撃で粉砕された。

「はい、じゃあまず、上向きに寝転んで~」
言われた通りに、床に仰向けで寝ると、静かに俺のお腹の上に乗った潤さん。

「しっかりお腹に力を入れて。あ~って、息が続く限りな。はい、どうぞ」

「ぁあぁぐぅ~ぁあ~」
蛙が潰れたような声が出る。

「ダメだよ、それは!喉が潰れるやり方!」
「声より、お腹に集中だって、言ったろ!バカなの?」
「そんな事も出来ないわけ?」

次々に罵声が浴びせられる。
そして、それは俺だけでない。
他のメンバーへも叱責しっせきが飛ぶわ飛ぶわ。
唯一、深緑さんだけには、少なめ。 
それは、ちゃんと出来ているからだろう。

「神楽、はいダメ~、失格~」
「いや、だってさぁ、俺はラップ担当で…はい、いえっ、すいません!やります!」
どっちが歳上だかわからない。
どうやら、凍えるような冷笑を向けられた神楽さんは、お腹に力を入れ直し、頑張っている。

天使みたいな見た目と声を持つ潤くんのギャップは、本当に凄かった。
鬼というか、悪魔というか…見た目が天使だから、堕天使?

言葉の矢の鋭さは、来瑠さんの比では無い。
これ…僕、本当に無理だと思う。

ここは鬼監督が指揮を取る野球部か?ってくらいの、毎日ハードな練習メニュー。

腹筋100回の後、来瑠さんのエンドレスダンスレッスン。
そして、メンタルも鍛えられる潤さんのボイストレーニング。

寮の部屋へ帰って、屍のようにベットに転がっていると…
「風呂はぁ?」
と、深緑さんが声をかけてくる。

「今、もう、僕は…1歩も動けません」
「紫央は、予想以上に頑張ってるよ。正直、逃げ出す可能性も五分五分かな…と思ってたんだよなぁ」

僕の汗まみれでベトベトの髪をくしゃりとするので慌てて起き上がり、少し距離を取って離れた。

「僕汗凄いんで、汚れますよ…手が」
「じゃ、早く風呂行ってこい、寝てるともっとしんどくなるし、身体を温めてほぐした方が良いよ…マッサージしてやろうか?」

手をモミモミしながら、近づいてくるその顔は、イタズラっ子みたいで。
絶対、普通のマッサージとかじゃない。
くすぐられるor痛みの悲鳴上がるヤツか。
なんかされる…予感しか無い。

「滅相も無いです!お風呂行きます」
僕は、立ち上がりヨロヨロと風呂へ向かった。

どっかりと風呂に浸かりながら、思う。
それにしても、僕自身が一番信じられ無いんだけど。
こんなにも、続くとは思ってなかった。
ギブアップするか、解雇されるかの2択だと思っていた。

それが、今や、毎日放課後は、急いで部活へと行っていて、誰も僕を追い出したりしない。

有難い事に、受け入れくれ、更には、出来の悪い僕を見放すんではなく、懇切丁寧に教えてくれる。   
まぁ、やり方は、ちょっと丁寧とは言い難いが。

なんだろ、出来る事が増えるのって、自信になるんだと思えてきてて。
前よりも俯く時間が減ったような…
勉強以外の事が、出来なくて悔しいなんて、生まれて初めて思ったかもしれない。

もっと皆みたいに踊りたいし、歌いたい…
仲間に入りたい…
そんな事を思う自分が現れるなんて、予想してなかった。
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