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入部決定?

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まさか、僕がパフォーマンスをする部活に入る日が来るなんて…今も信じられない。
目立つことを避けてきた事を、すっかり忘れていた。

結局は、深緑みろくさんの勢いに、僕が押し負けたということだろう。

まぁ、今後は分からない。
やっぱり、ダメだと、皆に呆れられ、引導を渡されるかもしれないから。

その可能性って、かなり大だと思うんだけど。

でも……
ほんの少しだけ、本当に少しだけ、やってみたいと思ったのは事実だった。
目立つ事なんて、大嫌いなのに、あの光り輝く中に、入りたいなんて、思ってしまった僕。

口には出さないし、出せないけど…

自分には絶対無理だと思うのに、繰り返し思い出してしまうステージで輝く5人。
あんな風に動けたり歌えたら、どんなにか幸せだろうかと。
勉強だけの僕とは、かけ離れた存在なのに。

憧れの気持ちだけは、どうにも消せなかった。

ーーーーーー

そして、僕の放課後の生活が一変した。

いつもなら、まっすぐ寮に帰って勉強を始めている時間に、今は…そう、なんと踊っているのだ。

机を前後に集め、真ん中を広くとった教室で。なんとなくどこかで耳にした事のあるアップテンポなダンスミュージックが流れている。 

「始めようと思うんだけど、まずその前に、紫央、そのダッサイ体操服は何だい?」
ダンス番長の来瑠さんから、ビシッと指差さしで言われた。

おしゃれに疎い僕は、いわゆる体操服…オマケに中学のジャージしか、部活用とかで使えそうな動きやすい服は持っていない。

格好悪いとか、そういう普通の感覚が鈍ってしまった僕に、改めて気付いてしまう。

思わずシュンと、俯いてしまった。

「まぁまぁ~明日は、俺の普通のヤツを着せてくるから、今日はダサジャージで勘弁してやってよ」
助け船を、出してくれたのは、深緑さん。

普通が、どういうものか分からず、本当に申し訳ない。
「すいません…僕、本当に…これしか持って無くて」

「いやぁ、そっか、うん了解!また深緑のを貰ったら良いさ。さぁーて、はい!皆っ!今日もビ~シバ~シいくよ」

どうやら、来瑠さんは、僕を哀れに思ったのだろう…さっさと話を切り替えてくれた。
そして、ひぇ~ビシバシ~!?という声が、方々で上がる。

一際背の高い神楽さんは、特に頭を抱えていた。
ボソリと、俺はラップ専門なのに…と言っているのが聞こえた。

神楽さんが引いてるのを見て、そもそも、ダンス番長の鬼レッスンを、ド素人の僕なんかに、最後までやりとげられるのか、一気に不安が加速した。

ダンスなんて、中学の体育の授業と体育祭での経験しかない。
それも、大勢の中の一人だから、なんとなく踊れれば良かったのに、簡単な振り付けを身体が覚えるまで、かなり時間がかかった記憶しかない。

「はい、タタタッ、トントン、ターン」

なるほど、ダンス番長は、感覚で教える人なんだな…
でも、踊りの名称を言われても全く分からないので、見て覚える事だけに全神経を集中させた。

何度も繰り返される来瑠さんの動きを必死に脳に貼り付ける。
記憶力だけは、いつも勉強で鍛えているんだから…と、自分を鼓舞した。

それでも、動きを眼で追うだけで、クラクラしてくる。

終わり!と号令がかかるまで、見よう見まねで、とにかく身体を動かし続けたけれど。
しかし、どんなに記憶力が良くても、それを脳から身体に伝達させるのは、また別物だと痛感した。

やっぱり向いてないとしか思えず、気持ちが落ちて、どんどん、しんどくなり、それにつられるように身体も重くなった。

動きが硬くなり、深緑さんに、結構な勢いでぶつかった。

すいません!と僕が言う前に
「大丈夫、頑張れ!」

と言ってくれ、背中をポンと叩いてくれる。

何度もそんな事が繰り返された。

失敗の度に、大丈夫!まだまだ!と声をかけてくれる。
深緑さんも汗が滴っている程、動いて動いて疲労しているのに、終始僕を気にかけ、励ましてくれた。
勧誘した手前なのかな…と思ったけど、それでけでは表せないほどの優しさを感じた。


「紫央、頑張れ!!」

深緑さんの直球の励まし、その言葉を胸の奥に張り付け、僕は毎日毎日、ダンス練習に励んだのだった。


今日も…
治る暇の無い筋肉痛で、痛い身体中をさすりながら、ヨロヨロとお年寄りみたいに歩く事しか出来ない僕。
なんとか放課後の部活の行われる教室に辿り着いた。

「意外なんだけど…紫央さぁ、体力だけは、めちゃくちゃあるよな…中学は、運動部だった?」
立ったままの休憩に入った時、肩で息をしている僕に来瑠さんが話し掛けてきた。

まだまだ全然、人見知りモード全開の僕は

「いいえ、帰宅部です」

ボソリと、そんな事しか言えなかった。

「あれ、紫央って、夕方ジョギングしてなかった?」
横から話しに入ってきた深緑さん。
まさか?!そんなの見られてたのかと、僕は驚いた。

僕は、勉強の気分転換として、夕方走るのを日課にしていたのだ。

中学の時も、実は走ることだけは好きで…
陸上部への入部届を書いたのに、極度の人見知りが邪魔をして、鞄の中の用紙を、いつまでも提出する事が出来なかった。

結局、皆が色々な部活へとチャレンジし、仲間との絆を深めつつ、楽しそうに過ごすのを見ては、その中には入れないと、諦めがついた一ヶ月後には、溜め息と共にゴミ箱へ捨てた。


「夕方になると部屋を出ていくから、気になってさぁ、何度かコッソリ追いかけたんだよ…走ってたよね?」

隠す必要もないので、事実を告げる

「気晴らしに、走ってます…毎日10キロだけですけど」
僕は、走るのが普通の事として答えた。


『『はぁ?10キロ!?』』

皆が声を揃えて、僕の方を向き、驚愕の顔をする。

そんなに…驚く事なのか、僕には分からず、ただ、コクと頷き、注目されるのが恥ずかしくなって、つと俯いた。


「紫央~俯かないよ、大丈夫だから、うちのメンバー皆、怖くない怖くない」

前を見ろとばかりに、顎を綺麗な人差し指で、クイッと持ち上げられた。

目の前の美しい瞳と目が合うと、やっぱり恥ずかしくなって、脱兎だっとのごとく逃げ出した。

教室の端っこまで行くと、冷静になり、失礼だったかも…と、振り向いたら、深緑さんは、クスクス笑っていただけだった。

良かった、怒らせてはいなかったみたい。

「俺の美貌に恐れをなしたらしい」
「よく言うよ」

そう返したのは、高音ボイスの潤さんだった。話す言葉すらも歌っているようで、つい耳を澄ましてしまう。

深緑さんと潤さんは、同い年だからか、なんとなく会話が気安い感じがする。
少し羨ましいと思ってしまった。

潤さんは、僕に話し掛けては来ないけど、決して無視されてるのとも違う。

それは、他のメンバーも同じで…

なんとなくだが、みんな、僕が極度の人見知りだということを知っていて、僕自身のタイミングを待っててくれているのかもしれない…と。

それを思うと、申し訳ない気持ちで一杯になった。

僕を見る皆の目は、決して冷たくは無い。

厳しさはあるけれど、優しさも感じる。


「そうか、その体力があるから…下手なりに最後までついてこれてるのか…マラソンかぁ、取り入れようかな…」

「まっ、待って待って!来瑠~それは、勘弁してくれよぉ」

本気で懇願してるのは神楽かぐらさん。

高身長で少しガッチリした体型の神楽さんと、スレンダーで姿勢がとても良い来瑠さんは、体格が対照的だったが、リーダーの来瑠さんの方が、強そうに見えるから不思議だ。


「今日はここまで!終了~」

ボスの来瑠さんから終了が言い渡されると、あちこちで安堵の声が聞こえた。

みんな、こんなにハードなダンス練習なのに、誰も文句は言わない。

とにかく来瑠さんに注意を受けた箇所を直していくだけ。

全幅の信頼を置いているように見えた。

僕も、タオルで汗を拭うと、寮へと向かった。さすがに、もう、走りに出かける元気は1ミリも残っていなかったので、お風呂へ直行した。

湯船に使っていると、深緑さん、潤さん、来瑠さんと…次々に、皆が入ってくる。

お風呂は寮生の共同なので、運動したばかりの皆が同じ時間になるのは、当たり前なんだけど。
そこまで考えていなかった僕は、失敗したと思っていた。

特にお風呂なんて、自らを晒す場所だから、なるべく人の少ない時間を選んでいたのに…

今日は疲れすぎていて、いつもの注意を払えなかった。

「あれ?ん?誰よ…え?え?!紫央じゃん、お前、前髪上げたら…実はめっちゃイケメン!少女漫画のあるあるパターンだ!」

潤さんが近付いてくる。

髪を洗ったばかりで、オールバックにしていた僕は、慌てて前髪を下ろした。

「なんだよ~隠すのかよ(笑)勿体ねぇな~」

「まぁ、俺は知ってたけどね」

「うーわぁー、深緑、ドヤ顔!」
深緑さんと潤さんが小突き合っている。


僕は、早々に風呂から上がった。
そのまま、ベッドに倒れ込むと、意識を手放した。

途中、夢か現実か分からなかったが、僕の髪をいて、髪濡れたまま寝たら風邪引くぞ…と、優しい声を聞いた気がした。
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