視線でバレてる?ー考察される僕らー

あさぎ いろ

文字の大きさ
上 下
3 / 15

入部決定?

しおりを挟む
まさか、僕がパフォーマンスをする部活に入る日が来るなんて…今も信じられない。
目立つことを避けてきた事を、すっかり忘れていた。

結局は、深緑みろくさんの勢いに、僕が押し負けたということだろう。

まぁ、今後は分からない。
やっぱり、ダメだと、皆に呆れられ、引導を渡されるかもしれないから。

その可能性って、かなり大だと思うんだけど。

でも……
ほんの少しだけ、本当に少しだけ、やってみたいと思ったのは事実だった。
目立つ事なんて、大嫌いなのに、あの光り輝く中に、入りたいなんて、思ってしまった僕。

口には出さないし、出せないけど…

自分には絶対無理だと思うのに、繰り返し思い出してしまうステージで輝く5人。
あんな風に動けたり歌えたら、どんなにか幸せだろうかと。
勉強だけの僕とは、かけ離れた存在なのに。

憧れの気持ちだけは、どうにも消せなかった。

ーーーーーー

そして、僕の放課後の生活が一変した。

いつもなら、まっすぐ寮に帰って勉強を始めている時間に、今は…そう、なんと踊っているのだ。

机を前後に集め、真ん中を広くとった教室で。なんとなくどこかで耳にした事のあるアップテンポなダンスミュージックが流れている。 

「始めようと思うんだけど、まずその前に、紫央、そのダッサイ体操服は何だい?」
ダンス番長の来瑠さんから、ビシッと指差さしで言われた。

おしゃれに疎い僕は、いわゆる体操服…オマケに中学のジャージしか、部活用とかで使えそうな動きやすい服は持っていない。

格好悪いとか、そういう普通の感覚が鈍ってしまった僕に、改めて気付いてしまう。

思わずシュンと、俯いてしまった。

「まぁまぁ~明日は、俺の普通のヤツを着せてくるから、今日はダサジャージで勘弁してやってよ」
助け船を、出してくれたのは、深緑さん。

普通が、どういうものか分からず、本当に申し訳ない。
「すいません…僕、本当に…これしか持って無くて」

「いやぁ、そっか、うん了解!また深緑のを貰ったら良いさ。さぁーて、はい!皆っ!今日もビ~シバ~シいくよ」

どうやら、来瑠さんは、僕を哀れに思ったのだろう…さっさと話を切り替えてくれた。
そして、ひぇ~ビシバシ~!?という声が、方々で上がる。

一際背の高い神楽さんは、特に頭を抱えていた。
ボソリと、俺はラップ専門なのに…と言っているのが聞こえた。

神楽さんが引いてるのを見て、そもそも、ダンス番長の鬼レッスンを、ド素人の僕なんかに、最後までやりとげられるのか、一気に不安が加速した。

ダンスなんて、中学の体育の授業と体育祭での経験しかない。
それも、大勢の中の一人だから、なんとなく踊れれば良かったのに、簡単な振り付けを身体が覚えるまで、かなり時間がかかった記憶しかない。

「はい、タタタッ、トントン、ターン」

なるほど、ダンス番長は、感覚で教える人なんだな…
でも、踊りの名称を言われても全く分からないので、見て覚える事だけに全神経を集中させた。

何度も繰り返される来瑠さんの動きを必死に脳に貼り付ける。
記憶力だけは、いつも勉強で鍛えているんだから…と、自分を鼓舞した。

それでも、動きを眼で追うだけで、クラクラしてくる。

終わり!と号令がかかるまで、見よう見まねで、とにかく身体を動かし続けたけれど。
しかし、どんなに記憶力が良くても、それを脳から身体に伝達させるのは、また別物だと痛感した。

やっぱり向いてないとしか思えず、気持ちが落ちて、どんどん、しんどくなり、それにつられるように身体も重くなった。

動きが硬くなり、深緑さんに、結構な勢いでぶつかった。

すいません!と僕が言う前に
「大丈夫、頑張れ!」

と言ってくれ、背中をポンと叩いてくれる。

何度もそんな事が繰り返された。

失敗の度に、大丈夫!まだまだ!と声をかけてくれる。
深緑さんも汗が滴っている程、動いて動いて疲労しているのに、終始僕を気にかけ、励ましてくれた。
勧誘した手前なのかな…と思ったけど、それでけでは表せないほどの優しさを感じた。


「紫央、頑張れ!!」

深緑さんの直球の励まし、その言葉を胸の奥に張り付け、僕は毎日毎日、ダンス練習に励んだのだった。


今日も…
治る暇の無い筋肉痛で、痛い身体中をさすりながら、ヨロヨロとお年寄りみたいに歩く事しか出来ない僕。
なんとか放課後の部活の行われる教室に辿り着いた。

「意外なんだけど…紫央さぁ、体力だけは、めちゃくちゃあるよな…中学は、運動部だった?」
立ったままの休憩に入った時、肩で息をしている僕に来瑠さんが話し掛けてきた。

まだまだ全然、人見知りモード全開の僕は

「いいえ、帰宅部です」

ボソリと、そんな事しか言えなかった。

「あれ、紫央って、夕方ジョギングしてなかった?」
横から話しに入ってきた深緑さん。
まさか?!そんなの見られてたのかと、僕は驚いた。

僕は、勉強の気分転換として、夕方走るのを日課にしていたのだ。

中学の時も、実は走ることだけは好きで…
陸上部への入部届を書いたのに、極度の人見知りが邪魔をして、鞄の中の用紙を、いつまでも提出する事が出来なかった。

結局、皆が色々な部活へとチャレンジし、仲間との絆を深めつつ、楽しそうに過ごすのを見ては、その中には入れないと、諦めがついた一ヶ月後には、溜め息と共にゴミ箱へ捨てた。


「夕方になると部屋を出ていくから、気になってさぁ、何度かコッソリ追いかけたんだよ…走ってたよね?」

隠す必要もないので、事実を告げる

「気晴らしに、走ってます…毎日10キロだけですけど」
僕は、走るのが普通の事として答えた。


『『はぁ?10キロ!?』』

皆が声を揃えて、僕の方を向き、驚愕の顔をする。

そんなに…驚く事なのか、僕には分からず、ただ、コクと頷き、注目されるのが恥ずかしくなって、つと俯いた。


「紫央~俯かないよ、大丈夫だから、うちのメンバー皆、怖くない怖くない」

前を見ろとばかりに、顎を綺麗な人差し指で、クイッと持ち上げられた。

目の前の美しい瞳と目が合うと、やっぱり恥ずかしくなって、脱兎だっとのごとく逃げ出した。

教室の端っこまで行くと、冷静になり、失礼だったかも…と、振り向いたら、深緑さんは、クスクス笑っていただけだった。

良かった、怒らせてはいなかったみたい。

「俺の美貌に恐れをなしたらしい」
「よく言うよ」

そう返したのは、高音ボイスの潤さんだった。話す言葉すらも歌っているようで、つい耳を澄ましてしまう。

深緑さんと潤さんは、同い年だからか、なんとなく会話が気安い感じがする。
少し羨ましいと思ってしまった。

潤さんは、僕に話し掛けては来ないけど、決して無視されてるのとも違う。

それは、他のメンバーも同じで…

なんとなくだが、みんな、僕が極度の人見知りだということを知っていて、僕自身のタイミングを待っててくれているのかもしれない…と。

それを思うと、申し訳ない気持ちで一杯になった。

僕を見る皆の目は、決して冷たくは無い。

厳しさはあるけれど、優しさも感じる。


「そうか、その体力があるから…下手なりに最後までついてこれてるのか…マラソンかぁ、取り入れようかな…」

「まっ、待って待って!来瑠~それは、勘弁してくれよぉ」

本気で懇願してるのは神楽かぐらさん。

高身長で少しガッチリした体型の神楽さんと、スレンダーで姿勢がとても良い来瑠さんは、体格が対照的だったが、リーダーの来瑠さんの方が、強そうに見えるから不思議だ。


「今日はここまで!終了~」

ボスの来瑠さんから終了が言い渡されると、あちこちで安堵の声が聞こえた。

みんな、こんなにハードなダンス練習なのに、誰も文句は言わない。

とにかく来瑠さんに注意を受けた箇所を直していくだけ。

全幅の信頼を置いているように見えた。

僕も、タオルで汗を拭うと、寮へと向かった。さすがに、もう、走りに出かける元気は1ミリも残っていなかったので、お風呂へ直行した。

湯船に使っていると、深緑さん、潤さん、来瑠さんと…次々に、皆が入ってくる。

お風呂は寮生の共同なので、運動したばかりの皆が同じ時間になるのは、当たり前なんだけど。
そこまで考えていなかった僕は、失敗したと思っていた。

特にお風呂なんて、自らを晒す場所だから、なるべく人の少ない時間を選んでいたのに…

今日は疲れすぎていて、いつもの注意を払えなかった。

「あれ?ん?誰よ…え?え?!紫央じゃん、お前、前髪上げたら…実はめっちゃイケメン!少女漫画のあるあるパターンだ!」

潤さんが近付いてくる。

髪を洗ったばかりで、オールバックにしていた僕は、慌てて前髪を下ろした。

「なんだよ~隠すのかよ(笑)勿体ねぇな~」

「まぁ、俺は知ってたけどね」

「うーわぁー、深緑、ドヤ顔!」
深緑さんと潤さんが小突き合っている。


僕は、早々に風呂から上がった。
そのまま、ベッドに倒れ込むと、意識を手放した。

途中、夢か現実か分からなかったが、僕の髪をいて、髪濡れたまま寝たら風邪引くぞ…と、優しい声を聞いた気がした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

主人公は俺狙い?!

suzu
BL
生まれた時から前世の記憶が朧げにある公爵令息、アイオライト=オブシディアン。 容姿は美麗、頭脳も完璧、気遣いもできる、ただ人への態度が冷たい冷血なイメージだったため彼は「細雪な貴公子」そう呼ばれた。氷のように硬いイメージはないが水のように優しいイメージもない。 だが、アイオライトはそんなイメージとは反対に単純で鈍かったり焦ってきつい言葉を言ってしまう。 朧げであるがために時間が経つと記憶はほとんど無くなっていた。 15歳になると学園に通うのがこの世界の義務。 学園で「インカローズ」を見た時、主人公(?!)と直感で感じた。 彼は、白銀の髪に淡いピンク色の瞳を持つ愛らしい容姿をしており、BLゲームとかの主人公みたいだと、そう考える他なかった。 そして自分も攻略対象や悪役なのではないかと考えた。地位も高いし、色々凄いところがあるし、見た目も黒髪と青紫の瞳を持っていて整っているし、 面倒事、それもBL(多分)とか無理!! そう考え近づかないようにしていた。 そんなアイオライトだったがインカローズや絶対攻略対象だろっ、という人と嫌でも鉢合わせしてしまう。 ハプニングだらけの学園生活! BL作品中の可愛い主人公×ハチャメチャ悪役令息 ※文章うるさいです ※背後注意

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

愛され末っ子

西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。 リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。 (お知らせは本編で行います。) ******** 上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます! 上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、 上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。 上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的 上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン 上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。 てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。 (特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。 琉架の従者 遼(はる)琉架の10歳上 理斗の従者 蘭(らん)理斗の10歳上 その他の従者は後々出します。 虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。 前半、BL要素少なめです。 この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。 できないな、と悟ったらこの文は消します。 ※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。 皆様にとって最高の作品になりますように。 ※作者の近況状況欄は要チェックです! 西条ネア

処理中です...