視線でバレてる?ー考察される僕らー

あさぎ いろ

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オープンスクールでの出会い

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「ここじゃない…どうしよう…」

暑くも無いのに、こめかみから汗が一筋流れ落ちてくる。
腕時計を見ると開始時刻まで10分しかない。
既に、一人で来たことを後悔してみたが、そもそも人見知りが酷くて、友人と呼べるのは、ほんの数人、その誰も、この高校を志望していなくて…
しかし、ネットで見ただけで志望校を決められる程の度胸もなく、結局一人で来て、まんまと迷子になっていた。

手元の案内書の地図を見ても、初めての場所は方向感覚が鈍る。
今、自分がどこに居るのかすら分からない。

もしかしたら、別の棟かもしれない、と思い始めた時、どこからか、人の声がした…

歌っているようだった。
その歌声は、深海のように深く澄んでいて…
聞き惚れている場合では無いのに、一刻も早くオープンスクールの会場へ行かなくてはいけないのに、立ち止まってしまった。

切実なる思いで、声のした教室の扉をガラリと開けた。
ノックせずに開けるという失態は、更に焦りを助長させた。

歌っていた人物は、キョトンとし、こちらを向いた。
その容姿たるや、産まれてからの15年間、見た事も無いほどの美貌。
芸能人ですら、ここまで整った顔の人は、居ないのでは無いかと思う程。
切れ長の大きな瞳に、通った鼻筋、少し大きめの耳は、形も美しい。

「どうしたの?」
彫刻みたいな男が、喋っている。
何か答えなくては!と焦るのに、ここで、いつもの人見知りが発動した。
一気に俯いてしまう。
それでも、扉を開いた理由を伝えなくて!と、言葉を振り絞った。

「あ、えっと、その、説明会、あの…」

「あー、オープンスクール?会場は、ここじゃないよ?迷子なの?」
僕は、なんとか伝わった事に、コクコクと、大きく頷いた。

彼は壁にかかった時計に眼をやった。
次の瞬間、僕の手は捕まれ、そのまま教室を飛び出した。

風が流れるように、廊下から中庭を横切り、一度も止まることなく[説明会]と張り紙が掛かった教室の前に。

「またね」
物凄いイケメンか気さくな笑顔を、残し、スルッと去って行った。

僕は、教室の中に入り、席に座ってから、御礼を言うのを忘れていたことに気付いた。

オープンスクールの説明会が終わった後、もう一度、彼が歌っていた教室を覗いたが、誰も居なかった。


ーーーーーー

僕は、驚愕し混乱もしていた。


なんとか受験に通ったこの高校は、都心部より少し離れた場所にある。
最寄りの駅からは、歩いて10分ほど。
一番の特徴は、寮があること。
男女共学で、偏差値の高い事で有名なここは、県外からの入学者が多く、その9割が寮生活を送る。
もちろん、男女の寮は別々で、校舎を挟んで両脇に建っている。理由は、何となく分かる。


そして、両手に荷物を持ち、自分の与えられた部屋をノックし、扉を開いて現れた人物を見て、驚愕した。

「ええっ!!!」
これは、僕の声では無い。

オープンスクールで、迷子の僕を助けてくれた救世主、そして、とんでもない美丈夫が、目の前に居る。

「あっ、え、あのっ、あの時、御礼言わず、すいませんでした、えっと…」
僕は慌てて、言葉を引っ張ってきた。

「あー?オープンスクールの案内の御礼か?そんなの、どうってこと無いから。入学出来たんだ、おめでとう!で、まさかのルームメイトなのか?」
「はいっ、あの、すいません。お願いします…」
言葉は尻つぼみになる。
思わず謝ってしまったのは、相手の顔面が良すぎたせいかもしれない。
そして、どうしても人見知りが発動してしまう。

「俺は陽口 深緑ひぐち みろく だよ」

「僕は…戸波 紫央となみ しおです」

自己紹介だけして、荷物を片付けている僕を気遣い、何度も声をかけてくれるが、極度の人見知りな僕は、上手く返せない。
そのうちに陽口先輩も、反応の薄い僕に話し掛けるのを諦め、自分の事をやり始めた。
その日は、僕のせいで終始無言だった。

二日目も三日目も、挨拶程度を交わし、あとは、なるべく距離を取った。
だって、上手く話せない僕は、居ても逆に迷惑を掛けそうで、タイミングをずらしながら、洗濯に行ったり、お風呂に行ったり。

外で夕焼けを眺めていると、不意に泣きそうになってくる。
僕は、どうして、こんなにも上手くやれないのだろうか。
陽口先輩も、呆れてるだろう。
こんなにもコミュニケーションの取れない人間が、寮生活なんて…と。

「あー、もう、なんで」 
思わず声が出た。

「なんで?」
後ろから声がした。
伊部先輩が、立っている。

「あっ、いや、僕、本当に人見知りで、すいません」
「うん、分かってる。てか、俺にはタメ口で良いんだけど?」
「いえっ!それは、絶対に無理です」

「そうか…残念なんだけど…ダメ?まぁ、いいや、慣れて行こうよ、ゆっくりな」
天使みたいに美しいのに、ヤンチャ坊主みたいな笑顔を貰った。

陽口先輩は、容姿の完璧さとは、裏腹に、結構イタズラっ子的な雰囲気がある。
学校で見かけた姿は、友達とふざけ合っていて、とても楽しそうだった。
コミュニケーションオバケとでも言うのか、とにかく周りを、輝くように明るい人達にかこまれていた。


世話焼きなのか…?
陽口先輩は、度々、声を掛けてくれる。
学校で会っても、手を振ってくれるのに、僕は俯いたまま、片手を挙げるだけ。
先輩とは対照的に、たった一人で歩いている自分を隠したくて深く深く俯いた。

本当なら、こんな僕は惨めに感じても良いくらい、僕と彼には格差があるのに、それを感じさせ無いのは、陽口先輩のキャラクターなのだろうか。


僕は、小学生の時、顔だけは良いのに、暗い奴だと、何人にも、からかわれた事がある。
顔だけ…と言われるのは腹も立ったが、だからといって、人見知りが治る訳でも無くて。
まぁ、当たってるもんな…と段々納得してしまった。

中学からは、前髪を伸ばし、ダテ眼鏡を掛け、自分の存在を消す事に尽力した。
人から容姿を、見られないように、気をつけ、いつも俯いていた。

とにかく勉強した。毎日毎日、目標となる高校を目指し、だから、僕に取ってのオープンスクールは、とても重要だったのだ。
そこで、助けて貰った恩は忘れていないのに、恩返し出来る事など1つもなくて、更に落ち込む。

ルームメイトの特典を生かして、お茶をあげるだけでも…と何度もチャレンジしたが、陽口先輩が勉強してる後ろをウロウロしてみたが…
邪魔にならないタイミングを測れず、もちろん渡せず…自分一人で飲むという、結局、気の使えない奴になるだけだった。
こんな、お茶を上げるだけのミッションすら、出来ない俺って、本当にポンコツだ。


顔だけとか、人見知りとか、そんな事は関係の無い世界へ行きたかったから。
でも、結局、偏差値の高い進学校を望んで入ったのに、勉強が出来るだけでは…毎日勉強するだけの日々って、楽しくないんだと気付かされただけ。

本当は、誰かと仲良くしたいと望んでいる事を心の奥に持っている事を知ってしまった。
 

ーーーーーーー

重たい気持ちで起き上がると、超絶イケメンと目が合った
「おはよ」
「うっ、おはようございます」
「あのさ、今日、新入生向けの部活紹介あるんよ、それで、俺も出るから見てね」
「はぁ」

何の部活なのかは聞く間も無く、ニヤッとする先輩は一足先に部屋から出て行った。


3時間目は、文化部、4時間目は運動部と…
各種、様々な部活の紹介が、体育館で行われるらしい。

陽口先輩の部活は、何なのだろう…
運動部っぽい感じはするけど、バスケとか、テニスとか、とにかく何でも似合うだろうな…と思った。

僕は、そもそも文化部か帰宅部に決めていた。
運動は苦手では、無かったけど、チームワークの要る物は、迷惑を掛けるだけなので、入ったとしても、個人種目のある部活かな…
なんて、思いながら、ぼんやりと観ていると…

突然、アップテンポの音楽がかかると、拍手と歓声が上がる。
いつの間に、幕が張られてたのか知らないが、えんじ色の幕が左右に引かれたと思ったら…
背中をこちらに向けた5人の男子が登場した。

キャーという声が、女子から上がった。あまりに高音の黄色い声に、僕は思わず耳を塞いだ。

その5人が音楽に合わせパッと前を向くと、真ん中に居たのは陽口先輩だった。

「えっ?」

軽快に踊りながら、素晴らしい歌声を響かせ、その5人は、今すぐにでもデビューした方が…というか、既に活動してるのでは無いかと思った程、完成されたダンスに歌声。
もう、目は釘付けだった。
アイドルとか、音楽とか、そういうのにあんまり興味の無かった僕ですら、すごいパフォーマンスだと分かるような、観る者全ての視線を、5人に貼り付けてしまう時間。

「俺たちは、パフォーマンス部だよ。いつでも入部希望、待ってるよ~審査はあるんだけどね。あと、ごめんね、男子限定でよろしく!」

バチコーンとウインクをキメた陽口先輩が笑顔で言うと、会場中から大大大拍手が湧き起こった。

あっという間の時間だった。
僕は、目に焼き付いた光景を、脳内で何度も繰り返し繰り返し再生した。

凄かった…
語彙力不足に情けなくなるが、とにかく凄かったのだ。
カッコよかった。
輝いていた。
完璧な低音ボイスで、完璧なダンスの陽口先輩。
名前は知らないけど、高音ボイスの人と、ラップが異様に上手い人、ダンスがキレッキレの人、特徴のある声の人。
誰が欠けてもダメな感じ、むしろ、これ以上、誰がが他の人が入る必要なんて無いであろう、完璧なグループに見えた。

入部募集の必要なんか無いだろ…
完璧じゃんか…
こんな人と偶然にも、同室になれた奇跡を神様に、感謝したかった。
それだけで、ここに入学した理由が出来た気がした。


部屋に戻ってからも、何度も舞台上で輝く陽口先輩を思い出していた。
パッと扉を開き…花束を抱えた、昼の主役が帰って来た。

「あげる」
サラっと花束を僕に渡そうとする。

「えっ、いや、貰えません」
瞬時にお断りした。

そっか…と言いながら、椅子に後ろ向きに座ると、背もたれな顎を乗せ、こちらを見た。
この仕草だけでも絵になる。

「どうだった?」
聞かれた僕は、興奮が戻ってきたみたいに早口になる
「あの、物凄くカッコ良かったです!!どう言ったら良いのか…僕はあまり芸術は分からないのですけど、とにかく感動しました!僕なんかが同室に居ても良いのかと思う程、別次元の人みたいで…説明下手ですいません」
久しぶりに、言葉を沢山吐き出したので、肩で息をする羽目になった。
話をし慣れない僕の精一杯の感動は、伝わっただろうか…

そう思っていたら、先輩はフッと微笑み
「結構喋れるんじゃん、紫央」

下の名前を初めて呼び捨てにされた事に、驚いたが、全く嫌な感じはせず、むしろ、不思議に気分が良かった。

「すいません」
「なんで、謝るんだよ」
「あっ、ごめんなさい」
「いや、だーかーらー(笑)」
荒っぽく頭をぐしゃぐしゃと、された。

「あれ?紫央さぁ…かなり顔立ち良いんじゃない?」
前髪をグイッと上げられ、思わず後ろに引いた。

「あっ、僕、ちょっとお風呂行ってきます」
こういう触れ合いにも慣れてないし、どう反応したら良いのか分からず、逃げた。

湯船に浸かりながら…
触れられた前髪が、すごく気になった。

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