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あの……私のせいで元気が無くなってしまいました?

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 革靴に靴べらを使いながら足を差し込むと、一気に私は女子高生になります。

 結ちゃんにそれを言えば、何それと言われてしまいそうで心の中で思うだけですが……例えば、初ちゃんとは友人の時間帯があり、幼なじみの時間があり、はたまた他人の時間もあります。

 月島家の娘さんである私が変化をするわけではないけれど、制服を着て外へと出た瞬間に周囲からは女子高生へと変貌をする……なんとも不思議な話です。

 でも、周囲から見た自分自身が月島柊の評価であるのならば、悪影響が出ないようにキッチリするのは当然のことだと言えましょう。

 世の中にたった一人自分自身が立っていて、独立して生活をしていける人間ならば、自分のことだけを考えて生きていけましょうが、まだ私は親の庇護下にあり社会から見れば未成年と呼ばれる、他の皆々様方から支えられて生きている人間……おんどりゃーと不良な行為をする気にもなれませんし、眉をひそめられる行動もしたくありません。

(ですが……恋人のフリとは言え同性同士でお付き合いの練習とはいささか不健全と言うべきでは?)

 差別意識などと仰々しいことを言うつもりはありませんが、父にも母にも……もしくは初ちゃんのお母さんお父さん……また、私の指導を取り持つ教師陣の方々にとって「今までみたことのない存在」であるとすれば、その印象は良き方向にも悪い方向にも差し向けられ、私たちが良い方向に向けと願うのはワガママというモノです。

 小さなころに溺れかけたことがあります――人がたんまりといたプール内で潜って遊んでいたら、身体がひしめきに差し込まれて浮かび上がれなくなったのです。

 水面や太陽は見えるのに、苦しくてどうしようもないのにどうにもならない状況に陥り、異変に気づいた母に身体を持ち上げられなかったらどうなっていたか……もしもの話です。

 でも、このもしもがいつだって私を臆病にしたり猜疑心を持たせてしまうのです……そんなこと考えてないわよ、と初ちゃんにはいつも言われます。

「おはようございます。一つ伺いたいのですが、先日のことは私の夢だったりするでしょうか?」

 結ちゃんとお話をしていたときにも怪訝そうな目を向けられていたので、それはつまり疑うに足る理由を彼女が持っていることに他なりません。

 つまりは、夢のような状況である……姉への信頼がなく嘘をついていると思われる、とも言えないではありませんが、嘘だと思ってるでしょう? とマジマジと告げるほど不出来な人間ではありません――疑われる自身にすべての原因があります。

「そ、それは……私に好きな人ができたということかしら?」

 私と視線を合わせずに泡を吹くような態度を示し、若干のたどたどしさを伴いながら言葉を吐き……昨日の告白が事実なのだとの実感を抱きました。

「いえ、お付き合いの練習というのがずいぶん夢のような話だったので」

 安心させるような口調を心がけながら、初ちゃんの常人よりも少し速いペースでの歩行に合わせます。
 幼なじみはこちらをチラリと見やり、考え事でもするようにジッと手先から脳天まで目線を動かすと。

「どうやら、私と練習することに不満はなさそうね」
「むしろ私で良いんですか?」
「目的を果たした後も後腐れなく、そのままの付き合いを続けてくれそうな幼なじみ……こっちが利用して悪いくらいよ?」

 学校へと近づくたびにお互いの距離が近くなった心持ちがします。たしかに昨日は普段通りではないイベントが起こったのだから、気持ちの整理を付けるのに四苦八苦するのも当然とは言えますが……。

 でもそこで様子を見るとかいったん距離を開くという選択肢を取らずに、歩いている間に小粋な話を一つして元通りになるんですから……初ちゃんの言うとおり、練習の後に彼女がお付き合いなさるとなって、幼なじみの関係に戻っても案外平気なのかもしれませんね。

「え、ええもちろんよ……ど、どうしてあなたを選んだのか理解してくれた?」

 先ほどの心象を詳らかに語ってみせると、初ちゃんは軽く口を開きながら、動揺を隠せずにいました。
 私が告白を前提でいるから逆に焦らせてしまったでしょうか? それとも、思いのほか難のあった私の理解力に対して言葉が出なかったのでしょうか?

 少なくとも幼なじみの関係性に戻っても何ら問題は無い、との部分は初ちゃんも私も同感であるので、

「はい。私が初ちゃんにとって都合の良い人材であったことに深い感謝です」
「や、役得の多い立場にいられて良かったわね……」
「あれ、どうしました!?」

 小さな段差に躓いた時みたいな苛立ちを軽いしかめっ面で表現されてますが、先述された表現には感心はあっても呆然を含むものは無かったはずです。

「あなたには何も悪いところはないのよ、強いて言えば……そうね……そう……なのよ」
「言葉にすることを躊躇うほどやばばなところでした!?」

 左手で顔を覆いながら、違うのよ……と何度も繰り返す姿は、どう考えても違わないんですが――いくら問いかけても「違う」というので私は諦めるほかないのでした。
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