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55 トレンタへの帰還

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 「これがスキュラの魔石だよ。割れちゃってるけどな」

 アルスが机の上に置いてギルド長のケヴェスンさんに見せる。あれからトレンタに戻ってきて、報告中だ。…って、ヴェンティでもやったやり取りだけど、魔石については、依頼元のトレンタのギルドに提出するように言われたのだ。

 「依頼は『調査』でしたけどね」

 ケヴェスンさんが苦笑する。

 「まあ、あの状況じゃ戦わざるを得なかったし」
 「そういえば報告の内容次第で、国から兵を出すって話もあったな」
 「兵を出すも何も。もちろん国の機関や役所の連絡網もありますが、馬車などよりは速いという程度ですよ。その連絡網で魔物確認の一報が届いたのは、すでにアマティアさんから魔物を倒したという連絡が来た後でしたから」

 イルダとアルスに、ケヴェスンさんが苦笑して言った。他の連絡網というと、伝書鳩のようなものだろうか。

 「確認と共に戦闘になって倒しちゃったしな」
 「しかし、カリュブディスがもしヴェンティの町に向かって来たらやばかったな。すぐにアマティアさんがここに連絡してくれても、それから王都に連絡して、すぐに出兵しても数日はかかるだろう」
 「わたくし達のパーティーと、すぐに駆けつけられるネレイスさん達、後は町にいる冒険者やわずかな警備兵の方達だけで戦う羽目になっていましたね」
 「正体不明の海中の魔物じゃあ、ネレイスさん達しか戦力にならなかったかも」
 「私達もそれほど数がいるわけではないですし…」

 私達が次々に言うと、ケヴェスンさんが頷いた。

 「それを考えて国、というか国王は冒険者ギルドとの連携と関係強化、また離れた所との連絡方法を考えているようですね」

 ケヴェスンさんが言うが、どちらも難しそうだ。国の兵士やその上の騎士はどちらかというとエリートで、それに対して冒険者は平民のならず者みたいな人達が多く、元々あまり仲が良くない。ケヴェスンさんが国じゃなくて国王、と言い換えたのも、反対意見が多いということだろう。

 「国とギルドの連携強化は難しそうだな。連絡方法の方も…ネレイスさん達の利用している地下の水路だって、どこにでも繋がっているわけじゃあないだろうし」
 「…そうですね」

 アルスにアマティアさんが答える。綺麗な水のあるところなら、どこでも移動できる、という怪しい人に心当たりがあるけど、まあ連絡役なんかやってくれないだろうし。

 「国とギルドの連携強化の件だけでなく、離れた所との連絡…出来たら双方向に通信できるような物を作れないかという話も僕のところに来ましたよ」

 ああ、ケヴェスンさんはギルド長だけでなく魔道具作成でも有名だから。

 「離れた所の人との間で話が出来るってか。魔法でなんとかなるんじゃないか?ユーカ、何か考えてみろよ」

 イルダが無責任なことを言う。

 「まあ、それはおいおい考えていくとして、あなた方に関係のある話もあります。王都の貴族の間では、あなた方に対して王族に取り入るのを面白くないと思う連中と、強い力があるなら無理矢理取り込んでしまえという連中で意見が分かれているようですね」
 「国王に取り入るつもりもないし、迷惑を掛けるつもりもないから、トレンタに来たんだけどな、面倒くさい」
 「あははは。貴族に力があるのは、生まれが貴族だからという理由だけですからね。生まれと関係なく力がある冒険者は、目障りなだけなのでしょう。今のところ、フレアさんのおかげで目立った動きはないようですが、そのうち何か言ってくるかもしれません」
 「フレアが?」

 アルスが聞く。フレアも首を傾げている。

 「フレアさんは教皇のお嬢さんですからね。フレアさんが一緒にいる限り、変な事はしないだろうと」

 ああ、パーティーの良心扱いなのか。実際そういうところはあるけど。

 「面倒くさいなあ。いっそのこと、ユーカが王城と貴族にファイアーをぶっ放して力を見せて黙らせた後、取り入るつもりはないとはっきり言ってくれば良いんじゃないか」

 イルダが無茶苦茶なことを言う。やはり良心(フレア)が必要なようだ。

 「…あ、そうだ、スキュラの言った事で一つ気になる事があったの」
 「ん?まだ何かあったっけ?」
 「一番初めに対面したときよ。『もう来たのか』って言ってたでしょ?」
 「そういえば、そう言って驚いていたような気がするな。…もしかして俺達が行くことがどこからか漏れていた?いや、それは無理か」

 私の疑問にアルスが言う。

 「考えたのですが、今回私達が行ったことではないのでは?」

 アマティアさんが言う。どういうこと?

 「ヴェンティの町は、漁業で有名ですが、外海に出るときの玄関口だとも聞きました。将来的に、『女神』があそこを通ってどこかに行くことを警戒していたのではないでしょうか」
 「なるほど、別の国か大陸か…」
 「…そこに、魔王かそれに近い存在がいると?」
 「…それも今後の調査要と、国やギルド本部にも報告しておきましょうか」

 …いつかまたカリュブディスと対峙することがあるかもしれないわね。


 「さて、これで今回の件は終わったし、しばらくのんびりするか」
 「ヴェンティでものんびりしてきたけどな」

 帰り道に、アルスにイルダが突っ込む。アマティアさんはさっさとコンラートさんの家に行ってしまったようだ。

 「まあ、良い所だったよ。特に食べ物が良かった。海の魚や貝はそのまま焼いても適当な塩味が付いていたし。まあ海の水はそのまま飲むにはちょっと味が濃かったけど」

 アルス、結局飲んだのか。

 「それとユーカはのんびりは駄目ね」

 いきなりポンという音と共に現れたスピカが、ビシッと私に指を突きつけて言う。

 「えっ」
 「あの『レーザー』もそうだけど、ぶっつけ本番の魔法は駄目。普段から新しい魔法を考えておきなさいよ。一日一魔法ね!」

 そんな無茶な。

 「そうだな、あと通信用の魔工も考えろよな」
 「そうだそうだ」
 「そうですね」

 みんな酷すぎる。…と思う。

**********

 「あはははは、それで逃げて来たんですね」
 「一日一つ考えるのは辛いわ…」

 次の休みの日、ケヴェスンさんの店兼工房に来ている。スピカの「魔法を考えろ攻撃」を毎日受けまくり、逃げてきたのだ。

 「しかし、ここに来たからには、通信のアイデアを考えてもらわないといけませんねー」

 何故かいるセリアさんが笑いながら言う。どうやら、まだまだ滞在する気のようだ。
 それにしても通信か…。双方向で使えそうなものとすると、電波を使った無線通信か、電気や光を使った有線通信しか思いつかないけど、どのみちこの世界ですぐに実現するのは無理だろう。理屈は本を読んだ事があるので知っているけど、実際に使うのには、技術的な問題が多すぎる。

 「魔法でそういうのはないんですか?」
 「聞いたことがありませんねー。あれば、魔力の流れを参考にして魔工の道具を作れるかも知れませんがー」

 ああ、そういうことが出来るのか。

 「何か思いつきましたか?」
 「…うーん、魔力自体を離れた所に送ることが出来れば、通信に使えるのじゃないかと思ったのだけど…」

 ケヴェスンさんに答える。単に電気や電波を魔力に置き換えて考えてみただけだけど。

 「ああ、魔工では魔力の流れを金属線で接続させますから可能ですね。金属線を引ける範囲になってしまいますが」

 やっぱり無線は無理か。

 「短い距離なら、金属線がなくてもいけるのですよー」
 「本当ですか?」

 セリアさんの言葉に、ケヴェスンさんも驚いている。

 「ええ、私は、魔力は波だと思うのですよー。波が空気中を伝わるのですよー」

 電波じゃなくて魔力波か。これは使えるかもしれない。
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