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身代わりのワケ
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攫われた日の翌朝…
「それでは、姫様。
早速…これよりは、わたくしが
姫様らしい立ち振る舞いを
ご教授致します」
と、右衛門佐が宣言し、
おはなの姫様修行が始まった。
右衛門佐の言った通り、
昨夜、人が寝静まった頃に、
右衛門佐の手引きにより、
大奥の中にある、
鶴姫様のお部屋に入ったおはな。
昨日、手違いで連れてこられた
お部屋もきらびやかであったが、
鶴姫様がお使いになられている
この部屋に連れてこられた
おはなは、絢爛豪華という
言葉が、しっくりくる程の
きらびやかなお部屋に
度肝を抜かされたのは
言うまでもない。
連れてこられた時に
通された部屋は
御広敷と呼ばれる部屋で、
ここまでは、特別に
許された者であれば
男性でも入れる事が出来た。
そして、おはなに
謝罪していた男性は
徳川綱吉公の側用人の
柳沢吉保…その人だった事を
おはなが知るのは、もう少し
先の話になる。
「姫様、よろしゅうございますか?
まずは、お言葉遣いを
お改め頂きます。
次に、立ち振る舞いやお作法を
学んで頂きます。
その後は…」
と、学習内容をペラペラ
喋り続ける右衛門佐の声が、
中々、頭に入らないおはな。
な、なんであたしが…こんな目に…
それにしても…当の鶴姫様ご本人は、
一体全体、どこで何してるの…
てか、なんで身代わりがいるのよ…
悶々と考えこむおはなの膝に、
右衛門佐の扇子が打ち込まれる。
「痛っっ」
おはなが、思わず声をあげる。
「姫様、わたくしの話…
聞いてらっしゃいましたか?」
右衛門佐がひきつった笑顔で尋ねる
…「ごめんなさい
ちょっと考え事をしてました」
恐る恐る答えるおはな。
「姫様…。姫様には、
申し訳ありませんが、
時間がないのです。
鶴姫様ご本人がお戻りに
なられぬ限り、姫様には
姫様の代わりをして頂かなくては
ならないのですから…」
右衛門佐が、頭を抱えるように呟く。
「あの…右衛門佐さま、
何故、あたしが身代わりに
ならないといけないのですか?」
そう尋ねるおはなに、
右衛門佐が、ふぅ…とひと息
ため息をついた後、
重々しく口を開く。
「…そうですね。理由くらいは
お伝えすべきでございました。
…まことの鶴姫様は、
お父上であられる上様はもちろん、
上様のお母上…お祖母様であられる
桂昌院さまにも溺愛されて
いらっしゃるのです。
それ故、紀州藩主綱教様に
お輿入れされた後も、
ここ江戸城大奥にて
過ごしていらっしゃいました。
…ですが、つい先日…
乳姉妹である鶴姫様付きの侍女と
いなくなられてしまったのです。
…この、書き置きを残して。」
おはなは、鶴姫様直筆の書き置きを
右衛門佐から差し出され、恐る恐る
その書き置きに目を通すと…
そこには、
『わたくしは、もっと
綱教様と共に
過ごしとう存じます。
それ故、この大奥を出て
綱教様のいらっしゃる
紀州に行って参ります。
どうか、連れ戻そうとは
なさらないで下さいませ』
と、書かれてあった。
「え、き、紀州…!?
姫様が…侍女一人と!?
む、無謀すぎます…」
つい、声に出てしまうおはな
「わたくしも、そう思いますわ。
そもそも、あまりお体も
お強くはありませんのに…。
ただ、江戸から紀州へ向かう道筋を
くまなく探させてはいるのですが、
一向に足取りが掴めないのです。
そのような所に、姫様を
探していた隠密が、姫様に
瓜二つの貴女様を見つけ
姫様と間違って…江戸城に
お連れしてしまった…
というわけなのです。」
と、右衛門佐が、益々
頭を抱えるように話す。
「そうだったんですね…。
というか…あたしは、そんなに
姫様に似てるんですか?
あたしは、ただの同心の
ムスメなのに…」
と、おはなが呟けば、
「ええ、瓜二つですわ。
わたくしも、驚きましたもの。
…それで、貴女様に
姫様の身代わりをお願い
した理由でございますが…。
上様が、鶴姫様の事を
殊の外、溺愛されておいでで…
今も、ご心配のあまり、
幾度となく、姫様のご様子を
お尋ねになられて…
姫様が失踪したと上様に
知られれば…わたくしや
柳沢吉保殿はもちろん、
多くの者の首が飛ぶのです。
…処刑されるという意味で。
それ故、貴女様に
まことの姫様がお戻り遊ばすまで
身代わりをお願いするしか
ないのでございます。
…貴女様も、貴女様が
身代わりを断ることで
幾多の人の首が飛ぶのは
嫌でございましょう…??」
と、脅迫じみた返事を返された。
それ…脅迫じゃない…
確かに…嫌だけど…
でも!!あたしには、
元々…関係ない話でしょう…!
と、心の中で、おはなは
憤慨するのでした。
「それでは、姫様。
早速…これよりは、わたくしが
姫様らしい立ち振る舞いを
ご教授致します」
と、右衛門佐が宣言し、
おはなの姫様修行が始まった。
右衛門佐の言った通り、
昨夜、人が寝静まった頃に、
右衛門佐の手引きにより、
大奥の中にある、
鶴姫様のお部屋に入ったおはな。
昨日、手違いで連れてこられた
お部屋もきらびやかであったが、
鶴姫様がお使いになられている
この部屋に連れてこられた
おはなは、絢爛豪華という
言葉が、しっくりくる程の
きらびやかなお部屋に
度肝を抜かされたのは
言うまでもない。
連れてこられた時に
通された部屋は
御広敷と呼ばれる部屋で、
ここまでは、特別に
許された者であれば
男性でも入れる事が出来た。
そして、おはなに
謝罪していた男性は
徳川綱吉公の側用人の
柳沢吉保…その人だった事を
おはなが知るのは、もう少し
先の話になる。
「姫様、よろしゅうございますか?
まずは、お言葉遣いを
お改め頂きます。
次に、立ち振る舞いやお作法を
学んで頂きます。
その後は…」
と、学習内容をペラペラ
喋り続ける右衛門佐の声が、
中々、頭に入らないおはな。
な、なんであたしが…こんな目に…
それにしても…当の鶴姫様ご本人は、
一体全体、どこで何してるの…
てか、なんで身代わりがいるのよ…
悶々と考えこむおはなの膝に、
右衛門佐の扇子が打ち込まれる。
「痛っっ」
おはなが、思わず声をあげる。
「姫様、わたくしの話…
聞いてらっしゃいましたか?」
右衛門佐がひきつった笑顔で尋ねる
…「ごめんなさい
ちょっと考え事をしてました」
恐る恐る答えるおはな。
「姫様…。姫様には、
申し訳ありませんが、
時間がないのです。
鶴姫様ご本人がお戻りに
なられぬ限り、姫様には
姫様の代わりをして頂かなくては
ならないのですから…」
右衛門佐が、頭を抱えるように呟く。
「あの…右衛門佐さま、
何故、あたしが身代わりに
ならないといけないのですか?」
そう尋ねるおはなに、
右衛門佐が、ふぅ…とひと息
ため息をついた後、
重々しく口を開く。
「…そうですね。理由くらいは
お伝えすべきでございました。
…まことの鶴姫様は、
お父上であられる上様はもちろん、
上様のお母上…お祖母様であられる
桂昌院さまにも溺愛されて
いらっしゃるのです。
それ故、紀州藩主綱教様に
お輿入れされた後も、
ここ江戸城大奥にて
過ごしていらっしゃいました。
…ですが、つい先日…
乳姉妹である鶴姫様付きの侍女と
いなくなられてしまったのです。
…この、書き置きを残して。」
おはなは、鶴姫様直筆の書き置きを
右衛門佐から差し出され、恐る恐る
その書き置きに目を通すと…
そこには、
『わたくしは、もっと
綱教様と共に
過ごしとう存じます。
それ故、この大奥を出て
綱教様のいらっしゃる
紀州に行って参ります。
どうか、連れ戻そうとは
なさらないで下さいませ』
と、書かれてあった。
「え、き、紀州…!?
姫様が…侍女一人と!?
む、無謀すぎます…」
つい、声に出てしまうおはな
「わたくしも、そう思いますわ。
そもそも、あまりお体も
お強くはありませんのに…。
ただ、江戸から紀州へ向かう道筋を
くまなく探させてはいるのですが、
一向に足取りが掴めないのです。
そのような所に、姫様を
探していた隠密が、姫様に
瓜二つの貴女様を見つけ
姫様と間違って…江戸城に
お連れしてしまった…
というわけなのです。」
と、右衛門佐が、益々
頭を抱えるように話す。
「そうだったんですね…。
というか…あたしは、そんなに
姫様に似てるんですか?
あたしは、ただの同心の
ムスメなのに…」
と、おはなが呟けば、
「ええ、瓜二つですわ。
わたくしも、驚きましたもの。
…それで、貴女様に
姫様の身代わりをお願い
した理由でございますが…。
上様が、鶴姫様の事を
殊の外、溺愛されておいでで…
今も、ご心配のあまり、
幾度となく、姫様のご様子を
お尋ねになられて…
姫様が失踪したと上様に
知られれば…わたくしや
柳沢吉保殿はもちろん、
多くの者の首が飛ぶのです。
…処刑されるという意味で。
それ故、貴女様に
まことの姫様がお戻り遊ばすまで
身代わりをお願いするしか
ないのでございます。
…貴女様も、貴女様が
身代わりを断ることで
幾多の人の首が飛ぶのは
嫌でございましょう…??」
と、脅迫じみた返事を返された。
それ…脅迫じゃない…
確かに…嫌だけど…
でも!!あたしには、
元々…関係ない話でしょう…!
と、心の中で、おはなは
憤慨するのでした。
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