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“トウキョウ魔女裁判”それはあまりにも残酷な事件だった。
魔女裁判に関わった職員から内部告発があった週刊誌の記事によると、総勢二百人もの女性が無実の罪で捕らえられ、拷問を受けたと記載されている。この水面下で行われている大規模な虐待は、日本政府主導の下、ある目的の為に行われている。
それは最後の魔女“オルギア”を探す為だった。
2030年、トウキョウ。
数百人の魔女達が行った“サバト”により一度は滅んでしまった東京だったが、懸命な復興により、今は名前を変え、かつての日常を取り戻しつつある。
サバトに集まった魔女達は特殊部隊“山羊”によって一掃された。しかし主導者の魔女“だけ”は未だ発見されていない。
現代における魔女とは違法麻薬“サクラメント”により、引き起こされる奇病“魔女病”にかかる女性の事を指す。
サクラメントの効果により、女性ホルモンは異常な分泌を起こす。ある時に発生する脳内の完全覚醒、それに伴う激しい興奮状態と、尋常ではない怪力が持続する。
そして、その先に最高のエクスタシーを体験できるのだ。
しかしサバト以降、政府によってサクラメントは完全に抹消され、もうこの世には存在しない。
魔女達を束ねるリーダーだった女性。彼女は“オルギア”と呼ばれており、彼女の生まれ持った特異な血液こそが、サクラメントの原材料に使われていた。
要は彼女自体が、違法麻薬サクラメントなのだ。
政府は……ザザザザ……
「あれ?おかしいな」
「映写機が壊れちゃったよ」
魔女についての授業を行っていた東京第二大学の講師、鷲尾 晴人(わしお はると)は古い映写機をバンバンと叩き、残念そうに頭を抱えた。
「先生。そんな古い機械を使ってるからですよ」
「今の時代に映写機って……ねぇ?」
講義室の一番前に座っていた、西山 理子(にしやま りこ)は、友人達と顔を見合わせて笑った。
「俺はアンティークが好きなんだよ。ロマンがあるじゃないか」
「知らないわよ、そんなロマンなんて」
「それより、まともに授業してもらえますか?」
「よし、良いか!お前ら」
「サクラメントを使ってセックスはするな!以上!」
大学の授業が終わり、晴人は映写機を抱えて職員室に戻った。
「晴人先生ぇ……そのような埃っぽい機械を持ち歩かれると困るんですが……」
「学生達からも授業の苦情が……」
同じ講師の影山(かげやま)が晴人に苦言を呈した。
「本当にロマンが分からん奴らですよ。アイツらは」
「いや、ロマンとかではなく……」
ドカっと映写機を影山の机に置いた晴人は、一冊の本を取り出し読み始める。
「本当に変わった人だ……」
そう呟くと、影山はトボトボと次の教室に向かった。
晴人が読んでいたのは、2025年に起こった魔女集会サバトについての本だった。彼は妹をサバトによって亡くしている。サクラメントにより暴走した妹を止められなかった自分を今でも責めている。だからこそ、彼は魔女オルギアに対して異常な執着心を持っていたのだ。
「サバトは魔女オルギアによって起こされた大規模なテロ事件だ……」
「魔女オルギアは、必ずまたサバトを起こそうと準備をしている」
「しかし、何故彼女は未だ見つからない?」
ブツブツと独り言を話し終えると、彼は机にあったミルクコーヒーを一気に飲み干し、白衣に袖を通すと、スタスタと大学を出た。
彼が向かった先は大学に隣接された病院だった。
「切子(きりこ)ちゃん、こんにちは」
「鷲尾先生……こんにちは」
「調子はどうだい?」
「えぇ……とても良いわ」
ベッドに座り、笑顔で応える白髪の少女は、桜山 切子(さくらやま きりこ)ある理由で大学病院に入院する十八歳の女の子だ。
「今日も少し……もらうね」
「わかりました」
彼女は特殊血液の持ち主で、体内にはシルクの様な真っ白な血液が流れていた。
“アルビオンブラッド”と呼ばれるその血液が、研究者の間では魔女病に有効とされる投薬に役立つと噂されていた。
“ホワイト・ウィッチ(白の魔女)”誰が名付けたかは知らないが、研究者の皆からは彼女はそう呼ばれていた。
「あ、痛っ……」
「あ!ごめん、痛かった?」
「ふふふ、冗談です」
注射器を持つ晴人は彼女の演技に騙され、一瞬戸惑った様子を見せる。それを見て切子は子供の様に笑う。
これは彼らにとって、毎回のルーティンになっていた。
「よしっと、今日は15mℓもらうね」
「先生……ごめんね」
「ん?」
「私のお姉ちゃんのせいで……」
「うん……いや、切子ちゃんは悪くないよ」
「俺がきっとお姉さんを探してあげるよ」
切子は晴人の目を見て、うん、と頷いた。
「ガチャ……」
「鷲尾先生!ここにいたんだ!」
「西山さん?」
先程授業を受けていた西山 理子が息を切らし病室に飛び込んで来た。
「西山さん、一体どうしたの?」
理子は息を整え、晴人を見てこう訴えた。
「友達の湊(みなと)がいきなり暴れだして……」
「先生、助けて!」
ラスト・ウィッチ(1)終
魔女裁判に関わった職員から内部告発があった週刊誌の記事によると、総勢二百人もの女性が無実の罪で捕らえられ、拷問を受けたと記載されている。この水面下で行われている大規模な虐待は、日本政府主導の下、ある目的の為に行われている。
それは最後の魔女“オルギア”を探す為だった。
2030年、トウキョウ。
数百人の魔女達が行った“サバト”により一度は滅んでしまった東京だったが、懸命な復興により、今は名前を変え、かつての日常を取り戻しつつある。
サバトに集まった魔女達は特殊部隊“山羊”によって一掃された。しかし主導者の魔女“だけ”は未だ発見されていない。
現代における魔女とは違法麻薬“サクラメント”により、引き起こされる奇病“魔女病”にかかる女性の事を指す。
サクラメントの効果により、女性ホルモンは異常な分泌を起こす。ある時に発生する脳内の完全覚醒、それに伴う激しい興奮状態と、尋常ではない怪力が持続する。
そして、その先に最高のエクスタシーを体験できるのだ。
しかしサバト以降、政府によってサクラメントは完全に抹消され、もうこの世には存在しない。
魔女達を束ねるリーダーだった女性。彼女は“オルギア”と呼ばれており、彼女の生まれ持った特異な血液こそが、サクラメントの原材料に使われていた。
要は彼女自体が、違法麻薬サクラメントなのだ。
政府は……ザザザザ……
「あれ?おかしいな」
「映写機が壊れちゃったよ」
魔女についての授業を行っていた東京第二大学の講師、鷲尾 晴人(わしお はると)は古い映写機をバンバンと叩き、残念そうに頭を抱えた。
「先生。そんな古い機械を使ってるからですよ」
「今の時代に映写機って……ねぇ?」
講義室の一番前に座っていた、西山 理子(にしやま りこ)は、友人達と顔を見合わせて笑った。
「俺はアンティークが好きなんだよ。ロマンがあるじゃないか」
「知らないわよ、そんなロマンなんて」
「それより、まともに授業してもらえますか?」
「よし、良いか!お前ら」
「サクラメントを使ってセックスはするな!以上!」
大学の授業が終わり、晴人は映写機を抱えて職員室に戻った。
「晴人先生ぇ……そのような埃っぽい機械を持ち歩かれると困るんですが……」
「学生達からも授業の苦情が……」
同じ講師の影山(かげやま)が晴人に苦言を呈した。
「本当にロマンが分からん奴らですよ。アイツらは」
「いや、ロマンとかではなく……」
ドカっと映写機を影山の机に置いた晴人は、一冊の本を取り出し読み始める。
「本当に変わった人だ……」
そう呟くと、影山はトボトボと次の教室に向かった。
晴人が読んでいたのは、2025年に起こった魔女集会サバトについての本だった。彼は妹をサバトによって亡くしている。サクラメントにより暴走した妹を止められなかった自分を今でも責めている。だからこそ、彼は魔女オルギアに対して異常な執着心を持っていたのだ。
「サバトは魔女オルギアによって起こされた大規模なテロ事件だ……」
「魔女オルギアは、必ずまたサバトを起こそうと準備をしている」
「しかし、何故彼女は未だ見つからない?」
ブツブツと独り言を話し終えると、彼は机にあったミルクコーヒーを一気に飲み干し、白衣に袖を通すと、スタスタと大学を出た。
彼が向かった先は大学に隣接された病院だった。
「切子(きりこ)ちゃん、こんにちは」
「鷲尾先生……こんにちは」
「調子はどうだい?」
「えぇ……とても良いわ」
ベッドに座り、笑顔で応える白髪の少女は、桜山 切子(さくらやま きりこ)ある理由で大学病院に入院する十八歳の女の子だ。
「今日も少し……もらうね」
「わかりました」
彼女は特殊血液の持ち主で、体内にはシルクの様な真っ白な血液が流れていた。
“アルビオンブラッド”と呼ばれるその血液が、研究者の間では魔女病に有効とされる投薬に役立つと噂されていた。
“ホワイト・ウィッチ(白の魔女)”誰が名付けたかは知らないが、研究者の皆からは彼女はそう呼ばれていた。
「あ、痛っ……」
「あ!ごめん、痛かった?」
「ふふふ、冗談です」
注射器を持つ晴人は彼女の演技に騙され、一瞬戸惑った様子を見せる。それを見て切子は子供の様に笑う。
これは彼らにとって、毎回のルーティンになっていた。
「よしっと、今日は15mℓもらうね」
「先生……ごめんね」
「ん?」
「私のお姉ちゃんのせいで……」
「うん……いや、切子ちゃんは悪くないよ」
「俺がきっとお姉さんを探してあげるよ」
切子は晴人の目を見て、うん、と頷いた。
「ガチャ……」
「鷲尾先生!ここにいたんだ!」
「西山さん?」
先程授業を受けていた西山 理子が息を切らし病室に飛び込んで来た。
「西山さん、一体どうしたの?」
理子は息を整え、晴人を見てこう訴えた。
「友達の湊(みなと)がいきなり暴れだして……」
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