熊さんちのすずらん姫

べす

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25、【その頃の魔界4】魔王視点

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「では、禊も終わった事ですしレンファを連れて参ります。」
「いや、待て待て。何故そうなる!」

折角公爵の息子を人間界に逃したというのにこれだ。

自分の若い頃そっくりのシュゲルクが颯爽と扉へと向かうのを制し、私は眉間に皺を寄せる。
公爵の息子は魔界で奇跡の精霊姫という訳わからん通り名で呼ばれる程美しく、シュゲルクの様に周りの事などお構い無しに迫る者も少なくない。

それもこれも王宮の夜会に勝手に息子を連れてきた公爵のせいなのだが…、まぁ今更それを言っても仕方なかろう。

あれは自慢したくもなる美貌だ。
しかしそのせいで我が息子はすっかり変わってしまった。

シュゲルクは元々何にも執着しない、冷静で理知的な王子だった。
おまけに魔力も武力も私に次ぐ力を持ち、このまま成長すれば次期魔王はシュゲルクだろう…と私達も貴族達も思っていたのに。

あの夜会以来、シュゲルクは公爵の息子に夢中で、すっかり恋に溺れる愚か者に成り下がってしまった。

これで公爵の息子が純粋な精霊族の様に振る舞っていたのであれば王子を悪戯に誑かしたとして罪を問い引き剥がすことも出来たが、公爵の息子は魔族の血のせいかそのような気質は殆どない。

『強いて上げるなら甘えん坊で素直な所が妻に似ている』…なんて公爵がデレデレと惚気ていたが、それは精霊族特有のものではなく本人の性格だろう…
しかもその公爵の息子はシュゲルクには何の興味も無いのだ。

いくらシュゲルクがアピールしても全く靡かず、せいぜい仲の良い部下…良くて友人だろうか。
だからこそ珍しくも執着を見せるシュゲルクに、暫くは見守ってみようと口を出さずにいた。
それなのに、シュゲルクは公爵家の面々以外に公爵の息子と親しいのは自分だけだと押せ押せで迫り、まさかの強姦もどき事件にまで発展してしまった。

あれには参った。
いくら合意とは言え、相手を傷付け泣き叫ぶ程の目に合わせるなど…以前のシュゲルクからは考えられない愚行だ。

これには公爵家の面々だけではなく、公爵の息子を気に入っていた王妃も激怒し、あまりの聞き分けのなさに後に自らシュゲルクを縛刑に処した程だ。

そして私にはもう一つ、最近になってシュゲルク関係で更に悩み事が増えている。

「この様子では、シュゲルクに侯爵の娘をあてがうのは絶望的であろうな…」

前々から侯爵からそれとなくどうかと薦められていた縁談。
最近になって更に侯爵が執拗くせっついてくるのだ。
侯爵の長女は容姿こそ公爵の息子には劣るが、魔力、武力共にかなりのもの。
王家としては申し分ない相手である事は確かだが…

「あの娘は気性が荒くかなり傲慢な所がありますからね。おまけに多情だと言うではありませんか。いくらシュゲルクの子を…と言ってもあの娘は嫌です。可愛いレンファを見た後では尚更。もしどうしてもと仰るなら、イクスの妃になさったら宜しい。あの子は既に何人も愛人が居りますし、次期魔王の地位からも遠い。今更妃が増えようが構わないのではなくて?」

王妃はこう言って断固として認めない。
ちなみに何故同じ息子である第二王子のイクスなら構わないと言っているのかと言えば、王妃は多情な者が大嫌いだからだ。
一夫一妻主義、側妃も決して認めない。
まぁこうして王子も何人も生まれ、わざわざ諍いの火種になる可能性がある側妃を娶る意味も無いのでそれは構わないのだが。

しかし王妃は知っているのだろうか、イクスが妃を娶らないのは公爵の息子を想っているからだと言う事を。
まぁ知っていて遠回しに諦めよと言っているのだろうな…。
王妃もシュゲルク同様公爵の息子をかなり気に入っているし…。

「シュゲルク!あなたは次期魔王として、男の妃は認められませんよ!それにあれだけわたくしの可愛いレンファを泣かせておいてよくもまぁ懲りずに連れてくるなどと言えたものです!レンファはレベンゾの妃になるのですから、横槍はおよしなさい!」

レベンゾとは第一王子で、かなり大柄な体格で魔族にしては穏やかな性格で口数が少ない。
第二王子とは正反対で女性関係も全く問題ない…と言うか本人が奥手過ぎてその手の事に縁がないのだが、王妃はそこを重視している様だ。

王妃曰く、「シュゲルクが相手では女性からの要らぬ嫉妬を買い、家臣からは子が成せぬ事で余計な心労を与えられるでしょう。その点レベンゾであれば誰からも煩わされず穏やかに過ごせます。レベンゾはシュゲルク程煩くないでしょうし、わたくしも可愛いレンファを好きなだけ愛でる事ができますわ!」と言う事だ。
完全に自分都合である。

「母上、何を仰られているのです。レベンゾがレンファと懇意にしている所を見たことがお有りか?私が傷付けてしまったとは言え、レンファは私に身を任せてくれる程の深い絆があるのですよ。それに私に子など不要。レンファに似た子で無いのなら、私の血を継いだ子などレンファを奪い合う敵でしかない。それに、私はレンファ以外は勃ちませんよ。縛刑の最中何度か不届きな令嬢に媚薬を盛られ夜這いされましたが、全く反応しませんでしたので。まぁどっちにしろ鎖のせいで行為など出来ませんでしたがね。」

ハハハハと笑うシュゲルクだが、目が全く笑っていない。
どうやら縛刑で制限されていたせいか、レンファへの想いが募り過ぎ頭が可笑しくなって居るようだ。

それからシュゲルクは暫く王妃と言い争っていたが、埒が明かないと思ったのかさっさと転移で城から出て行ってしまった。

暫くして非常に面倒な事にシュゲルクの解放を聞きつけ侯爵が娘とシュゲルクとの面会を求め登城して来るのだが、私は怒る王妃を宥めるので必死でそれどころではなかった。
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